時は後漢末期、ではなく西暦2014年。所は中国、ではなく新木場STUDIO COAST。The Mirrazとキュウソネコカミのメンバーに、お気に入りの漫画『三国志』第1巻(横山光輝)をボロボロにされたN'夙川BOYS・マーヤLOVEの怒りをキッカケにして、新木場STUDIO COASTの1stステージ(メインステージ)、2ndステージ(中くらいのステージ)、3rdステージ(クソみたいなステージ)を3組が奪い合う大乱闘が始まろうとしていた。強者のみが最高の場所でライヴをすることができる――三国時代の始まりとなった黄巾の乱のように、この平成の世で三国の争いが始まるのだ。
――という設定で開催された「N'夙川BOYS presents ロックンロール三国志?っと!Ⅱ〜黄巾ゾックゾクの乱〜」。事前に行われた3DS『真・三国無双』での対決の結果、夙川が1stステージ(通常ライヴで使われるステージ)、ミイラズが2ndステージ(下手前方の設置されたサブステージ)、キュウソが3rdステージ(普段はフロアの一部になっている上手後方のバルコニー)から、3組同時に(!?)ライヴをスタートさせることが決定済み。集まったオーディエンスは様々な方向を向きながら開演を待っていた。
「夙」「木」「窮」と書かれたのぼり旗を携えて現れた3組。各々のステージにスタンバイすると、最初に音を鳴らしたのは夙川! しゃがれた声でシャウトを繰り返すマーヤとキュートな歌声のリンダdadaの声のコントラストは今夜も鮮やかだし、ゴールドの衣装×シルバーのギターという自らの眩しい配色に負けないくらいド派手なシンノスケBoysのギターソロだってバッチリ炸裂する。こうして夙川が“プラネットマジック”で戦いの火蓋を切って落とすと、2ndステージのミイラズが間髪入れずに“真夏の屯田兵 ~yeah! yeah! yeah!~”を投下! 諸葛亮孔明の衣装(この日のために用意したらしい)を纏った畠山承平(Vo・G)は、ステージを降りて演奏したりしてゴキゲンな様子だ。そして畠山が指さした先、3rdステージのキュウソは“DQNなりたい、40代で死にたい”を演奏。横一列に並ぶ5人はとても窮屈そうだ。バルコニーの柵を越えてオーディエンスの上に堂々と立ったヤマサキセイヤ(Vo・G)&興奮が止まらない様子のファンたちに対して、1stステージにいるマーヤが「落ち着けー!」と笑うくらいのハイテンションっぷり。……と、こんな感じでそれぞれが1曲ずつ披露しながら進めていく構成。三方向それぞれから演奏が始まるたびに、人の波がその方向へグワッと押し寄せる光景は圧巻だった。
“KMDT25”を終えたところで、「いつまでこんなところでやらせんのじゃー!ふざけるなー!」と叫ぶヤマサキに、「映像編集したのにこの扱いはおかしいだろ!」と加勢する畠山(註:YouTubeで公開されていたこのイベントの予告編動画を監督・編集したのは畠山である)。そしてなぜか騎馬戦で決着をつけることに。夙川代表・マーヤ/ミイラズ代表・新谷元輝(Dr)/キュウソ代表・ヤマサキが、馬(と頑なに言っていたが実際はビニールボート)に乗って観客の頭上をサーフ。畠山主導のカラーボールの「投石」もありつつ、対決の結果、1stステージ=キュウソ、2ndステージ=夙川、3rdステージ=ミイラズに。転換の間には、ミニギター&段ボールと布団叩きのパーカッションセットという即席のアコースティックセットで夙川が“The シーン”を、そして畠山は弾き語りで(レア!)“シスター”を演奏。
そして“ビビった”から始まった3巡目。この3組のなかで一番若手であるキュウソは、メインステージの上で堂々としたパフォーマンスを繰り広げて会場をしっかりと盛り上げる。2400人規模のこの会場でもしっかりと掌握していく様子には頼もしさすら感じた。4巡目で10月15日にリリースするアルバムから“プロタゴニストの一日は”を演奏したミイラズ。矢継ぎ早に繰り出される言葉やバンドのサウンドの鋭さはしっかりと保ちつつ、というかさらに研ぎ澄ましつつ、サビで大きく飛翔するこの曲はとてつもなく大きなロマンを内包している。バンドをもっと先の場所へ連れて行ってくれるような、そんな曲に成長していく予感がした。
「お前ら後輩なんだから譲れ!」(畠山)、「キュウソはメインステージ似合わへんと思うねん!」(シンノスケ)と2バンドが噛みつけば、今度は騎馬戦ゴムパッチン(馬に乗った人がゴムを噛んで引っ張り合う競技)でステージ振り分けをするという展開に。キュウソ代表・ソゴウタイスケ(Dr)/夙川代表・リンダ/ミイラズ代表・中島ケイゾー(B)による対決の結果、1stステージ=ミイラズ、2ndステージ=キュウソ、3rdステージ=夙川に決定。移動の間には「生まれて初めて人前で弾き語りをする」と緊張気味だったヤマサキが“何も無い休日”を披露。アップテンポ~スローテンポを行き来しながら、歌声とギターの音色に人間の情けなさを滲ませた彼の弾き語りは泥臭く、血の通ったブルースだ。素晴らしかった。
