そんなpachaeが、10月から放送されるアニメ『妻、小学生になる。』の主題歌“アイノリユニオン”を手がけたのだが、これがすこぶるいい。ダンサブルで少々トリッキーな幕開けから、リズムチェンジや転調を繰り返してキャッチーかつ力強いサビへと至る流れは爽快で、シンプルな言葉を用いつつ作品のテーマ性にもしっかり寄り添っていくリリックも秀逸。明らかに一段階覚醒した新曲について、そしてこれまでの歩みについてもじっくりと迫る、rockinon.com初インタビューをお届けする。
インタビュー=風間大洋 撮影=金本凜太朗
──まず、どのように始まったバンドなんですか。テツandトモの“なんでだろう”のパッションと、ミスチルの“マシンガンをぶっ放せ”の尖り具合に、ボカロとミッシェルを足して今になりました(音山)
音山 僕が近所の公園で弾き語りしてた時に、結成当時のドラマーが話しかけてきて仲良くなったんですよ。ちょうどバンドをやりたかったけど、どこでメンバーを探したらいいかもわかってなかったんで、そいつとふたりでやり始めて。
──それが時期としてはいつ頃ですか?
音山 弾き語りをやってたのは2015年頃からの3年間くらいなので、2018年頃ですかね? メンバーを探すのに累計2年くらいかかったんですけど、最終的に、結成時のメンバーは知り合いを通して2週間くらいで集まりました。ドラムが後輩のバンバと当時のベースを連れて来て、さなえは僕が個人的に他のイベントで出会って。
さなえ 最初は全員が全員初対面、みたいな感じで。私は当時、実はもうひとつ別のバンドからも誘われてたんですけど、“冥王星ガール”の弾き語りのMVを音山さんが送ってくれて、めちゃくちゃ惹かれたので決めました。
バンバ 僕は当時大学1年で、軽音部を速攻やめて時間を持て余してたんですよ。そうしたら「弾き語りのライブおいでよ」って誘われて。
音山 ああ、懐かし!
バンバ 僕も“冥王星ガール”めっちゃ好きで、「いいねえ」と思いながらライブを観てましたね。
──ルーツを辿ると、それぞれどんな音楽が好みなんですか?
さなえ いっぱいいるんですけど、両親の影響もあってパット・メセニーとかライル・メイズ、アース・ウインド & ファイアーとか、1970~80年代くらいの曲をずっと聴いてて。運転が好きなので、車の中でも流してます。
バンバ 僕は入口がandymoriですね。そこからRADWIMPSとかサカナクションも聴いたし、だんだんとそういう人たちが好きな洋楽に行って、今はシューゲイズとかドリームポップが好きでめちゃくちゃ聴きますね。めちゃくちゃ雑食やと思います。
──でも一貫してバンドものではあるんですね。
バンバ あ、そうですね。絶対バンドでした、結局は。
──音山さんは?
音山 中学くらいはミスチルにハマっていて。ピアノをずっとやってたので、ピアノでミスチルを弾いたり。で、高校入ってからはめちゃくちゃ雑食にいろいろ聴きました。ギターでいちばん弾いたのはTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTかもしれないけど、ボカロも両立して聴いてて、頭おかしい感じになってました(笑)。DTMでボカロみたいな曲を作るけど、ギターはミッシェルみたいな音しか知らんから、バリバリでジャキジャキの音でデモを作る、みたいな。でも、最初に買ったCDはテツandトモの『なんでだろう』だから、遡るといちばんのルーツはテツですね。
バンバ いや、トモは?(笑)。
音山 (笑)。今思い出したんですけど、2枚目に買ったのがミスチルの『マシンガンをぶっ放せ』で、ちっちゃいCDをボロボロになって全く再生できなくなるまで聴いてたので、人生でいちばん聴いた曲は“マシンガンをぶっ放せ”ですね。だから“なんでだろう”のパッションと“マシンガンをぶっ放せ”の尖り具合に、ボカロとミッシェルを足して今の感じになりました。
──単一の文脈では語りきれない今の音楽性にも通ずる話ですね。
音山 そうですね。その流れがあったからこそ、結局最終的にはなんでも聴くようになったので。
