米インディ魂の進化形

クラウド・ナッシングス『ザ・シャドウ・アイ・リメンバー』
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ALBUM
クラウド・ナッシングス ザ・シャドウ・アイ・リメンバー

今回もすっきり、ストレートにギターがかき鳴らされながら身近に迫ってくる音が痛快極まりない。オハイオ州クリーブランドのベテラン、オルタナ・パンク・バンド、クラウド・ナッシングスの新作は、グループの代表作とも言える『アタック・オン・メモリー』(12年)を手がけて大成功したスティーヴ・アルビニと組んだもので、冒頭の“Oslo”から、彼のシカゴ、エレクトリカル・オーディオ・スタジオならではの、スタジオ全体で悲鳴を上げるかのような生々しいギターが響き渡り引き込まれる。

かつて18歳(09年)のディラン・バルディが、自身のPCで楽曲制作、ネットでアップして評判となりクラウド・ナッシングスとしてデビュー、ジーザス・リザードフガジ、ハスカー・ドゥ、ソニック・ユースといった80、90年代のアメリカ、インディ/オルタナ・シーンの中でもハードコアな活動姿勢を持ったグループの影響を感じさせるローファイ、グランジーな要素を前進させた音で、そのキャリアを積み上げてきた。

今回はそうした歴史を踏まえつつ、10年以上にも及ぶツアーの経験や初期の曲作りへの回帰を意識したり、最初にレコーディングしたスタジオを再訪するなど、何かと記念碑的なアプローチを備えたものとなっているが、とはいえ聴いている分には、感傷的な要素や特別なルッキング・バック的方向性があるわけではなく、ただただ気持ちいいまでのスピード感に包まれる。ここでは11曲が収録されているが、最初は30曲近くのデモがあり、そこから厳選されたものだというから、楽曲的にも無駄な部分がそぎ落とされ、磨き込まれているからこその明快さがある。

変わることのないグループの中心ディラン・バルディは、自身やバンドの居場所を探り続ける姿をアルバムに先立って先行リリースされた“Am I Something”の、死後ともSF的とも思えるMVの中でさらけ出したりもしているが、それすらもシリアスになりすぎることなく、ポップなロック・アンサンブルの中でテンポ良く展開されていく。

殆どが3分タイプのナンバーで、サウンド的にもスタジオ・ライブ状態が多いのだが、それが逆に曲の良いところや引き締まった演奏の魅力をしっかりと伝えてくれている(ここらはアルビニの貢献も大きい)。バルディは、ここ数年間で一番楽しかった経験だったと言っているが、2曲目の“Nothing Without You”ではシカゴのデュオ、Ohmmeのメイシー・スチュワートをゲスト・ボーカルに迎えたりするような開かれた姿勢が、アルバム全体の風通しの良さとなっている。(大鷹俊一)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』3月号に掲載中です。
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クラウド・ナッシングス ザ・シャドウ・アイ・リメンバー - 『rockin'on』2021年3月号『rockin'on』2021年3月号
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