Gotch×ボールズ@渋谷CLUB QUATTRO

Gotch×ボールズ@渋谷CLUB QUATTRO - pic by MITCH IKEDApic by MITCH IKEDA
ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文(Vo・G)が、Gotch名義でリリースした初ソロアルバム『Can’t Be Forever Young』を引っさげ全国をまわったツアー『Gotch Tour 2014「Can’t Be Forever Young」』。12日、ツアー・ファイナルとなる渋谷クラブクアトロには「立錐の余地もない」という表現が誇張でないほど、本当にたくさんのファンが詰めかけていた。ソロ作で提示されたアジカンとは異なるテイストの音楽と、ステージ上でそれを鳴らすために組まれた6人編成の個性的なツアーバンドへの期待が、会場の空気をいっそう熱くしている。この日のライブは、自然体の演奏をリラックスしながら楽しめるものでありながら、どこかに一種、おごそかな雰囲気もあり、また、クールで批評的な音楽観をもつ演奏ながらも、アーティストとオーディエンスのあいだには心地よいバイブスが流れ、最終的に幸福感すら感じられるという、深い余韻の残るステージだった。ただGotch本人は、途中のMCで「今回のツアーでいろんな街に行ったけれど、アジカンにくらべてGotch人気がどうも低い。それがちょっと悔しい」なんて笑いながら、ぼやいていたけれども。

Gotch×ボールズ@渋谷CLUB QUATTRO - pic by 坂本正郁 (sakamoto masafumi)pic by 坂本正郁 (sakamoto masafumi)
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この日はまず、ボールズ(ex.ミラーマン)がオープニングアクトを担当。関西出身の5人組で、Gotchがツイッターなどで高く評価し、彼らのミニアルバム『ニューシネマ』が話題となった。7月のメジャーデビューを控え、バンド名をミラーマンからボールズに改名。USインディバンドを思わせるギター・サウンドとポップなメロディ、ソウルフルなボーカルが特徴で、この日も「僕らの重厚なグルーヴで、みなさんを全力で満足させます」とイキのいい演奏を聴かせてくれた。特にラスト2曲、“Akutagawa trip”と“メルトサマー”は、宣言通りのパワフルさ、みずみずしさだ。山本剛義(Vo・G)のMCによれば「めでたい日に、めでたいことが重なって」、この日の朝、6人目のメンバーであるPA担当スタッフに、赤ちゃんが誕生したとのこと。このエピソードに会場も一気にハッピーなムードに満たされた。

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そしていよいよGotchバンドの登場だ。ステージにはGotchを含め7人の大所帯。メンバーは井上陽介(G・Cho/Turntable Films、Subtle Control)、佐藤亮(G)、下村亮介 (Key1・Cho/the chef cooks me) 、戸川琢磨 (B/TYN5G、ex COMEBACK MY DAUGHTERS)、YeYe(Cho・Per・Key)、mabanua(Dr)。全員揃いの黒いジャケットを着用し、Gotchはさらに上下黒のセットアップに、黒い帽子姿。『Can’t Be Forever Young』のカバーイメージを踏襲しながら、帽子のツバが少し大きく、ギターを抱えたジャケットの中もTシャツなので、ボヘミアン風、または吟遊詩人のように見えたりする。演奏はサンバのリズムが明るい“Humanoid Girl / 機械仕掛けのあの娘”からスタート。“The Long Goodbye / 長いお別れ”“Can't Be Forever Young / いのちを燃やせ”と、ドラムのビートが効いたアッパーな曲を続けた。「ツアーしながら、僕ら、みんなでボードゲームをするくらい打ち解けてね(笑)。今日で終わっちゃうのが寂しいです。最後まで、体をゆらゆらしながら、楽しんでください」とMCしたGotch。アジカンのスタジアムコンサートで、何万人もが一斉に手を振る光景も壮観だが、こうしたクラブサーキットで、客席が思い思いの揺れ方でビートに反応している姿も、気取らない自由さがある。Gotchの宅録を基にした、静止画的な印象のあった曲たちも、バンドメンバーの肉体を通して直接的に音が発せられることで、生き生きした躍動感がより際立ったようだった。

