スクエアプッシャー @ 恵比寿ガーデンホール

凄まじすぎるライヴだった。一晩あけた今も震えが止まらない。なんせモノはスクエアプッシャーだ。ちょっとやそっとのことじゃ驚かない。こっちの生半可な予想や願望をはるかにぶっちぎるような、とんでもなくクレイジーでイカれたものを期待しているからだ。しかしこの日の体験はあまりに強烈すぎた。隅々までばっちりフォーカスのあっためちゃくちゃ高細密で分解能の高い8K映像のようなキレッキレの緻密な音像と、彼の脳内妄想を具現化したとしか思えないぶっとびまくった映像のシンクロ・ショウにこっちの意識は終始覚醒しっぱなしだった。

スーパーウーファー4発を仕込んだという怒濤の重量級音響の音圧の凄まじさに聴覚をやられ、2面スクリーンで展開されるパンデミックな狂気のCG映像と、フェンシングのマスクのようなフルフェイスのヘルメットをかぶり人間プロジェクションマッピング化したスクエアプッシャー自身が完全に一体化したヴィジュアルの異常感覚に視覚をやられ、次々と繰り出される異様に細かく刻まれる常軌を逸した高速ブレイクビーツの音列に平衡感覚をやられ、踊るどころか満足にカラダも動かせないラッシュアワー時の田園都市線並みの超満員のフロアから立ち上ってくる冷気と熱気のコンフュージョンに触覚をやられ、パキンパキンに硬質で黒光りする音色のシャープで冷たい感触に脳内麻薬が出まくり、ひたすら覚醒しながらも意識は朦朧としてくる、という異様な体験。サウンド構成そのものは音源から想像できる範疇を超えてはいないが、もはや超常現象としか思えない圧倒的な音と光の洪水は異様な高揚感とともに体中に突き刺さり、五感を刺激しまくる。脳内が電脳ネットワークと一体化し、人間が機械化・デジタル化していく感覚というか、体中の感覚という感覚が間断なく繰り出される刺激で別の何かに変容していくような、激ヤバな体験だった。

繊細さとかしっとりした情緒とか細やかな感情表現とか微妙な色使いとか、そんなものとはまったく無縁な、ひたすら硬質でドライでダイナミックな、見たことも聞いたこともない巨大な音の塊に容赦なく殴られまくる感じ。合わない人には絶対合わないだろうけど、この極度に人間離れした未来的音像はこの人のライヴでしか体験できないものだ。

自分のやりたいことをやりたいようにとことんやる、回りの思惑や期待など知ったことではない、と公言するスクエアプッシャーことトム・ジェンキンソンだが、決してアーティスト・エゴのかたまりではない。再三に渡って客を煽りまくり、自らの作り出した狂気の音像に自ら興奮したかのように激しく首を振る姿は、決して彼が実験室に引きこもり面妖な実験を繰り返すマッド・サイエンティストではなく、聴衆とともに思いきり楽しむ希なパフォーマー/エンタテイナーであることを示していたと思う。僕はこういう彼の人間くさい一面が大好きだ。

通常のアーティストのライヴの何千倍も密度の濃いライヴ本編が終わり、アンコールではそんな景色は一変する。トムはヘルメットをとり、6弦ベースをもって登場。ここで彼は素に戻り人間としてのトム・ジェンキンソンを見せる。やや薄くなった頭髪をさらしながら、やおら弾き出したのは、なんとかの名作『ウルトラヴィジター』収録の名曲“Tetra-Sync”と“Iambic 9 Poetry”というサプライズ! 美しく透明な叙情あふれる音像は、ライヴ本編では決して味わえなかったトムのロマンティックな一面がうかがえ、ライヴ本編での異常体験・異常感覚が浄化されていくかのようだった。

短いようで長く、長いようで短い1時間半の超絶体験。誰とも口を利きたくないぐらい、ぐったりと疲れた。(小野島大)
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