Nulbarich 最新EP『Long Long Time Ago』を作り上げた飽くなき探究心に迫る。首謀者・JQインタビュー

不安がないと自信を持てない


――2曲目の“Spellbound”はかなりドープですけども。

「カラー的にも今までとは違う感じですけど、歌詞は意外とハードじゃないというか、サビは魔法にかかってるって言ってるだけで(笑)。ミステリアスで、直接的じゃない、けど音は攻めてるっていうバランスが好きですね。特にR&B的な、内に秘めたものを表現したいんだけどうまく伝えられない、そういう意味のタメるソウルみたいなものがこの曲にはあるなと。ライブでもめっちゃエモくなっちゃいそうです」

――ヒップホップにおける言ったもん勝ち的な筋肉質の流儀もそれはそれでいいけれど、またちょっと違う方向性ですよね。

「『歌詞は普通だよね』ってたまに言われるんですけど、そういう生活を送ってないんで(笑)。両手に女の子を抱えたことなんてないし、でも歌詞をあえてやわらかくしてるわけでもなく、これが僕のリアルなんですよね。言い切っちゃう感じとか、俺はこうだからっていうのはカッコいいと思うんですけど、まだそういう男にはなれてないなって。自分に自信がないわけではないけど、言い切れるほどにはなれてないから、ファレルとかブルーノ・マーズぐらいになったら『キャデラックを転がして』みたいな歌詞を入れます(笑)」

――はははは、環境が人を変えることはありますけど。

「環境でほんとに人は変わると思うっていうか、変わらないとそこで生きていけないと思うんですよね。課長になっても新入社員と同じ気持ちや生活だったら下は付いてこねえよなって。環境が変わったら人も変わらないと逆にダメだろって僕は思います。だからいつかキャデラックを転がす曲を作れるくらい上がり切りたいと思ってます(笑)。なんか僕、やってないのに言えないんですよ。こういうことも言える男になりたいって思うからこそ、ほんとにそういう状態になってから言わないと、そこに嘘が生まれたり、フェイク感が出たりする。だから結構ビビリというか、めちゃめちゃ石橋を叩いて渡らずに折れちゃうタイプではあります」

――たしかに“Onliest”も俺の女いいだろっていう歌じゃないですし。

「これはたぶらかされてるんだけど、でもたまんないよねっていう曲で。僕は恥ずかしくて女性に対する直接的なメッセージを書けないタイプなんで、大体ほかの何かを女性だと思って書くんですよ。今回はビンテージ機材のことが頭にあって。ビンテージものって、全然便利じゃないし、メンテも超大変だけど、買った時のあの音をお願いだからもう1回出してって思いながら使うんですよね。むしろこの不便で気まぐれな感じがいいとか思ってる自分もいて、もう虜じゃんって。その感情が《You》に置き換えられた曲です。全然思った通りの音が鳴ってなくても、もう好きすぎて怒ってない自分がいるんですよ。その感じに対してめっちゃ振り回されてんなって思いつつ、たまんねえなこいつっていうのは全然変わらない。しかも諦めたぐらいのめちゃめちゃ絶妙なタイミングでいい音を出してくるんですよ(笑)。やっぱ神様見てんなって思いますよね」

――その振り回されながらもたまんねえなって思う感じとか、“Spellbound”の上を睨みつつも今の自分に自信がないわけでもない部分って、まさにNulbarich(何も無いけど満たされている)としてのリアルな歌詞だなって思います。

「はい、常に自信と不安って表裏一体というか。今アーティストってほんとに多いから、ステージが上がっていけばいくほど不安もたくさん出てくるんですけど、どうやっても自信で覆していかないと押し潰されちゃうんで。逆に不安がないと自信を持てない。自分に対してどんどん甘くなってっちゃうと思うんで、その絶妙なバランスがすっげえ楽しいですけど、すっげえしんどかったりもするっていうか」

手に入れることよりも、求めてること自体が楽しい


――2017年2月に渋谷WWWで1stワンマンライブを開催してからわずか1年、2018年の3月からは新木場STUDIO COASTの2デイズを含む全国ツアーが始まりますね。規模が劇的に拡大してるわけですが。

「そもそも地方でワンマンができるとは思ってなかったですし、規模感も含めてもうちょい自分が強くならなきゃいけないっていう気持ちがすごいあります。目標だったり野望を叶えるためには今の人間力じゃダメだなって思いつつ、変われない自分、変わりたくない自分もいて、全然整理ができてない状態ですね。なってみなきゃわかんねえしなっていうのもありますし。野望は死ぬほどありますけどね、全部叶うことはないだろうなっていうぐらい。たぶん欲深いんですよ。今年たくさんフェスに出させてもらったことだけでも感動してるんですけど、きっと一番最初は『絶対あのステージに立ってやる!』って思ったのが自分の中にあって。何かを成し遂げた時には次の何かが始まってて、そのこと自体がガソリンになってる感じがありますね。ツアーも、ステージを観てもらったら『ここじゃ狭いよなこいつら』って思って帰ってもらわないと、常に先を見てないとっていう気持ちがあります」

――そういうサイクルはきっと終わらないんでしょうね。

「終わる時が死ぬ時であってほしいなと思います。ちっちゃい時から、一個のものに対する執着心がひどくて親によく怒られたんです。海に行くとサワガニがいるじゃないですか。あれ、獲れるまで帰らないんですよ、僕。獲りたくて獲りたくて、棒でつついたりして、最終的にカニの手が取れちゃうみたいな(笑)。やっぱり常に何かを求めてるところがあるのかもしれないですね。たぶんそれを手に入れることよりも、求めてること自体が楽しいのかなって。そういう感じですね」

――いいですね。そして変われない自分だったりも含めて楽しんでるんだろうなっていう感じがします。

「そこは割り切ってる部分もあって、できないことはできないじゃないですか。曲を作るとか演奏を観せるって時に、フルスイングでやってダメだったらダメじゃんって。自分の得意技を全部入れて、バッターボックスに入ったらどんな球でもフルスイングで振る、それ以外方法がない。今、メンバーも含めて合理的じゃない部分が僕らを熱くさせてるのかなっていう気はします。『今どんな感じっすか?』って言われたら、『がむしゃらっす』以外ないですね。今回のEPもやりたいものとできることを擦り合わせて、『これならイケる!』っていう落としどころを探す作業が一番大変だったし、自分の中で理想と現実がぶつかったりすることもあったんで。楽曲のクオリティはどんどん上げていきたいし、だからこそ今回の作品で『これが俺らだ』とは言いたくない。『まだまだ進化するぜ!』って言いたいです。ひたすらがむしゃらにやる、一生懸命作る、それ以外ないですよね」

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