絶望の庭での果てしない鬼ごっこ

凛として時雨『still a Sigure virgin?』
2010年09月22日発売
ALBUM
凛として時雨 still a Sigure virgin?
時雨の音楽は、消せない記憶の中で磔にされている自分を映す鏡のようだ。そんな自分を殺してしまいたくて、激しくその鏡に拳を打ちつけて粉々に砕いても、記憶は余計に鮮明になるばかり。その鮮やかすぎる記憶が苦しいなら、その粉々になった鏡の破片を手に取って腕に突き刺せばいい。流れた心の血だけが苦痛を快楽に変えてくれる――。アルバムを出す度に、そんな歪んだ麻薬性は増し続け、虜になる人が増え続けている。僕もそうだ。最早、時雨の音源が届くと、封筒を開ける手が汗ばんで少し震えてしまうほどだ。というわけで4枚目のフルが到着。「まだ時雨処女なの?」という挑発的で笑えるタイトル通りの作品。前作でもフィーチャーされたアコギがさらに活躍、ピアノも大胆に導入。あらゆる関節の稼働領域が増した、よりしなやかなプレイで完璧に出口の無い幻想が精巧に組み上げられている。しかもプラモデルで遊ぶ子供のような手付きのTKのソングライティングと暴発テンションを崩さずそれを乗りこなすバンドの演奏は他の追随を許さない。でも、いつかこの音が消せない記憶を取り払ってくれる奇跡を信じたくなる。(古河晋)
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