『ROCKIN'ON JAPAN』がお届けする最新邦楽プレイリストはこちら
特別なバンドによる特別な作品集である。この35.7というバンドの曲の中では、《東急東横線午後10時半/私泣いていたけど》とか《まだ君と同じサブスクアカウントは/よかったら使ってね》といった生活感のある描写と、《奇跡》や《革命》といった日々を垂直に突き刺す強い存在感の言葉が自然に隣り合う。そしてふとした瞬間に、《君がもしも明日を落としたって/誰も代わりには拾ってくれないよ》なんてsyrup16gへのオマージュが現れたりする。本作のタイトルもそうだが、オマージュが作り手のパーソナリティを表す、という側面もある。サウンドは固有な速度や変化を持っていて、1曲1曲がまるで生きもののように呼吸をしている。音楽でありながら、絵画のように静かで鮮やかで、詩のようにリアルで、花のように美しく獰猛でもある。現実も理想も目に見えないものも含めて「本当のこと」を映し出したい。生きることの悲しさと、そのうえで「君も私も特別なんだ」と伝えたい――そんな欲求を感じる。(天野史彬)
(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年5月号より抜粋)
『ROCKIN'ON JAPAN』5月号のご購入はこちら