傑作。R&Bの歴史を変える
フランク・オーシャン『チャンネル・オレンジ』
2012年08月22日発売
2012年08月22日発売
ALBUM
フランク・オーシャン本人によるゲイ告白がなければ、ひょっとすると全米2位まではヒットしなかったかもしれない。が、これが2012年を代表するR&Bの傑作だという事実は不変だったろう。ミクステ公開の前作『ノスタルジア・ウルトラ』からの最大の進化はそのサウンド。ウィークンドなどドレイク一派が探求してきた、チルウェイヴ以降のスロウでぼやけたトラックでセックスやドラッグのハードコアなテーマを歌うスタイルが、単なる気分ではなく圧倒的な必然として鳴っている。それは、今のR&Bの定形を何ひとつ使わずに、「本当の自分」にもっとも誠実なサウンドを組み立てたいという、繊細にして固い彼の意志だ。そして、ディアンジェロ、マーヴィン・ゲイ、プリンスといったレジェンドたちの面影を脳裏によぎらせる、神様が彼に与えた美声が時にシルキーに、時にぐっとスモーキーに様々な感情を歌いあげていく。それでいて、歌い方にも言葉選びにも、余計なお約束やナルシシズムが全く感じられない所が素晴らしい。そして、この「正直さ」の痛みこそ、彼とオッド・フューチャーを確かに繋ぐ絆なのだと思う。必聴!(松村耕太朗)