米津玄師@LIQUIDROOM

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「今、俺すっごい楽しくて。これをやるために音楽やってきたって気持ちになるというか……。よく分からないんだけど、ほんとにありがとうございます」――ストレートな言葉で喜びと感謝を告げる米津玄師のもとに拍手が集まっていく。その場面はとても温かく、優しく、そして美しかった。今年6月に初のワンマンライヴを行った米津玄師によるツアー「帰りの会・続編」。12月2日の大阪・BIGCAT公演、12月4日の福岡・DRUM LOGOS公演を経て、12月11日の東京・LIQUIDROOM公演は彼にとって4度目のワンマンライヴ。セットリストこそ6月の代官山UNIT公演「帰りの会」を引き継いだものだったが、ヴォーカリスト/フロントマンとしての米津玄師が次のフェーズに差し掛かったことを告げるかのような軽やかでいて痛快なライヴだった。

誰もいないステージをボンヤリと照らす青色の照明と鳴り渡るSEが幻想的な雰囲気を作り出すなか、サポートメンバーの中島宏(G)、須藤優(B)、堀正輝(Dr)、そして米津が登場。会場一面の温かい拍手が4人を迎え入れる。そして最初に鳴らされたのは堀による生き生きとしたマーチのリズム――1曲目はアルバム『diorama』でも冒頭を飾った“街”だ。様々な図形や何種類もの色が重ねられているアニメーションがスクリーンに映し出されるなか、バンドが鳴らすビートも米津の真っ直ぐな歌声もどんどん力強いものになっていく。その熱量が1度目のピークに達したところで“街”は終了。サッと音が止むと、真っ白な逆光が4人のシルエットを浮かび上がらせるなか、同期のコーラスが鳴り渡り“リビングデッド・ユース”へ。そのまま間髪入れず“MAD HEAD LOVE”に突入すれば、性急なアンサンブルがオーディエンスの脳をダイレクトに揺らしにかかる。会場まるごと楽曲世界の中へと一気に引き込む冒頭の3曲の流れは実に見事だった。“MAD HEAD LOVE”ではハンドクラップに興じるオーディエンスの姿を見て、やや控えめに自らも手を叩いてみる米津。この日はその他にもオーディエンスのリアクションを楽しんでみせる様子も多く見受けられた。

米津玄師@LIQUIDROOM
「どうも米津玄師です。今日は楽しんでいってください」と短い挨拶を挟んですぐに演奏を再開。ギターを持たずにゆらゆらと揺れながら唄い進めた“駄菓子屋商売”、跳ねるリズムが印象的な“ホラ吹き猫野郎”。楽曲のキーとなる同期音を取り入れつつも、違和感と好奇心の境目をくすぐる和音の濁らせ方から、一筋縄ではいかないブレイク&キメの入れ方まで、呼吸を合わせながらも楽曲のフックとなる要素を次々と繰り出していく4人。この息の合い方、まだ4回目のワンマンライヴだなんてにわかに信じ難い。MCではサポートメンバーの紹介を終えたあと、「ギターの中ちゃんが面白い話をしてくれるそうです」と米津がムチャ振り。タジタジでそれに応える中島。ニコニコと笑う米津に対して須藤&堀が「鬼のような振りだね」とツッコむなど、和やかな空気だった。間に“メランコリーキッチン”を挟みつつも、たった1人での弾き語りで1番丸々唄い上げた“眼福”、モノクロのアニメーションが映された“vivi” 、続けて“アイネクライネ”……とバラード群が続いたセットリスト中盤。前半に比べると歌声には疲れが見えてきていたが、だからといって決して萎んでいくことはなく、ひたすら真っ直ぐに丁寧に歌声を奮わせる米津。その歌は、非合理的だけど尊くて愛おしい、日常生活における愛情とそれに伴う感情――つまり、米津の楽曲が描き出しているそれら――をそのまま体現するかのようでとても美しかった。「別れ」という悲しみと隣り合わせの喜び。誰かの不幸の上に成り立つ幸福。相手を想うがゆえの嘘、のちの後悔。手に取れそうなほどの切実さで以ってそれらが私たちの目の前で鳴らされる。

