季節がめぐり、僕たちは少しずつ変わり、いくつもの眠れない夜を越え、喜怒哀楽を感じ、少しの新たな出会いと少しの別れを繰り返し、今年も春を待っている――僕はふと、そんなふうにあいみょんの新曲を待っている自分を感じる。あいみょんの新曲が届くたびに、ああやっぱりあいみょんの新曲はいいね、かわいいね、だけどなんだか切ないね、なんてつぶやきながら、自分が重ねてきたいくつかの思い出とたくさんの日々を、少しだけ愛しく振り返ってみたりする。あいみょんを聴く、というのはなんだかそんな静かで、とても大切な営み、という感じがする。
だが、言うまでもなく、あいみょんは当たり前のように名曲を作っているわけではない。名曲は名曲が生まれる環境から生まれてくる。あいみょんの作曲サイクルには、当たり前のようにやって来る、しかし二度と来ない「その年の季節」を、きちんと愛で、きちんと覚えておきたいと願うような、人としての丁寧な生き方こそが基本にあるような気がする。それがあいみょんの名曲が今日も生まれてくる理由であり、僕たちが今日もあいみょんの新曲を愛し続ける必然なんじゃないかと思うのだ。“愛の花”は、2023年春、今年にしかないこの息吹を優しく吸い込んだ素晴らしい名曲だ。
インタビュー=小栁大輔 撮影=川島小鳥 ヘア&メイク=菅谷征起(GÁRA inc.) スタイリング=服部昌孝
私、歌詞の内容で声質を変えるんですよ。恋愛のドロッとした楽曲やったら、喉をしめて女の子っぽい声を出すとか。でも、この曲には、今までやってきたどれも当てはまらなかった
――“愛の花”は本当に、素晴らしい曲だよね。「ありがとうございます。朝ドラ(『らんまん』主題歌)なので。まさか、ですよね。いつかはやりたかったけれども、こんなに早く担当させてもらえるとは思っていなかったから、びっくりしましたね」
――朝ドラで、特に思い入れのある作品はあるの?
「実家に住んでいた時は、特によく観てました。主題歌で言ったら、私はKiroroの“Best Friend”が大好きで(2001年『ちゅらさん』主題歌)。最近だとスピッツ“優しいあの子”(2019年『なつぞら』主題歌)も大好きで。スピッツはわりと最近だったし、この報告をもらって『ええ!?』って。実家ではお父さんとお母さんがめちゃ朝ドラ観ているので、報告した時は両親も『ええ!?』って喜んでいました」
――いつも言っているけど、本当に名曲で。でも、これは今までと違う意味で名曲。
「全然違います。三拍子もリリース自体は初めてかもしれないですね。そういう曲はデモではあるんですけど」
――どうして三拍子になったの?
「あまり意識はしていなかったです。『三拍子だね』って言われて、『ああ、確かに』っていうぐらいでした。楽曲自体も広いというか。合唱みたいな歌い方ですし。今回はかなりどっしりした感じで歌った、自分の体を膨らませたようなイメージです」
――まさに、歌の表現も今までのあいみょんになかったもので、すごく印象的なんだよね。
「最初はもっと力強く歌ってたんですよ。でも、なんか違うね、なんか違うねってなって、最終的にもっと気を抜いて、いっぱい呼吸するみたいな感じで歌ったら、こっちのほうがいいね、ってなって。レコーディングで方向性が決まりましたね。私、歌詞の内容で声質を変えるんですよ。だから、たとえば日常的で、恋愛のドロッとした楽曲やったら、もうちょっと喉をしめて、女の子っぽい声を出すとかあるんですけど。この曲には、今までやってきたどれも当てはまらなかった感じはありますね」
――今回はこの歌でいこうって決めるのに時間がかかったの?
