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聴衆のシンガロングを誘ってやまないスタジアムロック“ゼログラ”から、流麗なストリングスと共に眼前の君に向けた言葉が歌われる“Lovin’ Song”に続き、「これぞスキマスイッチ!」というメロディの上で極私的な始まりから逆転勝利へと至るリリックが感動的な“逆転トリガー”で最初のピークに達する前半。「対多」、「対個」、「対己」と歌い分けられたこの流れが表す通り、全方位の聴き手を射程に捉えた力作だ。白眉となるのは、8分超えのジャジーなスローブルース“遠くでサイレンが泣く”。粘り気のある大橋の歌唱は、色気と諦念で濡れ光るようだ。この曲の最後で《叶えてきたことと 叶えられなかったもの/焦げるような夕陽が照らしているのは どっち側の僕なんだろう/まだ夢の中の様/また夢の中、彷徨う》というラインから、崩壊に向かいつつも燃え上がっていく凄絶なアウトロが鳴り響き、リリックの主が抱える想いの一筋縄ではいかなさが表現される。この逡巡が背景にあるからこそ、彼らのポップは決して安くならないのだ。(長瀬昇)(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年9月号より抜粋)
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