“セプテンバー”は17歳とかで作った曲なんです。この時って、誰かに聴かせるという気持ちが全くなく、自分のためだけに作ってた
――今回のアルバム、2枚組で、「東京」と「札幌」っていうコンセプトがあって。このコンセプト、そしてこの2枚にどういう曲を振り分けるかっていうのは、どういうふうに考えていったんですか?
「僕ら『魚図鑑』っていうベストアルバムを出したんですよ。あれの完全生産限定盤は深海・中層・浅瀬っていうのをコンセプトにして、自分たちで自分たちの曲を客観的に振り分けたんですね。その時になんとなく見えたのって、やっぱり北海道にいた時に作った曲はどこか深海であったり中層だったんです。で、東京に出てきて作為性を持って作っていった曲っていうのはどこか浅瀬だったんです。その振り分けを自分たちでした時に、“グッドバイ”から今までのシングルの曲っていうのはどこに該当するのかなっていうのを考え出したんですよ。そうなった時に、2枚組にして札幌と東京っていうコンセプトにしてこの6年間を集約するほうが、分かりやすく自分たちも振り分けられるし、その間にあるピースを埋めるためにどんな曲を作ったらいいのかっていう風に考えられるなと思ったんですね」
――つまり自己分析ですよね。『NF』もそうだしベストもそうだし、カップリング&リミックス集(『懐かしい月は新しい月~Coupling&Remix works~』)とか10周年のライブとか、この6年間、サカナクションは外側からサカナクションがどう見えてるのかっていうのをたくさん感じながら過ごしてきたんだと思うんですよ。今作はその上で作られたアルバムだなというのはすごく感じます。
「でも、自分たちでそれを理解できたぶん、今度はリスナーにそれを理解してもらわないといけないなっていうのもあって。そこの考え方をどうこれから動かしていくのかっていうのはチームとしての課題というか。ただ、シングルとして、心象スケッチみたいな曲、“グッドバイ”をやっていたっていうのは救いになったなって思いますけどね。シングルが多いっていうのは作る上での難しいポイントであったんですけど、結果的に良かったかなと思う」
――で、2枚組の形を象徴するという意味で、“セプテンバー”という曲が両方のディスクの最後に収録されていて。なぜ今このタイミングでこの曲を入れようと思ったんですか?
「2枚組にするって決まって、札幌で無作為に音楽を作ってた時代の感覚が大きいDISC-2と、東京に出てきて作為性を持って作ってきた感覚のDISC-1っていうコンセプトが決まった時に、そもそもその作為性がなく音楽を作っていた時代の曲ってあるっけなって振り返ったんですよ。それで出てきたのがこの“セプテンバー”って曲で。17歳とかで作った曲なんです。この時って本当に、誰かに聴かせるという気持ちが全くなく音楽を作ってた時代で、自分のためだけに作ってた。だから今聴くと結構いびつだし、レコーディングで歌ってみてもなんか恥ずかしいっていうか。何回歌ってもどう歌っていいかわかんないみたいな感覚だったんですね。そういう曲を、当時の札幌でやっていた感じに近いアレンジと東京で今作為性を持ってこの曲を出すにはどうするかっていうアレンジの2バージョン入れることで、この札幌と東京っていうコンセプトを上手く集約できるんじゃないかなっていうので、ちょっとやってみようと。歌詞とかも結構露骨なんですよ」
――《僕たちは いつか墓となり/土に戻るだろう》って、17歳が言ってるって考えると結構すごいですよね。
「でもこれ、 SNS がある時代だったらただの中二病ですよ(笑)。それがなかった時代だからこそ書けた曲なのかなって。石川啄木とかも今だったらただの中二病って言われて終わってたかもしれない。だからやっぱりSNSはセンチメンタルを殺したと思うんだけど」
今のアルバムってフォーマットで音楽を伝えることに限界が来てる。だからこれが最後のアルバムになるんじゃないかなって気はしてます
――今までこの曲をサカナクションで作り直そうとか、アルバムに入れようとしたことはあったんですか?
「いや、ないですね。ただ『NF』で藤原ヒロシさんとふたりでアコースティックライブをした時に、何の曲歌おうかなってステージで考えて、ふと歌ってみたんですよ。本当に何年、何十年ぶりに。そしたら意外と気持ちよく歌えたし、お客さんも『あ、新曲だ』みたいな感覚で聴いてくれて。だから、そうやって作為性がなく作ったものも純粋に聴いてもらえるようになれたのかなっていう。むしろそういったものを求めてるのかなっていうヒントになったんですよね」
――というかこの曲、すごくサカナクションだなって思いますよ。
「ああ、そうですか? でも、これ以外にもいっぱい、その当時に作った曲ってあるんですよ。それをボーナストラックとして1曲入れようと思ってやってみたんですけど、全然はまらなかったんですよ(笑)。だからこの曲は特別かもしれない。この曲が入ったことでこのアルバムのコンセプトがはっきり伝えられたと思うし、これがないとちょっと曖昧だったかなと思いますね」
――この曲があることで、前作からの6年間という時間の積み重ねだけじゃなく、サカナクションとしての歴史とかソングライター山口一郎の歴史もちゃんとひとつの流れになった感じがしますよね。この曲によってこのアルバムは長編ドキュメンタリーになったっていうか。
「確かにそうですね。やっぱり僕の根本にあるのが、ミュージシャンはただの音楽好きの兄ちゃん姉ちゃんなんですよ。タレントでもないし芸能人でもなくて、毎日ゴミ捨てするしお風呂掃除もするし(笑)、みんなと同じはずなんですよ。だからこういったドキュメンタリーみたいなことって、音楽を作る人間としては伝えなきゃいけないひとつのポイントだと思うけど、ここから先アップデートしていくためにも、ここでこういったやり方の終止符を打つっていうのは大事だったかなって。アルバムが今回で最後になるって話をどこかでしたんですけど、それって別に今後アルバムを作らないって意味じゃなくて、今のアルバムってフォーマットで音楽を伝えるっていうことに限界が来てるのかなっていう。だからそういう意味で最後のアルバムになるんじゃないかなって気はしてます。こんな簡単に音楽が聴ける時代なのに、わざわざCDを買ってもらってる。それなのに、そこで作ってる自分たちが物足りないとと思いながら作ってるという。限界が来たなっていうのは思っているから」