イングリッシュ・ソウルの行方

デーモン・アルバーン『ドクター・ディー』
2012年06月06日発売
ALBUM
デーモン・アルバーン ドクター・ディー
久々のソロ名義作とはいえ、ロック・ポップを期待する向きにはかなりの変化球だろう。作品のベースになるのはエリザベス一世の執政にも関与したとされる16世紀の数学/天
文学者:ジョン・ディー博士(魔術研究でも知られ、日本で言えば陰陽師?)の生涯に想を得た書き下ろしオペラで、BBCフィル、声楽家の雅な歌声、古楽器や和声のゆかしい響きからはヴォーン・ウィリアムス、ベンジャミン・ブリテンすら浮かぶ。しかしトニー・アレンの精霊グルーヴやコーラといったアフリカ音楽の要素、そしてデーモンの歌唱をメインに据えた②③④⑥⑧の古謡の味など、実験に富んだコンポジションはいわゆる正統なクラシック音楽ではなく、古くも新しいハイブリッドを編み上げている。その新旧の混交はオペラの隠しテーマ=「16世紀と現代イギリスのパラレル」に通じるし、多彩な音楽活動を通じ自己啓蒙を続ける昨今のデーモンにとって、知の体系を多角的に構築したルネサンス人:ディー博士は敬意の対象でもあるのだろう。ブリットポップのように分かりやすくはないものの、英国人としてのデーモンの魂を深く掘り下げた優れた1枚。(坂本麻里子)
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