【インタビュー】中嶋イッキュウが10年かけて完成させたソロ作品『DEAD』──なぜ、彼女は今ソロ活動を選ぶのか? 裸の自分を語る

【インタビュー】中嶋イッキュウが10年かけて完成させたソロ作品『DEAD』──なぜ、彼女は今ソロ活動を選ぶのか? 裸の自分を語る
tricotではギターボーカルとしてエクスペリメンタルなオルタナティブロックの一翼を担い、個性派揃いのジェニーハイでは紅一点のフロントマンとしてアイコニックな存在感を発揮。ギタリストの山本幹宗とのユニット・好芻ではドリーミーでインディポップ然とした佇まいの作品を生み出す。おまけにアパレルブランドを手掛けたり絵画やアートのフィールドでも才能を発揮──と、あらためて書き連ねるまでもなく中嶋イッキュウはとんでもなく多才なアーティストである。

そんな彼女が流通盤としては初のソロ作品となるミニアルバム『DEAD』をリリースした。守備範囲の広さゆえにどんな作風になっても驚かないくらいなのだが、元を辿れば2015〜6年から着手していたというプライベートな創作が結実した本作で見せた姿は、自らのルーツであるロックやポップスへのストレートな憧憬だった。いったい彼女は何を想い、どのようにしてソロ作品と向き合い練り上げていったのか、そしてソロでの創作活動に何を求め、何を見出したのだろうか。

インタビュー=風間大洋 撮影=馬込将充


ひとりになったらどんなものが出るんだろう?っていう自分への問いが大きかった

──ソロ活動自体はかなり以前から始めていたんですよね。

最初にソロをやりましょうっていう話になったのは2014年、tricotからドラムが抜けちゃって3人になった時ですね。当時のマネージャーから「それぞれのソロ作品を出したら面白いんじゃないか」という話があって、言われるがままに曲を作ってみたら、提出したのが自分だけだったんです(笑)。曲をいっぱい作ってはみたものの、結局その時はまずtricotをやりたいということになって。

──先日配信された“sweet sweat sweets”は当時の曲ですが、語解を恐れずに言えばtricotでやっている音楽よりだいぶわかりやすいというか。

ソロがわかりやすいのか、tricotがわかりづらいと言ったらいいのか(笑)。変拍子とかも好きですけど、ひとりだと楽曲を作るスキルもそこまでないし、シンプルなものも好きなところが出たのかなと思います。


──バンドでやっている音楽がすでにあるうえでのソロとなると、どんな自分を出そうか?みたいなことも考えました?

tricotがこうやからソロはこうしようというのは全然考えなかったです。自分でゼロから曲を作る経験がそんなになかったし、とにかく練習感覚で「曲みたいなもの」をPC上で作っていただけでした。こういうのが作りたい!というよりは、ひとりになったらどんなものが出るんだろう?っていう自分への問いが大きかったのかもしれないですね。この『DEAD』は当時に作った曲をリアレンジしてるんですけど、リアレンジする時もそういう問いをしていきました。

──あっ、完全な新曲はないんですね。

そうなんです。倉庫にいっぱい曲があるから、デッドストック品として出そうみたいな意味でタイトルも『DEAD』にしました。

──2019年にもCDや配信ではない形のレコーディングとリリースはしていますよね。

そうなんです。実費で友人たちにお願いして、DALLJUB STEP CLUBのリズム隊のふたりと、Sawagiのキーボードとギタリストとレコーディングしました。自分のやっているブランドのTシャツにQRコードを書いてそこからダウンロードできたり、缶バッジ型のオーディオ機器として売って、それが壊れたらもう聴けないっていうやり方でした。tricotがメジャーに行く年で、メインはtricotであってほしかったので。あとはロマンですよね(笑)。誰でもどこでも音楽を聴けちゃうことに面白くなさを感じちゃってた時期だったので。サブスクが当たり前になって、YouTubeでもどんどんオススメされるようになったからこそ、自分で求めて必死になって買わないと聴けない音楽がいいなと思って。その時の音源には“マンション”と、リミックス前の“甘口”が入ってました。

