【インタビュー】クボタカイの新作『返事はいらない』は、なぜこれほど深い愛を感じさせるか。シンガーソングライターとしての進化をひもとくロングインタビュー!

【インタビュー】クボタカイの新作『返事はいらない』は、なぜこれほど深い愛を感じさせるか。シンガーソングライターとしての進化をひもとくロングインタビュー!

僕も自分で聴いていて、《愛している》って言っちゃった!みたいな(笑)。でも逆にそこをストレートに言っちゃうのもありだなと思った

──久しぶりのフルアルバムですが、『来光』以降、1曲ずつ丁寧に作っていきながら、ついにこのアルバムに着地したという感じがします。

「そうですね。シングル曲をたくさん出してきたし、『来光』を出したあとの僕の2年間がこのアルバムに詰まっていると思うと胸が熱いし、楽曲もいろんなテイストがあって、それぞれの時代で思っていたことがあって、ほんとに僕自身、昔書いた『手紙』を読み返すような特別感があります」

──ほんとに1曲1曲が、非常に丁寧に時間をかけて作られていると思うんですよね。だからこそ良曲が並ぶアルバムになるのは必然なんですが、そのアルバム作品が『返事はいらない』というタイトルで、全13曲の「手紙」だというコンセプトは、どういう思いから?

「僕はやはり自分の音楽、自分の良さをできるだけいろいろな人に聴いてもらいたいというのがあるので、楽曲によって音楽性は様々なんですよね。でもどの曲も誰かを思って書く、何かを思って書く『手紙』だというのは共通していることだなと。だから、この作品は手紙がキーワードになるなと思って『返事はいらない』というタイトルにしました」

──まず感じたのが、歌詞がとても研ぎ澄まされていて、深いところで感情を揺さぶられるものが多いということでした。作詞するうえで何か変化はありましたか?

「そうですね。変化、あります(笑)。今までは歌詞を書くときにひとつの方法しか知らなかったというか、自分の中でこういうやり方が書きやすいよねっていうセオリーがあったんですけど、ネクストレベルというか、新しい自分にもなりたいという思いもあって歌詞を勉強し始めて。それで作詞の選択肢が増えたというのはあります。ストレートな表現だってかっこいいし、あえてここをぼやかすのもいいしっていうように選択肢が増えてきて。なので歌詞にかける時間が長くなりましたね(笑)。まあそれは自分の手札の中で最善を導き出すという話なので大事なことなんですけど、音色も歌詞の表現もいろいろ変わってきているのかなと自分でも感じています。気持ちを適切に伝えられるような歌詞をそれぞれの曲で選んでいるので」

──“ロマンスでした”では最初の1行から驚きました。ど直球の《愛している》という言葉で始まる曲で。

「僕も自分で聴いていて、うわ、《愛している》って言っちゃった!みたいな(笑)。月並みですけど、『愛してる』を直接言わずにどう表現するかというベタなテーマってありますよね。でも逆にそこをストレートに言っちゃうのもありだなと思ったし、どういう状況でどういう心境でそれを思ったのかというのは、ほかのパートの歌詞であとから肉付けしていくということで、言ってみればオチを最初に言ってしまうというようなやり方にトライしています」

──シンプルな言葉だからこそ、時間をかけて紡いでいったという感覚でしたか?

「そうですね。今までは直感でパンと出てきた言葉に従うのが美しいと思っていたところがあって、それは今も消えてはないんですけど、そこから練り直すことがすごく増えましたね。あとは、同じ意味の言葉だったとしても、母音はあ行のほうが気持ちいいなとか、切り裂き音の言葉がここに入ると聴いていて気持ちいいなとか」

──そういう語感へのこだわりも随所に感じられますよね。言葉の意味としてもちろん最適なものを選ぶとして、耳にしたときの語感もとても大事にされている。そこはクボタさんの強みだと思います。

「ありがとうございます。僕はラップから音楽に入ったので、メロディだけでなく、フロウという考え方が身についていて。歌ものというか、歌いあげるような楽曲を作るときにもそのエッセンスは自然に入っていると思います。明確に押韻というわけではないんですけど、同じ母音を同じパートに配置していたり」

──“タイムリミット”の歌い出しを聴いたときにも、絶妙な韻の気持ち良さと意味の持たせ方が見事だなと思って。

「“タイムリミット”は個人的にすごく好きな曲で、のれる曲っていうか、こういうファンキーチューンを作ってみたかったんです。なので意外と素早く書けましたね。これは最初アコギ1本でデモを作ったんですけど、アレンジャーのU凪うしろさんと若干のリファレンスを送り合いながら、お互いの意見を擦り合わせるときに、フューチャーファンクだったりリズムがドンドンドンと鳴っているうえでキラキラした音が鳴っているような曲をバンドでできたら面白いよねっていう話になって」