「ボーカル録りは細かくやりましたね。いやー、朝ドラの曲って、難しいですよ(笑)。ドラマの内容や時代背景も、ほんとそれぞれじゃないですか。『らんまん』は、ちょっと昔のお話なので。やっぱ、あんまり現代っぽい言葉とか情景は合わへんなって。朝ドラの内容に、ある程度は寄り添いたいなって思いましたね」
――確かに今回の「歌」っていうのは、朝ドラで聴いてもらうための歌、要するに、毎日聴いてもらう歌じゃない。
「ああ、そうですよね。ほんっと毎日なので。でも、もちろん、その先にも飛び越えて、いろんな方に聴いてほしい気持ちも大前提で作っていました。朝ドラの曲やけど、私のシングル、私の曲なので。そこのバランスは難しかったなあ。でも、今までにないシングルになったかな。ちょっと童謡みたいな曲になったと思います」
去年あんま曲を作らなかったんですよ。普段からめちゃ曲を作っちゃうので、もったいないなって思って。めっちゃいいメロディも、朝ドラに全振りしたいなって
――曲は、どのタイミングで作ったの?「お話をいただいたのが、去年の3月の沖縄(での“双葉”MV撮影)の時。レコーディング自体は去年に終わっているので、わりと早い段階から制作が始まりました。ワンコーラスで、バーッていっぱい作って、スタッフさんに聴かせて。私の中のジャンルでも、たとえば“愛を伝えたいだとか”ではもちろんないですし、“君ロック(君はロックを聴かない)”みたいな方向性でもないですし。方向性がどこか、っていうのがすごく難しくって。曲は弾き語りでもよくない?っていうぐらい、引き算しながら。言葉数は絶対に少ないほうがいい、とか考えながら作っていましたね」
――その中でこの曲の形に行き着くわけなんだけど。とても絶妙なバランスで、たとえば、細いひもを引っ張っていくような繊細さでたどり着いたんじゃないのかな、っていう気がするんだよね。
「ほんまにそうでした。植物のことを歌いすぎてもな、とか。じゃあ、誰目線で書こうかって……植物目線、主人公の奥さん目線、主人公目線とか、様々にできるんですよね。最終的にこの曲は主人公の奥さん目線で書いてるんですけど。最初は、とらわれたかのように植物のことばっかり書いてて、ちょっとよくないかもって。もちろん、植物のことを題材にして書けばドラマにはピッタリかもしれないですけど、『そこを越えていかないと』っていうのが大事でしたね」
――まさに、僕がこの曲に感動したのはそこで。老若男女が聴くから、「誰かに向けて」ってやると、他の誰かを排除してしまうというか。だから、誰にでも伝わるように大きな輪郭の中でやらなきゃいけない。ある意味、あいみょんの曲としては、具体的なテーマを歌うという普段のリングからおりるというか。
「そこのすり合わせが大変やった感じがします。でも、やっぱり私、考えすぎたら、変な曲ばっかりできるんですよ。自分も納得いかないような曲ができるから。なんだかんだ、本当に何も考えずに書いたほうが、意外と正解にたどり着くことが多くて。無理するとよくないなって。無理やりな言葉しか出てこないんですよね。『この言葉を使ったらちょっとエモい』とか、悪い心になっちゃうんです」
――今言ってくれた「無理やりな言葉選び」っていうのは印象的なワードだなあ。
「『適当やな』『世の中にありふれてんな』っていう言葉遣いが見えると、自分でもショックなんですよ。『こんなんじゃ、あかんで』って、すっごく思います。私は歌詞を面白く書きたいとか、楽しんでほしいっていう気持ちが強いので。自分の強みって思いたいところやのに、無理やりガーッて書くと、すごく適当な歌になってしまうなって思っていて。しかも、去年あんま曲を作らなかったんですよ。それも、朝ドラに全集中するためで。私、普段からめちゃ曲を作っちゃうので、もったいないなって思って。めっちゃいいメロディも、朝ドラに全振りしたいなって。ほんと、それぐらいでした」
――今までは、「やっぱりあいみょんの曲は今回もいいよね」なんてね、あいみょんっていう人が作ってきたイメージの中に当たり前のように積み重なっていくような印象があったけど、この曲は、違うところにドンと違うものが咲いた感じがする。
「そうであってほしいです。それこそ、若い子たちだけじゃなく、上の年代の方にも聴いてほしい、歌ってほしいなって思いますし。ディレクターさんに『学校の教科書に載るような、老若男女が歌えて、っていう楽曲になればいいよね』って言ってもらえた時、『確かに』って。そこは、夢があるなあと思いました。合唱コンクールで歌ってくれたら嬉しいですね」