マルーン5 @ 日本武道館

武道館の中に入ると、ちょうど前座のSOFTの演奏が始まったところだった。マルーン5目当てで来たお客さんの大半が、このバンドを観るのは初めてだと思うのだけど、実は昔、マルーン5がまさにブレイクする頃にもUKで前座を務めていた、そんなバンドである。音楽性はストーン・ローゼズにそのまま影響を受けたNY出身とは思えないもので、そうした素人らしさがこのバンドの最大の魅力なのだが、さすがに武道館は大きすぎたのかもしれない。あまり客席と噛み合うことなく、30分強の演奏が終了してしまう。独自の力学で動いているバンドだけに、本領がいまいち発揮しきれなかったのが悔しい。

一方、30分ほどの休憩を挟んで8時から始まったマルーン5のパフォーマンスは、さすがというべきもの。昔のハード・ロックのようなあまりに大きい音量には閉口したが、徹底的に構築されたアンサンブルもあって、聴いていてもそれほど苦にならない。ドラム、ベース、キーボード、ギター、どの楽器も強く自己主張をすることはなく、むしろ複雑なリズムとコード感を再現するのに、メンバー全員が最大限の気を遣っている。機材にもかなりこだわって実現しているのが分かるアンサンブルで、前回のZEPP TOKYOでの来日公演と較べても、進化を遂げていると言っていい。

そうしたゴージャスな音で演奏されるのは、もちろん、ヒット曲の数々。“メイクス・ミー・ワンダー”と“ハーダー・トゥ・ブリーズ”は早くも2曲目と3曲目で続けて演奏され、カニエ・ウェストのアルバムで先にお披露目された“ナッシング・ラスツ・フォーエヴァー”も挟みつつ、コンサートの後半では“サンデー・モーニング”“ウォント・ゴー・ホーム・ウィズアウト・ユー”“ディス・ラヴ”が3連発で演奏される。アンコールで演奏された“シー・ウィル・ビィ・ラヴド”を含めると、3曲が日本のCMで使われた楽曲になる。2000年代以降、こんなことをやった洋楽ロック・グループはいない。

けれど、逆に言えば、歌謡曲としてのあまりの高性能さが表に出すぎてしまっているグループであるとも言えるかもしれない。この日、一番印象的だったのは、ヴォーカルのアダムが腕時計をしていたこと。時折、その腕時計で演奏時間を確認しており、それによってセットリストを変えたりしていたあたりは、まさにビジネスマンらしかった。そういえば、客席にもビジネスマンの姿が多かったような気がする。(古川琢也)
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