僕も年齢的に24歳になり、考え方や恋愛観が少しずつ変化しているんですよね。ある意味、今この世代だから書けているのかなっていう楽曲もたくさんあります

──同じくU凪さんのアレンジで作り上げた“ふたりぼっち”がまた、これまでにないくらいブライトなポップロックで。新機軸を感じました。

「これは家でギターのコードをバーッと弾いていて。明るめのコードだったんですけど、この明るさでちょっとじとっとした毒のある歌詞を歌ったら面白いんじゃないかなと思って、自宅でデモを作りあげて。最初のワンフレーズは情景的には爽やかな朝を迎えたような歌詞ですけど、その1行が書けてから、『でも昨日はどういう夜があったのか?』と、自分でももっとこの曲を知りたいという思いでデモを作っていきました。それをU凪さんのアレンジで、アルバムの統一感として、ブラックミュージックのニュアンスをどれだけきれいに入れられるかというのが、自分としては裏テーマでしたね。というところで最終的に“ふたりぼっち”はスカの要素を取り入れています」

──明るく爽やかなイメージから、歌詞はどんどん切実に思いが膨らんでいくように展開していきますよね。

「そうですね。ここ最近の楽曲では、『ああ辛いな』の一歩先を描きたくて。不安な思いの中で、じゃあどう信じられるかというのを描きたいという思いがあるので、この“ふたりぼっち”の《最後がいい》というサビに至りました。幸せを知って、『この人が最後の人かも』と思っていたけれどお別れしましたっていうのはよくある話ですけど、それを繰り返していくのが恋愛であり人生だと思うので。それでも《最後がいい》って言っちゃう前向きさは、このキャッチーなビートだったら追い風になって歌えるなと思って、この曲が完成しましたね」

──ともすれば《最後がいい》という思いは湿っぽくなりがちなんだけど、このサウンドならではですよね。サウンドが連れてきた歌詞でもあると。

「完全にそうだと思います。今までの自分の楽曲にはない曲ですよね。『苦しいよ』から一歩先、『じゃあ幸せになるように信じてみない?』という歌詞をつけたのは、僕の中での進歩でもあります。この曲と“蝶つがい”はそういう曲ですね」

──確かに“蝶つがい”も、将来への不安が完全に払拭されているわけではないんだけど、永遠の愛を信じてみようと思える、ポジティブでピュアなラブソングでした。

「ひとりの人間として、僕も年齢的に24歳になり、考え方や恋愛観が少しずつ変化しているんですよね。わかりやすいのは、地元の友人たちが結婚ラッシュだっていうこととか、僕自身の感情が楽曲にも影響しているのかなと思います。ある意味、今この世代だから書けているのかなっていう楽曲もたくさんありますね」

──クボタさんがシンガーソングライターとしていちばんはじめに作ったのは“Nakasu night.”という曲で、それは大きな失恋がきっかけになって、それを曲にしておきたい、曲にしなければという衝動で書き上げた楽曲でしたが、その頃と今とでは歌詞の書き方が変化している?

「変わってる部分もあれば変わっていない部分もあると思います。当時、初めて楽曲を作った頃って、『うわあ、失恋した!』っていうその感情を真空パックするというか。この感情を今、曲にしなきゃっていう感じでしたけど、今は『祈り』の真空パックというか。感情ももちろんあるけれど、でもそれを受け止めてじゃあどう考えるのかっていう。瞬間を描くことには変わりないんですけど、『僕はこうしたい、君はこんなふうに思っている?』とか、その瞬間に何を考えているのかが少し変わってきたのかなと思います」

──感情があって、でもその先にどうするか、どうしたいのかを考えて歌詞に落とし込みたいから、結果として作詞にも時間がかかるようになってきたんですかね。

「ああ、そうかもしれませんね。言われてみれば、ですけど。感情の若さだったり、思いついてそのまま書くフレッシュさも重要なものだとも思うんですけど、やっぱり丁寧に書きたいなっていうのが、ここ数年あったので」

──たとえば“エックスフレンド”にしても、かなりクリティカルな歌詞だと思うけど、これってめちゃめちゃ深い愛だと思うんですよ。

「人によってはこの考え方は違うと言う人もいるかもしれないけれど、過去の友達──それがただの友達でもボーイフレンドでもセックスフレンドでも──自分と出会う前にいた人たちというのは、そのときにその人のことを守ってくれたり、成長させてくれたりした人たちだと思うんですよね。自分だって、運命の人だと思える相手にいきなりレベル1の状態で出会ったら、その人をちゃんと守れるかどうかわからない。だから、いろんな失敗があったうえで、いざ大切にしたい人が現れたときには戦える自分でありたいというのはとても重要なことだと思えたんですよ。だとしたら、過去の経験をくれた方々には感謝だよねっていう、そういう思いをこの曲には込めました」

──過去のボーイフレンド、セックスフレンドに対してもその思いを持てるというのがすごいし、それも含めてすべてを肯定する深い愛だなと。

「過去は仕方ないし咎められるものでもないし、きっと全員が全員、完全にきれいなものではないと思うし。それがリアルだと思います。嘘偽りなく描きたいのでそう書きましたね」

次のページ手紙には絶対にその人の抱いている感情が込もっているし、そこを大事にしたいというのはこれからも変わらないと思います
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