火と雨を抜けて

ライアン・アダムス『アッシズ&ファイア』
2011年11月23日発売
ALBUM
ライアン・アダムス アッシズ&ファイア
2年前にカーディナルズ解散/音楽からの一時引退を表明。以来、ペース・ダウンの大要因=耳の疾患に取り組みつつ、執筆業や自主レーベルからのアーカイヴ音源リリースといった低空飛行を続けていた彼だが、本スタジオ新作で晴れて次なる章が本格再開されたことになる。嬉しい。

いわゆるカムバック作とはいえ、「鳴り物入り」な華やぎは薄い。ゲストにノラ・ジョーンズ、ベンモント・テンチ、(細君)マンディ・ムーア他が参加、ストリングスも美しく鳴るが、あくまで彼の歌と声が主役の抑制された作風は『ハートブレイカー』、『29』の流れ。平均3~4分台と吟味された曲の尺、クリーンなアレンジ、グリン・ジョンズの熟練した卓さばきは、一味違う本作のトータル性と成熟に貢献している。M2、M5といったロック寄りなトラックすら、エネルギーを的確にコントロールしている。何より新鮮なのは、本作の一聴シンプルで聴き手を構えさせない歌が、70年代のジェイムス・テイラー、あるいはジャクソン・ブラウン作品を思わせる、苦悩の果ての悟りともいうべき普遍とエレガンスを宿している点。アメリカのハートを引き継ぐ人である。(坂本麻里子)
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