温もりのリアル・サウンド

ヴァンパイア・ウィークエンド『モダン・ヴァンパイアズ・オブ・ザ・シティ』
2013年05月08日発売
ALBUM
ヴァンパイア・ウィークエンド モダン・ヴァンパイアズ・オブ・ザ・シティ
世界が待ち焦がれたヴァンパイア・ウィークエンドの3作目は、例えば聴き手の期待に応えるとか自らのパブリック・イメージをどうするとか、このくらいのキャリアのバンドが追求しがちなテーマとそもそもまったく向き合っていない(ように見える)じつに清々しいアルバムである。本来ヴァンパイア・ウィークエンドは『ヴァンパイア・ウィークエンド』リリース後からインディ・ポップ/ロック云々の文脈を超えて愛されてきたが、そうしたポジションを利用した大衆ポップとも、そこにムキになって対抗する頑固なアート志向とも無縁なバンドであり、その自由さこそが彼らの特別さだった。いかにも00年代後半に登場したバンドらしいその特性故にロック・バンドの物語性を見出しづらく、だから『コントラ』の現実離れしたファンタジックな世界観に腰が引けるリスナーも少なくなかったのだ。カラフルな音の洪水のようだった『コントラ』と比べ、削ぎ落とされた本作のプロダクションには目を見張らされるばかり。アメリカ東海岸と西海岸のカルチャー・ギャップをモノローグで描き出すような“ステップ”、ピアノの旋律とゴスペル・コーラスでささやかに構成された“ヤング・ライオン”はじめ、ソングライティングとレコーディングを過ごしたマサチューセッツの避暑地とカリフォルニアの木陰の空気を閉じ込めたような美しい曲が並ぶ。素材と技術は長く存在するものを用いながらモダンなサウンドを創造し、新しい自分たちを感じてほしい、という意志を感じさせる素晴らしいレコードだと思う。 (羽鳥麻美)
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