──という面々が集まって、最初はどういう音楽をやろうということになったんですか。この先の時代は「売れなくていい」と思ってないと売れないと思っていて。「別にどっちでもいいけど」って楽しくやるスタンスのほうが、結局いい風が吹く気がする(音山)
音山 俺は「絶対こういう音楽をやりたい」みたいなこだわりはあんまりなかったし、みんなの人生も懸かってるわけなので、成果というか、大きいステージに立てたほうがいいと思ってました。だから、今からの時代にヒットするジャンルでありつつ、抜け穴みたいなところを突いていきたくて。ただ、売れるためだけにやってるという気持ちはないんですよ、最初から。
──そこが第一目標にはなってないけど、全く度外視もしてないわけですよね。「大きいステージに立てたほうがいい」ということは。
音山 この先の時代は「売れなくていい」と思ってないと売れないと思っていて。「別にどっちでもいいけど」って楽しくやるスタンスのほうが、結局はいい風が吹く気がするので。
──そんな音山さんが作る曲についてふたりはどんな印象ですか。
さなえ もう、出てくる曲全部が好きで。持って来てくれるフレーズが、私が今までやってきた音楽からすると新しい感じがするので、全部を吸収していってます。
バンバ マジで毎回思うのは「ムズそうー!」っていう。実際にムズいんですよね、どう考えても(笑)。でも演奏できた時に気持ちがいいし、展開も面白いので弾いていて楽しいです。
音山 あんまりルーツにこだわりすぎると押しつけになるし、バンバとか俺みたいにいろいろ好きで聴くほうがいいと思っていて。いろんなものを取り入れて混ざってるので、セクションによっては俺も「何これ?」って思いながら作ってますけど。
──何かを追っかけてるようなものには惹かれないというのは、売れたいと思わないという話とも近いかもしれないですね。これまでの制作も、常にその時々の自分のやりたいことに忠実なやり方ですか。
音山 そうですね。その時に感覚的に「これ!」って思ったものを形にしていて。中学や高校の頃は「こうしたい」と思ってもどうしたらいいかわからなかったですけど、今はなんとなく正解の形がわかるようになったのは、それに似た何かをたくさん聴いてきたからだと思うんですね。だから先に理屈で考えることはないです。
──その中でも、ポップであることは常に制作の芯としてありますよね。
音山 それはそうですね。ポップからあまりに離れた音楽は好みとして聴かなかったというのもあるかもしれないです。やっぱり歌謡曲が好きやったので。芸術作品に関しては、それを受け取って鳥肌立ったものが自分のセンスだと思うんですけど、自分が感銘を受けて鳥肌立ったのは、ものすごくうまく作られた歌詞とか、あまりにもよすぎるメロディだったんですよね。だから自分も、みんなが歌いたいような曲を作りたいと思ってます。でも、ゆくゆくはメンバーが1曲を作り上げることもあったら面白いですけどね。
バンバ 僕が作るとしたらめっちゃインディーロックみたいになっちゃいそうやなぁ。
音山 ええやん!
バンバ 楽しそうやけどな、それはそれで。でもミニマルすぎる感じもするねんな。
音山 それをpachaeっぽく落とし込んでく、みたいな。一旦好き勝手作ってもらって、どこを弄れば最低限pachaeっぽくなるかの作業だけやれば、めっちゃ面白いんじゃないかと思ってて。
さなえ 私は実は“WeLcOmE pOp!!!”の変拍子のところを丸投げしてもらって作りました。エレクトーンをずっとやってきてるので、歌詞とかは書けないですけど、メロディとかは勝負していきたいですね。
音山 さなえが作ってきた変拍子のセクション、誰が弾けんねん!ってくらい難しかったんですけど、それもそんなに弄らず、ちょっと変えるだけで思いのほかpachaeっぽくなったんですよ。そういうのをもっとやっていけたら面白いなと。
──さなえさんは飛び道具を持っているタイプなんですね。
さなえ (笑)。
音山 飛び道具っていうことは、1曲それでいく必要はないので。インディーロックでもなんでも、ひとつのセクションに10秒だけ入れるでも面白いと思っていて。