2021年、ロックの実験

ヴァンパイア・ウィークエンド『40:42』
発売中
EP
ヴァンパイア・ウィークエンド 40:42

19年の『ファーザー・オブ・ザ・ブライド』はヴァンパイア・ウィークエンドがエズラ・クーニグのソロ・プロジェクトへと移行した結果、外部ミュージシャンとのコラボレーションによって音楽性をさらに拡張したアルバムだった。本EPは同作に収録されている“2021”のリミックス/ジャム・セッションが20分21秒ずつ2バージョン聴けるもので、『ファーザー~』以降のヴァンパイア・ウィークエンドのユニークな立ち位置を見事に示している。

リミキサーのひと組目は、『ファーザー~』にも参加していたプロデューサー/サックス奏者のサム・ゲンデル。彼が昨年リリースした『サテン・ドール』はエクスペリメンタル・ヒップホップを通過した音響感覚でスタンダード・ジャズを大胆にリアレンジした驚嘆すべき作品だったが、ここでもまさに空間を自在に歪曲させるように魔術的なエディットを披露している。アンビエントとジャズとフォークがグニャグニャと混じり合うような展開は妖しいまでに陶酔的で、スリリング極まりない。

2組目は、コネチカットのファンク・フォーク・バンドのグース。原曲の歌を丁寧に拾う序盤から情熱的なジャム・セッションへと突入していく中盤へと至り、優しいアンビエント・ポップで終えるスケールの大きさに圧倒されるバージョンだ。野外フェスで聴いたら絶対に気持ちいいだろうオーセンティックなサイケデリック・ロック感覚がありつつ、音響意識がモダンなところがニクい。

アメリカン・ロックの過去と現在と未来が同時に存在しているようだった『ファーザー~』の野心を、1曲のリアレンジの広がりで再現したような企画である。結果、ヴァンパイア・ウィークエンドの音楽的な懐の深さが証明されている。(木津毅)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』4月号に掲載中です。
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ヴァンパイア・ウィークエンド 40:42 - 『rockin'on』2021年4月号『rockin'on』2021年4月号
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