VELTPUNCH 表現の核とバンドの在り方を語る

VELTPUNCH

1997年の結成以来、コンスタントに作品リリースとライブ活動を積み重ねているVELTPUNCH。彼らが約5年ぶりとなるオリジナルアルバム『THE NEWEST JOKE』を完成させた。鳴っている全ての音が有機的に結びついて構築されているサウンドの威力がものすごい。90年代のオルタナティヴロックへの敬愛を核としつつ磨き上げてきた音楽性の切れ味を、まざまざと体感できる1枚だ。久々のメジャーからのリリースである今作。新しい環境に身を置くことへの心境も含めて長沼秀典(Vo・G)に語ってもらったが、あらゆる面でブレることなくバンドを前進させている彼の姿も、とても刺激的だった。

インタビュー=田中大

自分たちの核はきちっと守って、そこをいかに越えていくか。それをやらなければ同じバンド名を掲げて活動する意味はない

――前回のアルバムから今作の間まではベストアルバムを挟んでいますが、どんな日々でした?

「2012年に出したベスト盤はひとつの区切りでしたし、あれ以降は『ベスト盤を越えるような作品を作らないと続ける意味がない』っていうことを思って、越えていくことを考えていました。あと、ギタリストが変わったりもしたので、バンドをまた構築する期間でもありましたね。メンバーチェンジは今までも何度かあったんですけど、新しい化学反応を楽しみつつ、『自分たちのサウンドって何か?』っていうことを考える機会でもあるんですよ」

――自分たちの本質に関して、どんなことを感じました?

「VELTPUNCHって、同じ価値観を保ちつつ多様な曲を作り続けてきたバンドなんだなと思いました。いろんな時期の曲を入れたベストアルバムを聴いた時、意外と違和感がなかったんですよ。録り音の若干の差はありますけど、やっていることは筋が通っているなと。バンドとして幅が広がるっていうのはいいことですけど、僕は根底の部分が変わるバンドが、あまり好きでなはいんです。何年も待った新作を聴いた時、根本が変わっていて『なんじゃこりゃ!?』ってなることに非常に怒りを覚えるタイプなので」

――美味しいトンカツ屋さんだと思っていて、久しぶりに行ってみたら店名は同じなのにラーメン屋さんになっていて、しかも味が今ひとつというような?

「そういうことです(笑)。『お前に求めてるのは、それじゃない!』っていう。自分たちのリスナーにそう思わせたくないというのは、非常に強く感じています。自分たちの核となるところはきちっと守って、そこをいかに越えていくか? ハードルが高いことではあるんですけど、それをやらなければ同じバンド名を掲げて活動する意味はないと思います」

――VELTPUNCHは、歌詞に関しても一貫したトーンがありますよね?

「そうだと思います。歌詞の世界はずっと少年性みたいなところがありますので。僕は中高が男子校で、その時の悶々としたフラストレーションというのは、ロックの原動力に直結しているんです。やっぱり詞の世界観はそことリンクしますね。『いつまで10代のこと歌ってんだ』って言われることがあるんですけど(笑)。でも、そういうのを狙ってるということでもなくて、自分のメロディに合うものを選択していくと、ハッピーで希望に満ちあふれたものは出てこないんですね」

――今作から挙げるなら“BENCH WARMERの逆襲”とか“ズーラシアゲイン”とか、悶々としたものを感じますよ。

「聴いていた90年代の音楽、特にアメリカのオルタナティヴとか、00年代前半の日本のインディーズとかの歌詞って、そういう雰囲気でしたし、その影響もあるんだと思います。当時聴いていたロックバンドって、みんなと手を取り合って輪になって……というようなハッピーなものはなかったですし」

――90年代辺りのオルタナ感は、歌詞の部分でもVELTPUNCHの核になっていますか?

「スマパン(スマッシング・パンプキンズ)とかダイナソーJr.とか、大好きでしたからね。ダイナソーJr.の歌詞の和訳を読むとほんとひどくて(笑)。『彼女と会いたい。でも会えないからどうしよう……』とか、モジモジしたことを延々と歌っていますから。でも、壁一面のマーシャルアンプで、風が吹いてくるような衝撃のあるサウンドを鳴らすのが、ほんとかっこよくて。あれだけの爆音の中でひたすら悶々と鬱的なことを歌うっていうのは、自分の音楽の『かっこいい』の原点なので、それが今でも続いているということですね」

マイペースな活動を確立している僕らに声をかけてくださるメーカーさんがいるってすごいことだなと。ひとりになって、ふと思いました(笑)

――あと、今回のアルバムは久々のメジャーからのリリースとなるわけですが、メジャーに戻りたい気持ちはもともとあったんですか?

