ソロ・デビュー10周年のベスト盤『KX』リリース、ライヴ・ハウス・ツアー『K10』と大きなトピックが相次いでいるKREVAのアニヴァーサリー・イヤー。そんな2014年の「908 FESTIVAL」は、まず8/28に大阪フェスティバルホールで「908 FESTIVAL in OSAKA」が開催され、武道館2デイズの初日となる9/7はアイデア満載の独壇場エンターテインメント「完全1人武道館」を敢行。そして迎えた「クレバの日」こと9/8は、豪華絢爛な出演アーティストの顔ぶれと共に繰り広げられるお祭りのステージだ。この武道館2日目の模様をレポートしたいのだが、こんなに細部まで突き詰めて練り上げるか、という進行と構成(LITTLEはステージ上で「言えって言われたからね!」とぶっちゃけていた)、そこから立ち上る「908 FESTIVAL」唯一無二のヴァイブに、ひたすら驚かされっ放しとなる一夜であった。
開演時間定刻、熱気の立ち籠めた場内をさらにオープニング映像が煽り立て、908FES HOUSE BAND(柿崎洋一郎・Key、近田潔人・G、岡雄三・B、 白根佳尚・Dr、熊井吾郎・MPC&DJ)による華やかなイントロが響き渡ると、そこにKREVAが姿を見せ、滑らかな歌い出し&力強いダンス・グルーヴの“トランキライザー”によってさっそく満場のオーディエンスを跳ね上がらせる。このあと次々に登場する名ヴォーカリストたちに目を奪われがちではあるのだけれど、彼らのラップや歌唱を支えるバンドの演奏は一貫して力強く、ときに繊細な、素晴らしいものになっていた。黒ベース衣装のKREVAとは好対照な白い衣装でステージに姿を見せたのは盟友・三浦大知だ。この2014年、シングル曲というわけでもないのに最早完全にアンセム化している“全速力 feat. 三浦大知”で、2人はその声を放ちながらステージ上で全力ダッシュし交差する。ここでKREVAからステージを預けられた大知は、「今日の『908 FES』、そーとースペシャルの連続ですよ、皆さん!」と声を上げ、“Blow You Away!”のスター性全開なダンスを織り交ぜるパフォーマンス、それに目下の最新シングル“Anchor”では腹あたりまでマイクを引き離して圧巻の声量を披露する名唱と、ステージを加熱してくれた。
三浦大知と並んで大阪公演にも出演したAKLOは、“CHASER”から沸々と立ち上がるラップのリレー、じわじわとにじり寄るような迫力のフロウでオーディエンスの胸を撃ち抜くと、「やー、俺、今日が初めての武道館なんすよー。噛み締めておいた方がいいよね」と、興奮したファンがステージ上の彼に飛びかかって来る、といった妄想まで語り倒し、「9/3リリースのアルバム(『The Arrival』)で俺、掴まえられるものなら掴まえてみろって言ったわ」とKREVAを迎え入れてのコラボ・チューン“Catch Me If You Can feat. KREVA”に持ち込む。そして派手な衣装で再登場したKREVAは、「AKLOがいるからこんな格好で出て来ちゃったけど、いなくなったら寂しくなっちゃったなー」と告げながら“くればいいのに”のラップを放ち始める。最初にサビメロを受け持ったのは近田潔人の雄弁なギターだったのだが、「この曲をたくさんの人に歌ってもらってきたけど、俺はどうしてもこの声が聴きたかったんだよ!」と呼び込まれるのはなんと、鈴木雅之だ。あのソウルフルな美声で“くればいいのに”のサビを歌い上げ、「くればいいのに、って言っても、実際はなかなか来てくれないじゃないですか」というKREVAの問いかけには、「なに、人生相談?(笑) 来てくれなかったら……夢で逢えばいいじゃない」と切り返して“夢で逢えたら”の大合唱を誘ってみせる。自身の昨年のアルバム『Open Sesame』(「ひらけゴマ、の意」)からは、「僕はほら、ラブソングの王様だから(笑)。KREVAには、ラップの大魔王になってくれって言ったんだよ」と、早着替えで頭にターバンを巻いたKREVAがくしゃみ一発からのラップを添えるコラボ曲“僕らの奇跡 ~Open Sesame~ feat. KREVA”も届けられるのだった。
