結成5周年の節目に完成した3rdフルアルバム『YOUTOPIA』は、あらゆる音楽リスナーにぜひ聴いてほしい作品だ。ハヤシヒロユキ(POLYSICS)、ミドリカワ書房、大森靖子、後藤まりこ、オータケハヤト(ROCK’A’TRENCH)、山(全日本レコード)、ハシダカズマ(箱庭の室内楽)……などなど、錚々たる布陣が提供している各曲は、唯一無二のロックミュージックであり、最高にワクワクできるポップスであり、めまぐるしく動き続ける世界で暮らしている我々の心に優しく寄り添うメッセージソングでもある。ゆるめるモ!のメンバーたちに、今作にこめた思いと手応えを語ってもらった。
インタビュー=田中大
音が鳴っていると素直になれるし、ライブハウスはそういう場所(しふぉん)
――すごくいいアルバムですね。
ようなぴ ありがとうございます。タイトルを『UTOPIA』ではなくて『YOUTOPIA』にしているんですけど、「私と君との距離感」っていう形での楽園を作れないかなと。そういう思いをこめて今回のアルバムを作っています。
――ライブでお客さんと作れる空間も、ある意味、今作で表現されているユートピアでは?
けちょん そうですよね。自分たちもライブ中に感情が入るんですけど、お客さん自身も感情を露わにしてくれるのを感じるんです。「楽しい!」っていうものを一緒に作れていると、すごく嬉しいです。
あの なかなか思ったようなことができない時もあるけど、自分たちとお客さんとの距離感というか、「そこでしか存在しない」っていうものがあるのがライブなんですよね。ひとりひとりのお客さんと会話している気持ちにもなれるからライブは好きです。
しふぉん 私はもともとライブが大好きで、よく観に行って泣いたり笑ったりしていたんです。今こうしてステージに立つようになりましたけど、泣いたり笑ったりしてくれている人が、めちゃくちゃよく見えるんですよ。言葉で感情を表すのは、難しいことがよくありますけど、音が鳴っていると素直になれますし、ライブハウスってそういう場所ですよね。
あの ぼくはゆるめるモ!に入る前は、何ひとつやりたいことがわからない状態で、やることもなかったんです。「楽しい」とかいう感情も、もともとあんまりなくて。そこからゆるめるモ!に入って、音楽とかに触れて、「これが楽しいっていうことだな」というのがライブを通してわかったりするようになりました。やりがいも感じるようになって、ひとつの居場所というか、「ここで歌ってるのは、嘘がないな」と思えるようになっています。
――このアルバムの曲たちも、聴いた人にとっての大事な居場所になっていくんだと思います。サウンドも圧倒的にかっこいいですし。例えば“歩くの遅い犬”は、サイケデリックなサウンドが好きなロックファンが大喜びする音ですよ。
ようなぴ この曲はメンバーそれぞれの歌い方で新しい挑戦をしています。音の中で酔い痴れると言いますか、トリップするような感じで歌いました。
あの この曲はギターも弾いて、初めてアームを使ったんです。安原さん(編曲で参加した安原兵衛)のお家で録ったんですけど、「マイブラっぽい」って言って頂けたのが嬉しかったです。
――たしかに、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインっぽいです。“永遠の瞬間”にもシューゲイザーっぽいギターが入っていますし、こういう演奏する機会が増えていますね。
あの はい。こういう音、かっこいいと思います。ライブで毎回違う音を出せるのも楽しいです。レコーディングの時もぶっつけ本番でやるんです。そういうものと曲のポップさが合わさって完成された音を聴くと、すごく「わあっ!」ってなります。
けちょん アルバムの1曲目から面白いことができました。イントロが超長いですし。
――1分ちょっとありますよね。
けちょん はい(笑)。「ちょっと長いなあ」って思っていたんですけど、何回も聴いている内に心地好くなってきています。ライブでどうなるのかが楽しみな曲のひとつですね。
しふぉん 1曲目のイントロで1分ちょっと経つまで歌が始まらないというのは、結構チャレンジャーだなと(笑)。でも、すごくこのアルバムのオープニングにふさわしいと思います。ロックが好きな人にも、ぜひ聴いてほしいですね。
音楽業界の人には褒めて頂けるんですけど、世間には受けが悪い(笑)(あの)
――“天竺”も、聴いて仰天しました。アフリカの民族音楽的だったり、ミサ曲っぽかったり、いろんな展開を遂げるこんなサウンド、他で聴いたことがないです。
ようなぴ この曲は、たしか『孤独と逆襲EP』の頃にはありました。でも、「今の自分たちでは、まだこの壮大さを表現できない。4人としてもっと成長した時にやりたい」っていうことになっていたんですよね。“天竺”は、『YOUTOPIA』の中でも軸になっていると思います。みんな「社会」っていうものの中でしかいろいろ考えられないですけど、人間の根本、「生命」としてこの星で生まれて生きるという部分を考えるきっかけになるのが、この曲だと思います。
――三島想平さん(cinema staff)がベース、張替智広さん(HALIFANIE)がドラムを叩いているんですね。
ようなぴ はい。それも聴きどころです。コーラスも歌って頂いたんですけど、鳥肌が立つくらいグッとくるものになりました。
しふぉん 私たちがサルとかゴリラになった声も被せてあります。
ようなぴ ガヤのレコーディングの時、私はけちょんと一緒に録ったんですけど、ふたりでゴリラセッションをしました(笑)。川村美紀子さん(舞踊家、コレオグラファー。水曜日のカンパネラ、amazarashi などの作品も手がけている)にお願いした振り付けも、すごい印象的なものになっています。頭で考えるんじゃなくて、身体から溢れ出たものを表現するような感じの曲ですね。
――“must 正”も、不思議な雰囲気です。テクノポップを下地にして、アイリッシュフォークっぽい要素も入っていたりして……これ、なんと表現したらいいか難しいですね(笑)。鳴っている独特な音色は電子バグパイプですが、頂いた資料によると、日本のレコーディングで使われたのは初らしいですよ。
しふぉん そうなんですか? 今、初めて知りました(笑)。
――こういう新鮮な刺激が満載なのも、ミュージシャンとかの間でゆるめるモ!の人気が高い理由のひとつだと思います。あのさんも、いろんなクリエイターの間で大人気じゃないですか。
あの 音楽業界の人とかには褒めて頂けるんですけど、世間には受けが悪いです(笑)。