恍惚を誘う音像から絶えず滲み出る哀愁、つんのめるかのようなイレギュラーなフレーズを経て突入する美メロのまぶしさ、熱とやるせなさが入り混じったビート――これらが多彩な色合いを浮かべながら渦巻いている本作を、自分のために書き下ろされた音楽であるように感じるリスナーは、少なからずいるのでは? たとえば、“ゲゲゲ”“ GHOST WORLD”“大東京万博”など、日本古来のエッセンスである音頭、民謡を添加した曲たちは、災厄と恵みをランダムに与えてくるお天道様に翻弄されながらも、したたかに生きてきた先人たちの気配をふと感じさせてくれる。平穏な生活を阻む数多の苦難、正体はよく見えないものの確実に未来像を曇らせる不安と向き合いつつも、そこそこ元気にこの世で生きている自分の姿を重ねたくなる曲たちだ。悲しがってばかりはいられず、能天気に笑ってばかりもいられない日々の中で正気を保ちながら生き抜きたい人間にとって、音のイタズラ、とぼけた言葉を随所に散りばめつつも、鮮やかな音の構築美を実現しているこのアルバムは、心強い味方のように感じられると思う。(田中大)
「あの世」の気配が示す「この世」
Tempalay『ゴーストアルバム』
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