「おい熊、今、次の曲行こうとした? 俺がプロデュースした曲なんだから、俺にかけさせろよ」とDJブースに乗り込むKREVA。「そして、事前にアナウンスしていないアーティストが出て来てもいいだろ?」と響き渡るトラックは、ULのアルバム『ULTRAP』から“La La Like a Love Song”だ。それぞれ純白の衣装で姿を見せ、ラップしてゆくMCUとLITTLE。またもや早着替えのKREVAがステージに舞い戻り、「やっと3人で出来たなあ、この曲〜」と満足げに語りながらMCUと立ち去ろうとすると、2人の背中にLITTLEが浴びせかけるのは「《まだ何も終わっちゃいないぜ》!!」の一撃。もちろん、沸騰必死のKICK THE CAN CREW“イツナロウバ”である。合いの手のノリ感が増幅され、武道館は瞬く間にキックらしいヴァイブに満たされていった。「夏フェスとか出て、みんな次は何をやるんだって思ってると思うんだよね。予想の斜め上から行くから。雄志くん、今日は何の日?」「『908 FES』?」「フェスと言えば?」「祭り?」「祭りと言えば?」「み、神輿ー!?」といった掛け合いで傾れ込む、RHYMESTERの宇多丸&Mummy-Dが加わっての5本マイク“神輿ロッカーズ”。宇多丸はブロンドのヘアピースを被っての登場だが、この顔ぶれのリレーになると、なぜかマイク捌きが一層タイトになるキックの3人が可笑しい。さらに、「俺らが休んでる間、俺らの曲とかやってなかったっすか?(KREVA)」「あれはホラ、お前ら、もうやらないと思ってたから……(宇多丸)」「さっき、予想の斜め上から行くって言ったでしょ(KREVA)」「まさか……合体的な?(宇多丸)」「ニバイニバーイ!!(Mummy-D)」といったふうに、ここでなんとキック+ライムス合体版“マルシェ”を投下である。最初のヴァースを担うのは、マイクを握って中央に躍り出たDJ JINだ。この賑々しいスペシャル・チューンを届けたところで宇多丸は、「ファンのみんななら、俺のちょっとした間違いにも気づいたと思います。いや、難しいんだよ“マルシェ”は! ラップの掛け合いとして高度で。ああいう曲がヒットしたってことは、本当に素晴らしいと思う」と語り、ここからはあらためてRHYMESTERとして、ライムス結成25周年のベスト盤『The R ~ The Best of RHYMESTER 2009-2014 ~』にも収録される胸熱の2曲“ONCE AGAIN”と“The Choice Is Yours”を決めてみせるのだった。
そして、「この場でしか起こらないマジックが起こると思います!」という宇多丸の声を合図に登場したのは、久保田利伸である。ソウルフルで力強い歌声はもちろん、軽やかな身のこなしを見せつけながら楽曲を捉え、KREVAと共にかつてのコラボ・シングル曲“M☆A☆G☆I☆C meets KREVA”を披露する。大喝采に応えて「いやー、ありがとうっ! じゃあ俺、ニューヨークに帰らなきゃいけないんだよ。成田なんだよ。しかも格安チケットなんだよ」と立ち去ろうとする久保田を「ちょちょちょちょ兄貴! みんな聴きたいと思って、用意しちゃったんだよ!」と引き止めるKREVA。ピアノのイントロが聴こえると、「これ、俺の曲じゃん。《まわれ まわれ》じゃん」と言いながら久保田はなおも帰ろうとするのだが、お株を奪うようにその“LA・LA・LA LOVE SONG”を歌いながら登場するのは三浦大知だ。KREVAと久保田は「聴こうよ、聴こうよ」とステージ脇のベンチに腰掛け、「いいぞー!!」とか何とか囃し立てている。ところが、大知が1コーラスを歌い切ったところで、もう我慢できない、とばかりにステージ中央に飛び出して歌い出す久保田。そのまま久保田×大知の、競い合うような熱いソウル歌唱の応酬となるデュエットへと発展してしまうのだった。凄い。
