luki@渋谷LUSH

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アルバム『東京物語』の発売を記念して行われた、今回のlukiのフリーライヴ。約30分、全6曲構成のミニライヴでありながら、彼女の新しいポップネスと希望の在り方がはっきりと提示された、まさに充実のパフォーマンスだった。

lukiのライヴを目撃できたのは、今年2月のイベント「CUT NIGHT」でのアコースティック・ライヴ以来、実に10ヶ月ぶりのことだ。ステージは奥一面にスクリーンが張られ、左右にギターとキーボードが配置されたシンプルなもの。静かでアブストラクトなBGMが流れる中、ステージ前に置かれた数列分の椅子と、その後ろに立つ人でほとんど埋まった観客の前に、円山天使(G)と山本哲也(Key)のふたりに続いていよいよlukiが登場する。アルバム『東京物語』のジャケット写真どおりの白いブラウスとミニスカートのいでたちで、ふわっとステージ中央に立ちマイクを握ると、アルバムのリード曲“東京”でライヴがスタート。バックのスクリーンに大きく映された電車や高速道路などのイメージの中で、lukiがダンサブルで肉体的なEDMサウンドに乗ってメロディを歌い上げると、完全にアップデートされた「今」のサウンドとして、新しいlukiのグルーヴが会場を染め上げていく。ライヴ冒頭からの思わぬテンションの高まりに、大きく頭を揺らして応える観客の姿も目に入る。続く“観覧車”でも、ハンドマイクで歌いながら左手をひらひらと舞わせたり、ビートに合わせてピョンピョンと跳ねながら、楽しそうに曲のダイナミズムに身を任せるlukiの姿が、本当に新鮮だ。アルバム『東京物語』でEDMサウンドを導入した理由について、彼女は自分の感情表現において、今はそれがギターロックのフォーマットに頼るよりもジャストなものに思えると語っていた。ライヴでは、早くもその感覚がさらに解放的に表現されているということだと思う。

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そして、「みなさまのおかげで、やっとフルアルバムを出すことができました。どうもありがとうございます」というMCにフロアから温かい拍手が起こった後の“曖昧なファンタジー”では、よりダークな面をぐっと強調したパフォーマンスが展開される。チルウェイヴ以降の洋楽インディ・ロックと通底するようなミニマルで尖ったビートとリフのアンサンブルが、不穏で抽象的な映像イメージと重なってステージの緊張感を一気に引き上げる中、lukiの歌声が恋愛感情の生々しい震えにタッチするように、歌謡的なメロディで美しく切ない心象風景を描き出していく。さらに、luki本人がランナーとして疾走するPVについてのエピソードを語ったMCを挟んで演奏された“KISS OR KILL”でも、音源よりもボトムとループ感が際立つアレンジで、アルバム随一のロックナンバーとしての攻撃性が、よりクールな手応えで鳴らされていく。そして、あっという間に本編最後の曲になったのは“100年後のあなたへ”。東日本大震災の原発事故をきっかけに書かれたこの楽曲は、アルバム『東京物語』の完成とともに、以前ライヴで披露されたアレンジから大きな進化を遂げた曲でもある。lukiが100年後の未来へと捧げた希望と祈りが、EDMサウンドの肉体性と共に、かつてないパワフルさで音楽として鳴り響き、彼女のヴォーカリゼーションという意味でも、過去最高のパフォーマンスを観ることのできた一曲だったと思う。観客の中にも、一緒に声を上げて踊る人が目に映った。

luki@渋谷LUSH
ここで一度ステージを去ったlukiが大きな拍手で再びステージに戻ってくると、アンコールは“揺れる梯子”。シンセとギターの音色が、まるで階段のように天に駆け上がっていくこの力強いポップナンバーをlukiが最後に選んだのは、おそらく今の彼女の中にある希望がそういうものだからだ。今日の30分は、ここから未来に向かってさらに逞しく進化していくであろうlukiの音楽へ、強い期待を残してくれるパフォーマンスだった。次に彼女が登場する12月31日のCOUNTDOWN JAPANでも、今日のライヴを踏まえて、より力強いlukiのステージが観られるはずだ。楽しみに見守っていきたい。(松村耕太朗)

■セットリスト
01.東京
02.観覧車
03.曖昧なファンタジー
04.KISS OR KILL
05.100年後のあなたへ

(encore)
06.揺れる梯子
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