あいみょんの新曲“裸の心”は珠玉のバラード。鼓動を思わせるゆったりとしたビートに始まり、メロディをなぞるようなピアノの調べがやさしく奏でられ、一言一言を大事に追いかけていくその歌声が耳の奥に、豊かで切なくてどこか懐かしい記憶を描き出していく。なんだか申し訳なくなるくらいにおいしくて贅沢で、ずっとこの空気に浸っていたくなるように極上の、ひたすら上質な時間が広がっていく。派手な盛り上がりがあるわけでもない。コブシの効いた歌声がエモーションのドアをぶっ叩くでもない。静かに、ささやかに、しかし確実に、奥行き深くて淡い心のありようが描かれていく。
さすがあいみょん、と言ってしまえばそれまでだが、「誰が、どんな気分で聴いても名曲」というゾーンの中で、また新しい名曲を作ってみせるあいみょんの、針の穴を通すようなバランス感覚と、絶対の作曲能力はやはり稀有で尊いものだと思う。
あいみょんのアルバム『瞬間的シックスセンス』の中に“恋をしたから”というギター弾き語りの小さな名曲があって、それはたまらなく素晴らしい曲なのだが、この“裸の心”はそのさらに高い解像度で、恋と日々と迷いと切なさをめぐる世界観を描写しきった見事なバラードである。具体的なシーンや情景描写に頼らず、静かに揺れる心のありようを、丁寧に丁寧にあぶり出すようにして、やがて大きな感情の動きを誘うこのバラードはあいみょんのすごさの本質を示していると同時に、その着実なる進化の証明でもある――のだが、なんと3年前にこの名曲はできていた、と語るあいみょん。では、なぜ3年後に、この曲は世界に飛び出していくことになったのか。近況や最近の気づきを含め、リモートインタビューで聞かせてくれた。
インタビュー=小栁大輔
曲できひんわけじゃないんですよ。でも、物足りないんです。水だけもらって太陽をもらってないお花、みたいな
――最近はどうしてますか?「何もしてないです。不健康になるようなことしてないですもん(笑)、もはや。吞みに行ってるわけでもないし」
――そうだよね。あ、この前、インスタライブを拝見しました。
「ほんまですか? ありがとうございます。基本的にインスタライブは予告なしなんですけど(笑)」
――あれは自分の中でも「そろそろやりたいなあ」みたいなのがあるの? 「みんな待ってくれてるのかな」みたいな?
「いやー、わたし気紛れなんで。月きれいやから、ぐらいな感じです。あの日は満月やったから(笑)」
――素敵なことを言うなあ。
「だってお母さんが昔言ってたんですよ。女の人は月を見たら殺意が芽生える、何かが芽生える、みたいな。満月だからなんかやろうかなあっていう。殺意は芽生えてないですけど」
――(笑)素晴らしい、救いになるような時間でした。また急にやってください。
「朝の5時とかにやろうかな(笑)」
――今、何か変化は感じますか、自分自身の中で。
「あ、それこそ前々回とか前回ぐらいの(ロッキング・オン・ジャパンの)インタビューの最後に、小栁さん、『最近気づいたことあった?』って訊いたじゃないですか。その時わたし、基本的に家の中で曲ができるんや、洗濯機見てるだけで曲ができるんや、みたいなことを言ったんですけど、やっぱなんだかんだ外からの刺激、表に出て受ける刺激っていうのは大事なんやなっていうのはすごい感じてますね。でも、曲できひんわけじゃないんですよ。日々、作ってはいますね」
――生まれる曲はどう?
「物足りないんですよ。水だけもらって太陽をもらってないお花、みたいな」
――ああ、またうまいこと言うね。
「だから、何か足りないみたいな感覚はありますけどね。あと外出たい理由が、今は音楽で外出たいっていうだけじゃなくて、おしゃれしてどこかに行きたいという感覚も強くなってますね」
――確かにね。せっかく買った靴とか履く機会がないもんね。
「そう。今年の春はこれを着たかったとか、アーティストとしてっていうよりも、ひとりの人間としてうわーってなってるというか。やっぱり25歳ってすごい特別感があるんですね。それをずっと家で過ごしてるのって……25歳、なりたてやったのになあ、みたいな(笑)」
わたしのバラードは聴かれるぞって自信があったから、これはチャレンジとして、初めてシングルでバラードを出してみようって
――この前のインスタライブでも歌ってたけど、“裸の心”は、僕もすごく大好きなあいみょんなんですよ。「あ、ほんまですか? 良かったです」
――“恋をしたから”が、人生のナンバーいくつっていうくらい聴いている曲で、それに近い感触もある、新たな名曲で。
「(笑)ありがとうございます」
――“裸の心”はどう生まれてきたの?
「2017年にできた曲なんで、内容はリアルタイムではないんですけど。アルバムとシングルを同時進行で作ろうとしてた中で、アルバムの1曲として入れようと思ったんですよ」
――となると、まさに“恋をしたから”ポジションだ。
「そうです。で、トオミ(ヨウ)さんにアレンジ投げして。上がってきたのを聴いた時に、『ああ、これ、シングルで出したいな!』って直感的に思ってスタッフさんに言いました。今、自分はこういう歌を歌いたいし、こういう曲が聴かれてほしいなって。で、ちょうどスタッフさんたちも『最近バラードがあんま聴かれない、最近のバラードのヒット曲ってなんやろ?』みたいなことを言ってて。わたし負けず嫌いなので、そういうのを聞くと、じゃあ自分がバラードを出したらどういうリアクションが来るのか知りたいっていうのもあって。わたしのバラードは聴かれるぞって自信があったから、これはチャレンジとして、初めて、シングルでバラードを出してみようって思いました」
――これは名曲だよね。
「えー、嬉しいです。わたしもそう思います。気合い、違かったですもんね。1回レコーディング終わったのに、もう1回やり直したんですよ、歌入れ。そういうのも初めてで。なんかこう、聴かれてほしいよりも、歌われてほしい曲やなあって思いましたね」
――歌い直しをしたっていうのは、なぜ?
「なんか、きれいにしすぎたんですよね。もちろんトオミさんのアレンジってすごくきれいで、素敵なんですけど、それに合わせにいきすぎて、ロボットみたいな、無感情で歌ってる感じになったので、『あ、なんか違うな』って、ハンドマイクで跪きながら歌いました」
――何かそこで気づくことってあるの? 普段の自分と違うなというか。
「んー……正直この“裸の心”の歌詞って、今の自分にはそこまで共感できないことも多いんです。やっぱり3年前の曲ですし。でも、だから、いつかの自分に刺さる気がして、感情的になるというか。いつかこの曲を聴いて、その時のわたしが感動するぐらいの歌を入れないと、とは思っていましたね」
――じゃあ、歌に今までとは違うハードルを設けた曲だったんだね。
「そう。難しい!と思いながら(笑)」