さあ、前日の「完全1人武道館」における、ライミング予備校やセミ・アコースティックのパフォーマンスといったアイデア満載のステージをダイジェスト映像で振り返ると、KREVAは2014年の夏を見送る“イッサイガッサイ”からのクライマックスに向かって行った。ここでも“蜃気楼 feat. 三浦大知”や“中盤戦 feat.Mummy-D”といったKREVA作品のコラボ曲が披露され、さらにはオーディエンスともコラボを、とばかりに爆発的な歌声を巻き起こす“Na Na Na”へ。大合唱のためにデザインされ、大合唱によって完成するような1曲だ。「10周年という節目になると、どうしても振り返らざるを得なくて。長かったですか、短かったですか、って訊かれるうちに思ったのは、続いたってことは始めたってことじゃないですか。始めないと、続かないから」と語ると、足元に炎が揺らめくような演出の中でインディーズのソロ・デビュー曲“希望の炎”を歌い上げてゆく。KREVAのヴォーカル表現の向上と比例して、この始まりの1曲も聴く度に深みを増し、新鮮な衝撃を損なうことがない。成長し続ける一曲なのだ。そして2004年9月8日、丁度10年前にリリースされた、底なしの音楽愛を伝えるメジャー・デビュー曲“音色”。アンコールは華やかな一夜を最後まで華やかに締め括る“パーティーはIZUKO?”で、出演者全員が集合し、10周年のクレバの日は幕を閉じた。
1曲1曲が躍動感溢れる、生のヒット・パレード。しかしその繋ぎは余りに滑らかで、まるでミュージカルのようでもあった。普段のステージから周到に「観せ方/聴かせ方」を考え抜いているKREVAではあるが、それは自分自身と戦い続ける彼のストイシズムゆえだろうか。そうではない。彼は、自分と戦った、という自己満足など求めてはいない。KREVAは他でもなく、目の前にいるファンと、オーディエンスとせめぎ合っているのだ。そうでなければ、名実共に卓越したスキルを持つラッパーの彼が、“Na Na Na”のような曲を生み出したりはしない。彼はその絶大な音楽愛をもって、オーディエンスの歌声を「最高の楽器」と呼んでいた。豪華絢爛なヒット・パレードに“Na Na Na”を並べ、あの身を震わせるような爆発的な歌声を導くこと。KREVAが塗り替えようとするポップ・ミュージック史の決定的瞬間は、例えばそんなところにもある。KREVAはこれからもまた、まっすぐにあなたと向き合い続けるはずだ。(小池宏和)
■セットリスト
<KREVA>
01.908 FES 新超INTRO
02.トランキライザー
03.全速力 feat. 三浦大知
<三浦大知>
04.Right Now
05.Blow You Away!
06.Anchor
<AKLO>
07.CHASER~RED PILL~NEW DAYS MOVE
08.Catch Me If You Can feat. KREVA
<鈴木雅之>
09.くればいいのに feat. 鈴木雅之
10.夢で逢えたら
11.僕らの奇跡 ~Open Sesame~ feat. KREVA
<UL ~ KICK THE CAN CREW>
12.La La Like a Love Song
13.イツナロウバ
14.神輿ロッカーズ
15.マルシェ with RHYMESTER
<RHYMESTER>
16.ONCE AGAIN
17.The Choice Is Yours
<久保田利伸>
18.M☆A☆G☆I☆C /久保田利伸 meets KREVA
19.LA・LA・LA LOVE SONG
<KREVA>
20.超イントロ
21.イッサイガッサイ
22.蜃気楼 feat. 三浦大知
23.中盤戦 feat.Mummy-D
24.Na Na Na
25.希望の炎
26.音色
(encore)
27.パーティーはIZUKO?
908 FESTIVAL 2014(2日目)
2014.09.08