開演早々この日リリースされたばかりの新曲“無垢な季節”が飛び出し、一気に多幸感に包まれた横浜アリーナ満場1万2千人のオーディエンスが、「ゲスの極み乙女。が、横浜アリーナにやってきたぞ! いけますか? 踊れますか?」という川谷絵音(Vo・G)の煽りでさらに熱く沸き返っていく――。大阪:大阪城ホール、札幌:北海きたえーるとアリーナ会場を巡ってきた、ゲスの極み乙女。にとって最大規模となるワンマンツアー「ゲスチック乙女〜アリーナ編〜」のファイナル。ライヴハウスのノリをそのまま大会場へと持ち込んだようなリラックス感と、アリーナクラスのダイナミズムとスケール感を備えたテクニカルなサウンドが矛盾なく存在する、ゲスの極み乙女。ならではのステージだった。
おかしらことササキミオとえつこ(katyusha)のふたりをサポートコーラスに迎えてこの日のステージに臨んだゲス乙女。休日課長(B)の高速スラップとほな・いこか(Dr)のクールなビートが清冽に駆け出す“無垢な季節”から、ちゃんMARI(Key)の鮮烈なピアノが牽引する“星降る夜に花束を”に流れ込み、さらに続けて絵音のカッティングが光る“パラレルスペック(funky ver.)”へ――とスリリングに展開、会場を揺さぶる高揚感を生み出していく。“私以外私じゃないの”“ロマンスがありあまる”“サイデンティティ”といった2015年リリースのシングル曲&カップリング曲をセットリストの要所要所に据えつつ、“猟奇的なキスを私にして”“デジタルモグラ”などアルバム『魅力がすごいよ』収録曲、“スレッドダンス”をはじめインディーズ時代の楽曲まで凝縮した充実のアクトを繰り広げていく。“ロマンスがありあまる”のちゃんMARI×絵音のWピアノのイントロ、“スレッドダンス”のピアノアルペジオ×人力ドラムンベース風ビート……といった音楽的なマジックの数々がこの巨大な空間に解き放たれることで、ゲス乙女の音楽世界のプログレッシヴ&アヴァンギャルドな妖艶さがよりいっそう際立って響いてくる。
そんなアリーナ級ライヴのクール&ポップな空気感が、MCのコーナーになると一転。本編中盤、デビュー前の課長サラリーマン時代を振り返って「会社にバレないように“ぶらっくパレード”のPVでもサングラスつけてたりして。でも、完全にバレてて、会社の会議室で“ぶらっくパレード”のPV流されて(笑)」というエピソードを語る絵音に「僕の上司の本物の課長に『お前、課長なんだって?』って言われた時は冷や汗かきましたね(笑)」と課長が応え、「頑張ったよね、あの時は。普段は別に尊敬してないけど、その時は尊敬してた……何の話してんだっけ?(笑)。でも、『ここまで来ました』っていうことですよね」(絵音) 「ありがとうございます!」(課長)と続けて拍手喝采を呼び起こして話が締まった――かと思いきや、今度は絵音が「いつも敬語なのにさ、急にスイッチ入って『えのぴょんさあ』とかね」とほな・いこかに矛先を向け……といったゆるゆるトークを繰り広げ、ついには照明スタッフに客電をフェードアウトされて次の曲入りを催促される一幕も。この晴れの大舞台に、4人が気負いや力みと無縁の状態で立っていることが、そんな場面のひとつひとつからも伝わってくる。
本編中の衣装チェンジがあったり、退場&衣装替え中にはドラマ『HERO』丸乗りのメンバー映像から“無垢な季節”ミュージックビデオのフルバージョン「宇宙初公開」へとつないだり――といった大会場ライヴならではの演出はあったものの、“ホワイトワルツ”での「ゲスの4箇条」宣誓、“餅ガール”での餅投げといったゲス乙女ならではの名場面も満載だったこの日のアクトはまさに、「ゲス乙女がアリーナという檜舞台に行った」のではなく「アリーナがゲス乙女空間に塗り替わった」と言うべき自然体な祝祭感に満ちたものだった。最新シングル曲“オトナチック”の歌とサウンドの緻密なタペストリーはどこまでも美しかったし、“アソビ”のアグレッシヴなアンサンブルは驚愕&感激必至の躍動感で会場を揺らしていった。
本編ラスト“キラーボール”でひときわ大きな歓喜の風景を描き出した後、アンコールでは未発表の新曲を披露。メランコリックなピアノポップス調の楽曲を、絵音の歌と美麗コーラスが切なく彩る名曲だ。さらに“ノーマルアタマ”でアリーナをさらに高揚させたところで終演――かと思いきや、ステージ左右のヴィジョンにメンバー4人のLINE風の会話が映し出される。「やり残したことがある気がするんだよね」「インディーズデビューの曲やってなくない?」という言葉に続いてヴィジョンに浮かび上がった文字は「『ドレスの脱ぎ方』の曲を今から全部やっちゃうでゲス!」。“ぶらっくパレード”から“モニエは悲しむ”、実はライヴ初披露という“ゲスの極み”へ、とインディーズ1stミニアルバム『ドレスの脱ぎ方』を曲順通り立て続けに演奏していく。
ゲストギタリスト=nabowa・景山奏を迎えて“momoe”を披露する前には「『女性の名前シリーズ』の新曲もできてる」と明かしていた絵音。会場一丸のコール&レスポンスから雪崩れ込んだラストの“ドレスを脱げ”がシンガロングとともに鳴り渡って、珠玉の一夜の終わりを目映く染め上げていった。終演後、10月18日に千葉LOOKで行われるkatyusha企画のイベント「歌えば尊し 企画公演」へのゲスト出演をサプライズ告知していたゲス乙女。来年3月の日本武道館公演2DAYS「ゲス乙女大集会~武道館編~」もこの気負いなき空気感のまま成功させて、もっと「その先」へ――というさらなる躍進への期待を呼び起こすには十分すぎる快演だった。(高橋智樹)
●セットリスト
01.無垢な季節
02.星降る夜に花束を
03.パラレルスペック(funky ver.)
04.私以外私じゃないの
05.ロマンスがありあまる
06.だけど僕は
07.スレッドダンス
08.猟奇的なキスを私にして
09.デジタルモグラ
10.サイデンティティ
11.ホワイトワルツ
12.オトナチック
13.Ink
14.餅ガール
15.アソビ
16.キラーボール
(encore 1)
17.新曲
18.ノーマルアタマ
(encore 2)
19.ぶらっくパレード
20.モニエは悲しむ
21.ゲスの極み
22.momoe
23.ドレスを脱げ