【インタビュー】中嶋イッキュウが10年かけて完成させたソロ作品『DEAD』──なぜ、彼女は今ソロ活動を選ぶのか? 裸の自分を語る

SNSを一回止めようと思ったのは私が情報を与え続けてる状態だとファンの方たちにとっては流れてるだけの他人事になってしまって、距離感を感じたというか

──tricotはもちろん、他にもジェニーハイ、好芻などイッキュウさんには表現のステージが複数ありますけど、ご自分の中ではそれぞれどんな分け方をしてるんですか。

tricotはギターのキダ(モティフォ)さんが高校の軽音楽部の憧れの先輩で、当時すごく下手くそで誰もバンドを組んでくれなかった自分が神のようなキダさんとバンドを組めたっていう、夢みたいな存在として始まっていて。ヒロミ(・ヒロヒロ)さん、吉田(雄介)さんと素晴らしいメンバーが集まってくれてもう14年くらいやれてるので、今ではなんでも気の許せる家族みたいな立ち位置です。いい意味で空気のような、なくてはならない存在ですけど、その意識もしてないというか。

──ライフワークになっている?

はい。ジェニーハイは、tricotでやってきたようなステージじゃないところで音楽活動をできる学びが多い居場所で。アリーナでワンマンやりますとかMステに出ますとかいうプレッシャーがすごくあるはずの機会でも、メンバーのみなさんがすごく寛容で面白くラフな感じで接してくれるので、押しつぶされることなくいろんなところへ出ていける。好芻に関しては、いろんなところでサポートやアレンジに関わっていたりする幹宗さんから経験を教えていただいていて。別にやり方をどうこうではないんですけど、一緒に楽曲を作ることで自然と学べることが多いですね。ジェニーハイではパフォーマンスの面やフロントマンとしての学びが多くて、好芻に関しては制作や音作りの面で得るものが多いですね。

──さまざまな活動がある中、このタイミングでソロ作品を出そうというのはどういう流れだったんですか。

作ってからずっと絶妙にモヤモヤしていたというか、あるのに出さへんのはもったいないという気持ちはあって。去年の9月くらいから翌年のことを考え始めた時に、その時点でtricotもジェニーハイもリリースの予定が特に決まってなかったので、ファンの方たちにとっての楽しみが一個あったらいいなと思ったんですね。tricotやジェニーハイの活動がまた活発化するまでの間、音楽家であることを忘れないでいてほしいという気持ちもあったし、出すならこのタイミングがいいなと。ちょうど人にも恵まれて出すことができました。

──実際の制作は今年に入ってからですか?

あんまりうまくスタートダッシュが切れなくて(笑)。2月半ばくらいからメンバーが決まっていって、2月末にはレコーディングっていう本当に鬼ダッシュなスケジュールでした。

──YouTubeで公開されているインタビュー動画では、ちょうどその今年の頭くらいにSNSから離れていた期間のことを「人生について考え直してた」と発言されてましたよね。

SNSを一回止めようと思ったのは情報過多になっていたからなんです。好芻がリリースしました、ジェニーハイはツアーしてます、tricotもツアーしてますとか、個展もやってます、こんなTシャツが出ましたとか(笑)。ずーっと私が情報を与え続けてる状態だと流れてるだけの他人事になってしまって、ファンの方たちとの距離感を感じたというか。

──ああー、わかります。

だったら一回私から発信するのは止めて、tricotやジェニーハイのオフィシャルSNSをフォローしてもらえるように動線を整理しようと思ったのが最初でした。なので、SNSを止めるってなるとちょっと心に何かあったんかな?みたいに思われがちですけど、そんなに病んでるとかでもなく(笑)。あとは帰ってきた時の情報がしっかりみんなに届いてほしかったので、『DEAD』の情報とともに帰ってこようと決めてました。

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