「戦いは佳境に向かっていきます! ミイラズ、ムカつくが行けー!」とマーヤからの愛のあるエールを受け取ったミイラズによる“CANのジャケットのモンスターみたいのが現れて世界壊しちゃえばいい”でスタートすれば、“良いDJ”(キュウソ)、“24hour”(夙川)と三者三様のアッパーチューンが続く5巡目。そしてミイラズがその曲名通り“ラストナンバー”で締めれば、キュウソは「これが中国四千年の歴史だー!」という叫びがこのイベントにピッタリな“お願いシェンロン”ののち、「筋斗雲」と書かれた段ボールに乗っかったヤマサキを他4人が持ち上げた状態で退場。「飴ちゃんみたいなあなたたちに捧げる曲行きまっせ!」とのリンダの言葉に導かれた夙川のラストチューンはもちろん“Candy People”! 担当楽器をどんどん交代しながらアンバランスに進んでいくベースレスのサウンド。それぞれの強烈な個性を思う存分振りまくようなステージング。煌めきを纏いながら歪に転がっていくロックンロールは、オーディエンス一人ひとりの胸を弾ませる。そのマジカルな魅力に身を任せるかのようにフロアからはいくつもの腕が高々と上がったのだった。コール&レスポンスで曲を終了させたところで、マーヤLOVEの手元に巻物が届く。そこには「夙川城が黄巾賊に占領された」という知らせが書かれていて……!?というところで本編終了。
アンコールでは、出演者がイベント限定グッズの黄色のTシャツを着て登場。「The 黄巾賊」と名乗り、どさくさに紛れて各バンドのアルバムやツアーの告知をぶっ込みながら「この城落とすのめっちゃ簡単やったなあ」と寸劇風やりとりを繰り広げる。そして「今夜は宴やー!」「宴といえば、爆音で騒ぎてぇな!」ということで、ミイラズ畠山が作ってきたという新曲“超めんどくせぇ!!!”を3組合同バンドで演奏!(終演後にはこの曲を収録したCDが物販に売っていた)。そのまま夙川の“物語はちと?不安定”で大団円! オーディエンスの上に立ちながらキュウソ&ミイラズに感謝の言葉を述べるマーヤ……という感動的な場面を経て、満場の「三国志?っと!」コールがラストを鮮やかに飾ったのだった。
ということで、ものすごい情報量&ハンパないおもてなし感が詰まったこのイベント。「俺たちなんでもやりますよ」と先輩からのムチャぶりにも快く応えるキュウソネコカミと、自分たち主催ではないにもかかわらず様々な提案をしながらこの日を盛り上げることに尽力してきたThe Mirraz。そして、「強力なゲストを2バンド迎え、三国志という世界の中でロックンロールで対決」というムチャクチャな企画を考え、実行してしまったN'夙川BOYS。エンターテインメント精神が旺盛なこの3組だからこその夜だったといえるだろう。最高に楽しかった!(蜂須賀ちなみ)
■セットリスト
01.プラネットマジック(N'夙川BOYS)
02.真夏の屯田兵 ~yeah! yeah! yeah!~(The Mirraz)
03.DQNなりたい、40代で死にたい(キュウソネコカミ)
04.Freedom(N'夙川BOYS)
05.check it out! check it out! check it out! check it out!(The Mirraz)
06.KMDT25(キュウソネコカミ)
07.The シーン(アコースティック/N'夙川BOYS)
08.シスター(アコースティック/The Mirraz・畠山承平)
09.ビビった(キュウソネコカミ)
10.路地裏BE-BOP(N'夙川BOYS)
11.観覧車に乗る君が夜景に照らされてるうちは(The Mirraz)
12.ファントムバイブレーション(キュウソネコカミ)
13.ジーザスフレンド(N'夙川BOYS)
14.プロタゴニストの一日は(The Mirraz)
15.I'm waiting for the ah~(アコースティック/N'夙川BOYS)
16.何も無い休日(アコースティック/キュウソネコカミ・ヤマサキ セイヤ)
17.CANのジャケットのモンスターみたいのが現れて世界壊しちゃえばいい(The Mirraz)
18.良いDJ(キュウソネコカミ)
19.24hour(N'夙川BOYS)
20.ラストナンバー(The Mirraz)
21.お願いシェンロン(キュウソネコカミ)
22.Candy People(N'夙川BOYS)
(encore)
23.超めんどくせぇ!!!(The 黄巾賊)
24.物語はちと?不安定(The 黄巾賊)