97年の『タイム・アウト・オブ・マインド』以来、ディランが発表してきたオリジナル・アルバム三枚は全てロック史に名を残す名盤となってきたと断言してもいい。それはどれもディランがロックンロールを求めたインスピレーションを追求した作品で、ディランなりの視点でロックンロールとはなにかということを解剖していく試みでもあり、結果的にディランの全キャリアを作品ごとに総括するような意味合いを持っているからだ。それはたとえば、どのアルバムもサン・レコード時代のエルヴィスの作品に近い響きと肌合いを感じさせるとか、戦後ポピュラー・ミュージック史を見通すパースペクティブを音色として感じるといった性格として顕れていた。その点、新作の最大の魅力はディランが狙っているところはこれまでと同じだとしても、これまでとは違う肌触りを感じさせ、それをリスナーに堪能させてくれることにある。もともとはサントラとして始まったプロジェクトであるせいか、ソング・ライティングの自然発生的な勢いが図らずも優先されているところがあり、どの楽曲も現在のディランを伝える生々しい作品となっている。ここ三作品に共通していたような気負いがないところがとても聴きやすいし、そこで聴けるディランの素の表情がとても若々しく、活き活きとしているところがとても気持ちのいい作品だ。老境に至った達人的な見極めがありつつも、70年代の『欲望』のような叙情を感じさせるところに、人の心ってその人によってはなかなか老いることがないんだなと感動した。(高見展)