エヌの解放

ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ『バック・ザ・ウェイ・ウィー・ケイム:Vol 1( 2011 - 2021)【 完全生産限定盤】』
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ALBUM
ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ バック・ザ・ウェイ・ウィー・ケイム:Vol 1( 2011 - 2021)【 完全生産限定盤】

ノエル・ギャラガーがハイ・フライング・バーズを率いてソロ・キャリアに乗り出してからの10周年を記念するベスト・アルバム。あの衝撃的なオアシス解散の後、ひたすらマイペースを貫きながら、絶賛を一身に集めてきたノエルのソロ活動が早くも10年を迎えるというのはとても感慨深い。そして、その感慨を見事に凝縮させているのがこのコンピレーションの内容となっている。

ノエルのこれまでの道程では、アルバム3枚とEPで、それぞれに鮮烈過ぎるほどに新しいアプローチを打ち出していただけに、アルバムごとに実にドラスティックな進化を遂げてきたといってもいい。その道筋を凝縮してみせたのが今回の内容で、それは見事過ぎるほどに、ノエルの進化と彼が探ってきた方向性をわかりやすく、コンパクトにひもとくものになっている。そこにさらに、このソロ活動の間に書かれていた楽曲を発掘し、見事な新曲として加えてみせるという、実にファン・サービスにも富んだベスト・アルバムになっている。

基本的に今回のベストは内容的にディスク1と2に分けていて、このアナログ的な分け方もまた、とてもわかりやすくこの10年のノエルの歩みを伝えるものになっている。つまり、ディスク1ではオアシスと地続きな自分の楽曲世界の、最も理想的な鳴らし方を模索。そこからスタイル的に触手を限りなく伸ばしていき、自身の興味やインスピレーションの赴くままに作品世界を膨らましていく過程が、楽曲の並びとしてとてもわかりやすく聴き取れる内容になっている。

その一方で、ディスク2には『フー・ビルト・ザ・ムーン?』以降の楽曲を収録している。これは要するに、ディスク1で聴かせた、自身の音楽性がスタイルやリズム面でどこまでも豊かになったことを踏まえて、あえて試みた大きな飛躍を凝縮したものということ。

そして、なによりもすごいのは、こうした際立った楽曲の性格やアプローチの違いが異質なものとしてぶつかり合っていないところだ。特にこうやって順を追って聴いていくと、曲がどんどん次の曲の進化を要求していたようで、ディスク1からディスク2へと至る大きな変化が必然だったとしか思えてこないし、それがこのコンピレーションが伝える圧倒的な充実感の内実なのだ。

ディスク1の冒頭はオアシスを念頭に書いていた楽曲群を完全ノエル仕様へと変えることで獲得した、圧倒的なダイナミズムの衝撃を聴かせ、その後はグルーヴとファンクネスを獲得したことでおそろしいほどまでに楽曲に質感と厚みが加わっていくのを体感できる。そしてディスク2は、完全に閃きだけに身を任せて形にした楽曲群があり、それはどこまでもノエル的でありながら、自身が受けてきた数々の影響が絶妙に鳴り響くものとなっているところが感動的でさえある。

また、今回の新録曲はディスク1とディスク2をそれぞれ締め括っていて、特にディスク2の“フライイング・オン・ザ・グラウンド”は、今現在のノエルの境地をよく伝える新たな名曲だ。(高見展)



ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』7月号に掲載中です。
ご購入は、お近くの書店または以下のリンク先より。

ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ バック・ザ・ウェイ・ウィー・ケイム:Vol 1( 2011 - 2021)【 完全生産限定盤】 - 『rockin'on』2021年7月号『rockin'on』2021年7月号

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