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“Can't Be Forever Young / いのちを燃やせ”で、安易に歌われがちな人生応援歌を痛烈に皮肉ったあと、中間部にあたる“Stray Cats in the Rain / 野良猫たちは雨の中”以降の曲で、徐々に、Gotchがいまの社会に感じているリアルな認識がトレースされていったように、筆者は感じた。≪雨降りの日も濡れたからだ寄せ合って≫≪喜びも悲しみも癒えない傷も見せ合って/さあ 生きよう≫という“Stray Cats in the Rain / 野良猫たちは雨の中”で、困難な状況にある人々への共感が強く歌われ、≪群れからはぐれたブラックバード/大きな交差点を右折するタクシーは もう行ってしまったよ≫≪迷い鳥/それが僕だよ≫と歌う“Blackbird Sings at Night / 黒歌鳥は夜に鳴く”では、逆に方向感覚を失ってしまった孤独感が滲む。そして震災からちょうど3年、今年3月11日に限定配信された“Route 6 / 6号線”では、東京と福島を結ぶ国道6号線を≪トボトボと≫≪何もなさだけが溢れ出した≫という歌詞の情景を、アコースティックギター、タンバリン、シンセなどが空漠として描き出し、語りかけるようなボーカルがそこに乗る。ソロアルバムのカバー写真で、黒服で佇むGotchの姿は、過ぎ去った何かを見送るようであり、来たる何かを待ちわびるようでもあった。勝手な解釈かもしれないが、大きな喪失に立ち会ったわれわれは、すでに行って(逝って)しまったものを思いつつ、明日を生きるしかない、その生と死の交錯のなかに、いま奏でている音もあるのだという認識が、彼らの演奏に表れていたのではなかろうか。下村亮介のピアニカと、YeYeの女声コーラスに導かれて始まった“Aspirin / アスピリン”は、ピアニカの音が優しく空間に溶けて消えていくさなか、そのあとを追うようにYeYeとGotchのボーカルが新たな歌を紡ぎ出していく。Gotchが身につけた黒いジャケットが、吟遊詩人的な自由さと同時に、どこか厳粛な雰囲気をまとったのも、生と死へのそんな視線ゆえではなかったろうか。

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やがて、ステージは終盤へ。ホリエアツシとの共作“Great Escape from Reality / 偉大なる逃避行”のラップと穏やかなグルーヴが、再びフロアをゆっくり揺らし始めた。続く“Lost / 喪失”では≪全てを失うために/全てを手に入れようぜ≫と、喪失というテーマをポジティブに反転させて歌い、間髪入れずに始まった“Nervous Breakdown / 軽いノイローゼ”の太いベース・ラインとエレキギターは、どこか禁欲的とも感じられたサウンドに、ロック的な官能をもたらす。客席の歓声と興奮も、バンドに呼応するかのようにしだいに熱を帯びていった。カバーで取り上げた“Only Love Can Break Your Heart”(ニール・ヤング)、“A Shot In The Arm”(ウィルコ)の2曲も出色で、若さの独善さや自己完結することの脆さを歌った“Only Love Can Break Your Heart”と、変化や喪失をテーマとする“A Shot In The Arm”は、選曲の意図もよく伝わる。特にキラキラしたキーボードのフレーズとノイジーなギターによって、グイグイと眼前の視界が明るく開けていく“A Shot In The Arm”には、大歓声が巻き起こった。プリミティブなドラムのパターンが、聴くものを笑顔にする不思議な魅力をもった“A Girl in Love / 恋する乙女”で、本編はひとまず終了。

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アンコールでステージに戻ったGotchは、the chef cooks meのサポートメンバーのトランペット、トロンボーン、サックスの3管を呼び込み“Wonderland / 不思議の国”を総勢10人で演奏。「ツアー中、ホーンの代わりをシンセがやってくれたけど、やっぱり人間が吹くとエネルギーが違うね」とうれしそうに語り、再び7人のバンドに戻ったあと「ライブやお祭りって、元々しがらみから離れて自由に振る舞える場所。今日はとてもいい雰囲気だった。最後に新曲をやります」と紹介して“Baby Don't Cry”へ。たぶんこれで全曲目終了のはずだったが、演奏が終わり、メンバーたちがステージを降りても、観客は誰も帰らず、次のアンコールを求める拍手と歓声が鳴り止まない。そんな状態がしばらく続いたので「ごめんね、もう曲がないんだ。あいさつだけ。俺たちこの通り、完全に私服に着替えてしまって」と、申し訳なさそうに再登場したGotchたちは、「じゃあ」とアコギ、タンバリン、フロアタムなどだけを使い、アンプラグドのスタイルで“A Girl in Love / 恋する乙女”を途中からもう一度演奏した。「ブラウスのボタンが」「取れちゃうパターン」とメンバーと客席が、生歌と手拍子で呼応し、会場が自然にひとつになる。いろいろな意味を暗示していた黒いジャケットを脱いで、普段着に戻り、ギター1本で歌うGotchの姿もまたよかった。それは純粋に、歌と音楽を人々が等しく共有しあう幸福な光景に見えたのだ。(岸田智)

■セットリスト

<ボールズ>

01.ばんねん
02.退屈な遊び
03.渚
04.通り雨
05.Akutagawa trip
06.メルトサマー


<Gotch>

01.Humanoid Girl / 機械仕掛けのあの娘
02.The Long Goodbye / 長いお別れ
03.Can’t Be Forever Young / いのちを燃やせ
04.Stray Cats in the Rain / 野良猫たちは雨の中
05.Aspirin / アスピリン
06.Route 6 / 6号線
07.Blackbird Sings at Night / 黒歌鳥は夜に鳴く
08.Only Love Can Break Your Heart (ニール・ヤング)
09.Great Escape from Reality / 偉大なる逃避行
10.Lost / 喪失
11.Nervous Breakdown / 軽いノイローゼ
12.A Shot In The Arm (ウィルコ)
13.Sequel to the Story / 話の続き
14.A Girl in Love / 恋する乙女

(encore1)
15.Wonderland / 不思議の国
16.Baby Don't Cry

(encore2)
17.A Girl in Love / 恋する乙女
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