衝撃的なアルバム・タイトルは本人の発案だそうだ。約20年ぶりに作詞を手掛けた山川啓介は、それを受けて《まだ歌えない My Last Song》と書いた。人生の酸いも甘いもわきまえた大人の男同士のエールの交換と言えようか。深みを含んだ歌詞と、それをゆったりと歌い上げる矢沢との阿吽の呼吸が素晴らしい。だが『ROCK'N'ROLL』『TWIST』に続く3部作である本作で、いっちょあがるどころか新たな試みをしている。なんとSAの馬渕太成が5曲も作詞に起用されているのだ。出会いに興味がわくが、馬渕は『成りあがり』などを熟読し徹底的に研究して臨んだそうで、自伝的な“BUDDY”などにその軌跡が見て取れる。馬渕の力の入った詞と対称的に軽妙な加藤ひさし(コレクターズ)の“パニック”なども、軽々と自分に引き付けて歌う懐の深さに改めて感服するが、もちろん作り手としての 意思が明快な矢沢の曲があればこそ。キャッチーな曲揃えと編曲も含め自分を知り尽くしたプロデュースが流石だ。デビュー45年の含蓄と変わらぬR&R魂が漲る曲と歌、圧倒的な存在感は他の追随を許さない。(今井智子)