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僕の幸せを決めることは僕にしかできないし、君の幸せを決めることは君にしかできない。そんな当たり前で、しかし恐ろしいほどに忘れがちになってしまうことを、この「35.7」という、記号のようで、人間的でもある名前を持つ若き4ピースバンドは歌にしている。音楽を聴くときに作り手が何歳であるかなど意識する必要はないが、それでも、僕はこの“しあわせ”という一曲を生み出したのが二十歳くらいの若者たちであることは、とても大切な事実だと思う。彼らは、彼らにとっての幸せとは何かを考え、それを表現しようとしている。《東急東横線午後10時半》という写実的で個人的な歌い出しが、いつしか《もう死んでしまいたい/そんな気持ちじゃなくて/死ぬなら今日がいい/そんな日々たちを願うよ》という強い意志と精神の言葉へと辿り着く。穏やかでメロディアスなバンドのアンサンブルは、いつしか疾走する。3月に出るEPのタイトルは『書を捨て、歌を編む』だという。寺山修司。聴くのがかなり楽しみである。(天野史彬)
(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年3月号より抜粋)
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