ゲスの極み乙女。@日本武道館

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まさに死角なし、ゲスの極み乙女。史上最高の音楽空間だった。2ndフルアルバム『両成敗』を携えて、3月30日・31日の2日間にわたって開催された、日本武道館ワンマンライヴ「ゲス乙女大集会〜武道館編〜」の2日目。冒頭の“ロマンスがありあまる”で、ちゃんMARI(Key)&川谷絵音(Vo・G)が繰り出すWピアノが、ほな・いこか(Dr)&休日課長(B)のタイトなリズムとともになめらかなポップのフォルムへと姿を変えていった瞬間から、Wアンコールの“キラーボール”で熱いシンガロングを呼び起こしてみせたフィナーレの瞬間まで……アクロバチックなまでのプレイと歌声の数々が、高密度の音のタペストリーを編み上げながら、2階席や見切れ席まで満場の武道館を高揚感の果てへと導いてみせた。
ゲスの極み乙女。@日本武道館
ゲス乙女のライヴではお馴染みのサポートコーラス=おかしらことササキミオ&えつこ(katyusha)のふたりを迎えて臨んだこの日のアクト。舞台上手から絵音→ちゃんMARI→課長という順番だった昨年の横浜アリーナ公演での並びとは一転、上手から順に課長→絵音→ちゃんMARIという絵音をセンターに配したポジショニングへ――というメンバー前列3人の立ち位置の変化も、絵音が音楽的イニシアチヴを握るゲス乙女の在り方からすれば至極当然のものとして腑に落ちるものだった。“私以外私じゃないの”“オトナチック”といったシングル曲はもちろんのこと、“勤めるリアル”“セルマ”なども含めアルバム『両成敗』の全17曲をWアンコールまで含め24曲の中に盛り込んでみせたセットリストも、「ゲスの極み乙女。最新型」の音楽的な切れ味と輝度を何よりはっきりと物語るものだったし、時にハンドマイクスタイルで「武道館!」とアグレッシヴに呼びかけていく絵音の姿からも、このステージに懸ける気迫と、満場のオーディエンスのクラップや歌声を真っ向から受け止める充実感がリアルに伝わってきた。
ゲスの極み乙女。@日本武道館
そして何より、この日のアクトにひときわ大きな驚きと感激を与えていたのは、それらの楽曲が(映像などの演出を挟みつつ)ほぼノンストップで繰り広げられた本編の展開そのもののスリルだ。ゲスの極み乙女。のライヴといえば、そのクール&アヴァンギャルドな演奏の空気感とは裏腹に、MCのコーナーでは絵音のボヤキ寸前のトークが延々と続いたり、いこかへの好意を隠そうともしない課長をいこかがSっ気たっぷりの女王様キャラ全開で冷たくあしらったり――それらの場面は、過熱した空気をクールダウンしつつ、舞台と観客の距離感を一気に近づける「ライヴハウス・ゲスの極み乙女。」的な親近感を担保するものだった。しかし、この日のライヴでは、その「親近感」サイドを担うMCをすべてアンコールに託し、彼らならではのライヴハウス感を「息つく間もない性急さ」によって再構築してみせた。それによって、ゲス乙女の「超絶テクに超絶テクを塗り重ねてポップの流線型を描く」という音楽のマジックが、観る者すべての想像を越えた一大スペクタクルとなって押し寄せてきた。

Nabowa・景山奏をゲストに迎えて演奏した“id1”の、課長&景山のWアコギと絵音の歌、いこか/ちゃんMARI/おかしら/えつこの4声コーラスが麗しのハーモニーを描き出した後、絵音&いこかのモノローグとおかしら&えつこの歌をフィーチャーしたトラック“いけないダンスダンスダンス”を経て、おかしら:ヴァイオリン/絵音&えつこ:鍵盤のトリプルキーボード編成で“いけないダンス”へ――といったプログレバンドも真っ青の変幻自在なハイパーポップ絵巻。「ここからはライヴハウスの感じでやります!」という絵音の言葉とともに、“パラレルスペック(funky ver.)”から間髪入れずに“オトナチック”へ流れ込み、さらに“Mr.ゲスX”後半の激烈メタル、ジャズとポストロックとロックンロールを足しっ放しにしたような“アソビ”の極彩色の狂騒感、とクライマックスへ向けて一点の迷いもなく昇り詰めていった終盤の展開……そのひとつひとつが、かつてないほどの鮮烈な感激をもって頭と身体を揺さぶってきた。

絵音がフライングVからエッジィなリフを繰り出す“両成敗でいいじゃない”で本編を締め括った4人+2人。アンコール冒頭では「今日はもう、“ロマンスがありあまる”が始まった時から泣きそうだった」(いこか)、「この4人で――そしてコーラスの2人と6人で、このステージに立てたことが、本当に嬉しいです!」(課長)とそれぞれ万感の想いを語り、ちゃんMARIはアリーナ席/1階席/2階席とでっかく「コポゥ!」コールを決めてみせる。一方、絵音は地元・長崎から「音楽がやりたくて東京の大学に入った」話をきっかけに、軽音楽部での課長との出会いや「絶対に課長とは相容れないと思った」という第一印象などのエピソードを語っていったものの、話が長過ぎて照明スタッフに客電をフェードアウトされる(=演奏を催促される)一幕に、客席がどっと沸く。

アンコールの“続けざまの両成敗”の間奏では前述のトリプルキーボード編成から、舞台上手に現れたスタンドつきギターでメンバー4人がギター四重奏へ、という離れ業もごく自然に演じてみせた後、“crying march”“jajaumasan”に続けて武道館一丸の「ドレスを!」「脱げ!」コール&レスポンスとともに突入したのはもちろん“ドレスを脱げ”! 高らかなシンガロングを「まだ足りないんじゃない?」といこかが煽り、金テープのキャノン砲とともに終了……かと思いきや、鳴り止まない手拍子に応えてメンバーが三たび登場。「ライヴハウスツアーは全然違うんで。みんなで汗流して、声が嗄れるまで歌いましょう!」とライヴハウスツアー「ゲスな宇宙旅行」に触れた絵音の「俺は死ぬまで歌うからな!」という叫びとともに、“餅ガール”“キラーボール”と鉄壁アンセム連射で大団円! すべての音が止んだ後、広い舞台を行き来しながら6人で何度も肩を組み一礼する姿に、惜しみない拍手喝采が降り注いでいった。(高橋智樹)


[SET LIST]

01. ロマンスがありあまる
02. 私以外私じゃないの
03. サイデンティティ
04. 星降る夜に花束を
05. 勤めるリアル
06. シリアルシンガー
07. 煙る
08. セルマ
09. 無垢
10. 無垢な季節
11. 心歌舞く
12. id 1
13. いけないダンス
14. パラレルスペック(funky ver.)
15. オトナチック
16. Mr.ゲスX
17. アソビ
18. 両成敗でいいじゃない
<アンコール>
19. 続けざまの両成敗
20. crying march
21. jajaumasan
22. ドレスを脱げ
<ダブルアンコール>
23. 餅ガール
24. キラーボール
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