ココロオークション、初のコンセプト盤『夏の夜の夢』を語る

ココロオークション、初のコンセプト盤『夏の夜の夢』を語る

伝えたいメッセージは一貫している(粟子)


――これまでにリリースした「短編小説MV」を軸にした1枚ですね。

大野 はい。既存曲の“蝉時雨”“夏の幻”“雨音”のMVはストーリーが繋がっているんですけど、その4作目をこの夏に出そうっていうところから、今回の作品は始まったんです。そして、この機会に“蝉時雨”“夏の幻”“雨音”も全部入れてしまおうということになり、夏をイメージしたものにもなりました。

――第一話の“蝉時雨”は、クラウドファンディングで短編映画を作ったんですよね?

粟子 はい。もともとは短編映画だったのを“蝉時雨”のMVにしたんです。“蝉時雨”を聴いてココロオークションのことを知ったっていう人が多いので、これによって広まったというのは実感しています。

テンメイ “蝉時雨”は、僕の加入前ですけど、この曲は知っていました。それくらい影響力があったというのは、僕も感じています。

大野 出資はしてくれなかったの?

テンメイ してない。

大野 「実は出資してた」って言ってくれれば、いい話になるのに(笑)。

テンメイ そうか(笑)。でも、この曲は「ライブに行ったことない人も知ってる」っていうものになっていたのは、たしかですね。

井川 自分たちの曲が映像作品として形になるというのは、すごく新鮮な体験でした。こうして4作を作れましたし、成功だったと思っています。

大野 バンドとかに興味がなくても、ひとつの映像作品として楽しんでもらえるので、広い入り口みたいにもなっているんじゃないでしょうか。

――この4曲は日本的情緒とか、失って初めて気づく大切なものが描かれていますけど、一貫したものにするというのは意識していたんですか?

粟子 その点に関して、僕はあんまり考えたことがなかったんです。でも、“線香花火”ができてみて、「伝えたいメッセージは一貫してるな」と気づきました。「今を大切にする」っていうことが、この4曲のテーマだと思っています。夏って短いじゃないですか。僕は「儚いものは美しい」っていう考えを持っているから、ココロオークションが夏を表現すると、こういうものになるんだと思います。

――夏の風景もいろいろ曲に入っていますね。

粟子 はい。夏の雨の匂いとか、夏だけの空の青と雲の白色のコントラストとかが、曲を書く時に自然に反映されたのかなと思っています。あと、僕は日本的なわびさびみたいなことも好きなんですよ。

テンメイ 普段から日本的なものが好きだよね? 寿司とかお茶とか。

粟子 うん。神社とかお寺も好きです。

――和楽器とかを使っているわけではないですけど、サウンドでもそういう雰囲気を醸し出していますよね。

大野 そうですね。ハイファイで都会的で洗練され過ぎているフレーズは、メンバー全員が好きではないんです。かといってダサいのも好きではないから、その塩梅がこういうココロオークションの世界観になるのかも。ちょっと和風だったり、土の匂いがするような雰囲気は、メンバー全員が持っていると思います。そもそも僕、パスポートを持っていないですし。

粟子 僕も持っていないです。

テンメイ 僕は期限が切れました。

井川 僕も切れてます。

大野 まさか全員持っていないとは(笑)。でも、そういう4人だから、自然と都会的になり過ぎないものになるのかもしれないですね。

「1音目が線香花火の音であってほしい」っていうイメージが最初からあった(大野)


――昔の曲の“蝉時雨”“夏の幻”“雨音”に改めて向き合って、何か感じたことはあります?

粟子 その時にしか鳴らせない音を一生懸命作っていたんだなあと感じました。あと、アレンジの幅がどんどん広がっているのを感じたのも面白かったです。“蝉時雨”の頃は、いい意味で何も考えずに作っていたので、そういうところから始まったココロオークションの歴史が、この4曲には詰まっている気がします。あと、やっぱり感じるのは、さっき言ったような「終わりがあるから今が輝くんだ」っていう考え方です。それが全部に貫かれていて、「ココロオークションが伝えたいことは、これなんだな」と感じることができました。

――線香花火という物自体も、「終わりがあるから今が輝くんだ」っていうものの象徴的存在ですね。

粟子 はい。「今を大事にする」っていうのは「終わりを覚悟する」っていうことでもあると思うんです。線香花火っていうのは、そのどっちも詰まっていると思います。

――“線香花火”は、サウンド自体が風景をイメージさせるものになっているのも魅力だと思います。

大野 ありがとうございます。アレンジは、すごく時間がかかりました。タイトルが早い段階で決まっていたんですけど、「1音目が線香花火の音であってほしい」っていうイメージが最初からありました。同じタイトルだったり、歌詞の中に線香花火が出てくる曲は世の中にたくさんあるので、音が鳴った瞬間に「線香花火だ」って感じられるものにしたかったんです。僕らは昔からイメージを音にすることをやっていたバンドなんですよね。みんなが共有する景色のイメージからメインリフを作ることも多いですし。むしろイメージが固まらないと曲を形にすることができないバンドと言ってもいいです。

――映画のサウンドトラック的な方向性の音楽を追求しているバンドと言うこともできるんじゃないでしょうか。

大野 そうですね。徐々にそういう雰囲気が強くなっているような気がします。

「終わりを覚悟する」という側面が強く出ている(粟子)

――サウンドトラックといえば、今回の1曲目“景色の花束”は、映画『笠置ROCK!』のために書き下ろした曲ですよね?

大野 はい。“蝉時雨”から“線香花火”まで、4曲のMVを作ってくださった馬杉雅喜さんが監督です。ココロオークションは、この映画の劇伴をやらせて頂きました。

――『笠置ROCK!』、面白そうですね。音楽のロックフェスと、ボルダリングのロックフェスを勘違いしたミュージシャンが登場するストーリーのようですが。

大野 泥くさいロックンロールの要素があって、おちゃらけたところもあって、うるっとくるところもある映画です。

――The SALOVERSの古舘佑太郎さんが主演なんですね。

大野 はい。僕らはバンドで共演したことはなかったんですけど、撮影現場で初めて顔を合わせました。“景色の花束”は、「映画の主題歌」っていうものをイメージしながら作っていったので、エンドロールで流れるところとかを思い浮かべていましたね。

テンメイ 自分たちの曲が映画で流れるって嬉しいものですね。バンドって、こういう形で音楽をやることもできるんだなと思いました。

井川 映画の舞台の笠置町は、とてものどかな場所だったので、そういう雰囲気も“景色の花束”に出ていると思います。ボルダリングをやっている人たちにとって、笠置町は聖地なんですけど、登る岩がすごかったです。「これ、ほんとに登れるの⁉」と思いました。

粟子 “景色の花束”は、笠置町の景色のことを歌いたいなと思ってできた曲です。作りながらずっと頭の中に笠置町の景色がありました。これは先ほど言った、「終わりを覚悟する」という側面が強く出ている曲でもあると思います。

大野 こうして映画の音楽を作らせて頂いて、ココロオークションは映像との親和性が高いと改めて思いました。サウンドもそうですけど、粟子さんの詩的な世界観も、そういうものを持っているんでしょうね。

次のページどれだけ無謀なデモを作って録音しても、結局ココロオークションになる(大野)
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