レノン・ギャラガー擁するフォー・ピース・バンドによるデビューEP。バンドは、繊細でいて暴力的なギターが轟くインストゥルメントにレノンの語り調のボーカルが加わるスタイルだ。クラウトロックや現代音楽などレフトフィールドな音楽からインスピレーションを受けたというサウンドは、ブラック・ミディやフォンテインズD.C.を爆心地とする現行英国のポスト・パンク・ムーブメントと共振する要素もあれば、初期のモグワイを彷彿とさせるノスタルジックな要素もあり、堂々たる仕上がりになっている。
また、全5曲、限られた楽器でのインストを主体とする曲構造上マンネリ化しがちなところを、曲ごとにしっかり違ったムードを用意しているのも立派である。以前、父・リアムがこのバンドを評するときに用いた「初期のザ・ヴァーヴ」のような魔力を獲得するまでには至っていないかもしれないが、「社会におけるテクノロジーの支配に打ち勝ち、新しい何かを生み出す旅の始まり」をテーマにしたと公表するなど、美学とこだわり、滾る熱意は十分に伝わってくる。若きインディ・バンドの初作としては充実した内容であると言えるだろう。
ただ、正直このバンドの音楽にレノンの語りが不可欠なピースとなっているかというと、疑問符が浮かぶ(最も壮大な最終曲“Meeting At the Periphery”はボーカルレスだ)。だがそれも、自身の声が曲の中心を担うことを譲らず、兄にボーカルを奪われるとヘソを曲げていた偉大なる父とは反対のスタンスをあえて選んでいるようにも思える。
彼もまた、オアシスというあまりに強固な神話に囚われ、そこから解き放たれようと藻掻くひとりなのかもしれない。いつかレノン・ギャラガーのボーカルで、こんな苦言など打ちのめしてくれる日を待ちたい。(長瀬昇)
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