異様なまでの耳ざわりのよさと、生温かさと、それでいて刺々しくて痛々しいボーカル、そして音がやんだ瞬間に夢幻のごとくすべてが消え失せてしまうような儚さ。言ってしまえば、この世のすべてに失望して、ひたすら虚空をさまよっているような、はっきりとした実在感のないバンドである。そして、その「実在感のなさ」こそがこのバンドに僕が強く惹かれる理由なのだ。
ボーカルのクリストファーは、親がカルト宗教にのめりこんでいて、その布教活動にくっついて世界中を流浪していたという強烈なライフ・ストーリーを持っている。その経験が彼らの音楽に流れる決定的な「欠落感」につながっているのは想像に難くない。その欠落感を彼自身のみならず世界そのものを覆うものとして敷衍してみることも可能だが、それは偶然であって、幼いクリストファーにとって世界など存在していなかったのだ。なんで男二人で「ガールズ」なのか。彼らからはアメリカ的マチズモが一切排除されているからだ。去勢されているのだ。だから、彼らが歌う“ラスト・フォー・ライフ”は、イギー・ポップのそれとは正反対の風景を描き出す。(小川智宏)