「生きてていいことってあんまりないよね。楽しいなって思うことってあんまりなくね?」。まるで友達に話しかけるみたいに飾り気のない調子で米津が語りかけると、フロアからは「今!」「今楽しいよ!」といくつもの声が。ふと彼の表情がやわらいだ。「今、俺すっごい楽しくて。これをやるために音楽やってきたって気持ちになるというか……。よく分からないんだけど、ほんとにありがとうございます。(今回のライヴを)どのくらいの規模の会場でやるかを決めるとき、スタッフからは『もっと大きくしないと観られない人がいっぱい出る』とも言われて考えました。でも、1個1個積み上げていきたいんです。中身が伴わないでハリボテになったら何も意味がない。俺は意味があることをやりたいと思います。今、1人1人の顔がすごくよく見えます。今一度感謝の言葉を述べていいですか。ありがとうございます」。丁寧に重ねられた言葉たちに大きな拍手が贈られたのだった。

米津玄師@LIQUIDROOM
「速い曲をいっぱいやるので大変だと思いますが、大変なのはこちらも一緒なので(笑)、ついてきてくれるとありがたいです」という宣言通り、米津の力強い「ワン、ツー、スリー!」が幕開けを告げた“ゴーゴー幽霊船”からはラストに向けてアッパーチューンが連投されていく。ハチ名義の楽曲“パンダヒーロー”では4人の背後にニコニコ動画やYouTubeで公開中のアニメーションMVが映される。まるでリアルとネットが交錯したかのような、「米津玄師」と「ハチ」が交錯したかのような演出が不思議な昂揚感を誘ってくれた。「次で最後の曲です。……(「えー!?」という声を制するしぐさをしながら)……ありがとうございました」とラストの“WOODEN DOLL”で祝祭感に満ちたところで本編終了。ハンドクラップの音に次第に「アンコール!」という声まで加わり、4人が再登場すれば「フゥウウウ!」と歓声を上げるオーディエンスはまだまだ興奮冷めやらぬ様子。「新曲やります」ということで始まったのは、来年1月14日にリリースを控えたシングルのタイトル曲“Flowerwall”。未来へと向かっていく意志と光のようにすべてを包み込む包容力とを兼ね備えたミディアムテンポのバラードだった。そのあとは“ドーナツホール”と“遊園市街”(ハチ名義の楽曲)の2曲を披露。「これで『帰りの会・続編』、ツアー3ヶ所終わりました。最後にひとつだけ言わせてください。家に帰るまでが『帰りの会』です。バイバイ!」。ユーモアを交えつつも潔い最後の挨拶まで、実に清々しいライヴだった。

ライヴをするということは、自分の音楽に関わる人の人数が増えるということ。また、クリエイターという立場だけには留まれず、ヴォーカリスト/フロントマンとしての自分ともより一層向き合わなければならなくなるということ。音楽や絵などの多彩な才能を活かし、ネット文化を背景に活躍してきた米津にとっては「頭の中で描いていたことを完璧に再現することが難しくなる」ということは最初にぶち当たる壁のひとつであっただろう。しかし、それと真っ直ぐ向き合った上で表現を尽くし、何もかもひっくるめて「楽しむ」という形で昇華していく米津の姿には新たな可能性を感じた。開放感と喜びに満ちた空間を生み出したのは紛れもなく、米津自身の音楽に対する誠実さだ。彼がこれからも積み重ねていくであろう1つ1つの過程と、向かう先の景色には、大きな期待を抱かざるをえない。(蜂須賀ちなみ)

■セットリスト

01.街
02.リビングデッド・ユース
03.MAD HEAD LOVE
04.しとど晴天大迷惑
05.駄菓子屋商売
06.百鬼夜行
07.ホラ吹き猫野郎
08.眼福
09.メランコリーキッチン
10.vivi
11.アイネクライネ
12.ゴーゴー幽霊船
13.TOXIC BOY
14.パンダヒーロー
15.WOODEN DOLL

(encore)
16.Flowerwall
17.ドーナツホール
18.遊園市街
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