「正直言ってそれはなくて(笑)。他の仕事もしながらバンド活動をしているというのもあって、メジャーと契約することで日常の生活が変わるということはないですからね。いろんな人たちに聴いてもらえるきっかけが増えるというのは、非常に嬉しいことなんですけど」

――特に気負うこともなく受け止めている?

「はい。今回のリリースタイミングでのインタビューは今日で3本目なんですけど、ずっとそんなような感じで話してきました。でも……昨日のインタビューで『ずっと続けてたバンドに声をかけてくれるメーカーさんがいるって、嬉しいことですよね?』って言われて。その場では『まあそうですね』と普通に流したんですが、後になって考えたら『たしかにそれってすごいな』と思いました(笑)。VELTPUNCHは、マイペースな活動を確立できているバンドですし、メジャーで活躍しているバンドとかを『向こうは向こう』と、特に羨むこともなく活動しているんですが、そういう僕らに声をかけてくださるメーカーさんがいるってすごいことだなと。昨日の夜、ひとりになって、ふと思いました(笑)」

――(笑)そうだったんですね。

「さすがにこれだけ活動していると、『メジャー』っていうものに対する特別な憧れみたいなものはないんです。でも、声をかけて頂いたっていうのは、今までやってきたことを認めてくださったということだと思うので、『ほんとはもっと喜んでもいいのかな』と(笑)。でも、浮かれ過ぎるのも違うのかなと。長く続けていると、複雑なところも出てきますね」

――メジャーに行くのって、若い音楽リスナーに聴いてもらえるきっかけとしても良いんじゃないでしょうか。VELTPUNCHを好きになって、そこからさらにスマパンとかダイナソーとかを好きになってもらって、「洋楽もかっこいい!」ってなってもらえることにも繋がるでしょうし。

「架け橋のような存在にもなれたらいいですね。この前、cinema staffのベースの三島(想平)くんと対談したんですけど、彼はまさに若い世代じゃないですか。僕がブログで書いた『無人島に持って行きたい10枚』みたいなのを高校生の頃に読んで、全部買って聴いてくれたみたいです。その話を聞いて『意味があったんだな』と思いました(笑)。何を挙げたからよく覚えていないんですけど、多分、スマパンとかダイナソーとか、日本のバンドだったらCOWPERSとかNAHTとかを挙げたりしたのかなあ」

――みなさんが鳴らすサウンドも、幅広いリスナーに素敵な刺激を与えると思いますよ。人力の演奏で構築するサウンドの気迫を伝えられるバンドですから。

「自宅でDTMで録って、データのやり取りで曲を完成させるバンドもいますし、そういうやり方の良さもありますよね。でも、うちはエンジニアさんについてもらって、スタジオで録っているんです。それがどこまで聴く人に伝わるかは分からないですけど、出来上がるものはどこか違うんじゃないですかね。文化の継承じゃないですけど、そういう役割もあるんじゃないかと思います」

――例えば“THE NEWEST ROCK”って、ギターのフレーズ同士の絡み合い方とか、手数の多いドラムとか、鳴っているあらゆる音が有機的に融合して、すごいエネルギーが生まれていますし、「これぞロックバンド!」っていうワクワクの塊ですよ。

「こういうのはコンピューターで組み立てて縦軸を合わせたりしても、どこか違う感じになるんですよね。各パートで微妙にズレたりとか、メンバー同士の阿吽の呼吸で作り上げていけるものってあるので。VELTPUNCHは『自分の聴きたい音楽を作るバンド』って考えているんですけど、今回のアルバムもそういうものになりました」

――ロックバンドって「メロディ」とか「ハーモニー」の気持ちよさだけじゃなくて、「息遣い」とか「空気感」みたいなところを味わえる喜びもありますよね?

「はい。譜面で表せるメロディの価値観だけじゃないところですね。スタジオの壁がビリビリ振動することも含めて、いかにCDに詰め込めるか? そういうところがあるっていうのは、僕も思います。音楽ってみんなで盛り上がる楽しさもありますけど、『音楽と自分の耳』っていうように1対1で向き合うもの以外に行き過ぎると何かが違うのかなというのもあって。だから、例えば電車の中でヘッドフォンを通して向き合ってもらうようなものでもありたいというのは思いますね」

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