昨年の英国で最も売れたデビュー・アルバムとなった『ブロッサムズ』を引っさげての再来日にして、初の単独ツアーとなった今回のステージ、オープニングは彼らのブレイクのきっかけとなったエレクトロ・ポップ・チューン“At Most A Kiss”だ。昨年のサマソニではシンセが主体となるエレクトロ、ダンス系のナンバーが未だこなれていない印象だったのだが、今回はリズムも含めびしっとタイトに決めている。続く“Blow”は一転してギター・グルーヴ主体の骨太サイケデリック・チューンで、ドラマティックに畳み掛けてくるジョシュのギター・ソロといい低音が断然逞しくなったトムのヴォーカルといい、「ぼくらマッドチェスターに憧れてます!」的な初来日時の初々しさと比べると、こちらもまたグルーヴの直径が倍になったような迫力だ。
ただし、冒頭ステージ上の彼らはまだ若干固めで、恐らくそれは大合唱につぐ大合唱と女の子たちの黄色い悲鳴の中を縫うようにしてプレイしている本国の現状と比べ、シーンと大人しめの東京のオーディエンスに戸惑ったのもあると思う。「ソー・クワイエット……」と呟くトムに向けて、ワッと沸き立ち歓声を送り始めたオーディエンスに勇気づけられたのか、“Getaway”あたりから急速にステージ上の彼らがリラックスして場も温まり始めたのを感じた。
ここでいったんチャーリーたちはステージを降り、トムがひとり残ってのアコギ弾き語りが始まる。セットリストにはなかった“Misery”をサプライズで披露してくれたのも嬉しかったが、やはり極めつけは“My Favourite Room”の弾き語りだ。インディ・ギターであり、エレクトロ・ポップであり、ギター・グルーヴであり、ダンス・ビートである、そんなブロッサムズの多様性をそれぞれに成り立たせているのは、こうして装飾を削ぎ落としたアコギ一本の弾き語りによって明らかになるずば抜けたソングライティングゆえだ。現在のUKの若手バンドでここまで曲が書けるバンドはほかにいないと思うし、彼らの新世代らしい軽やかな足取りはこの根っこの普遍性によって担保されているものなのだ。
アンコールはなし、ラストの“Charlemagne”まで約1時間というコンパクトなショウだったが、現在のUKナンバー・ワン新人バンドの全貌を知るには、ほぼ完璧なパッケージだったと思う。(粉川しの)
01. At Most A Kiss
02. Blow
03. Cut Me And I'll Bleed
04. Getaway
05. Blown Rose
06. Fourteen
07. Smashed Pianos
08. Honey Sweet
09. Across The Moor
10. Misery
11. My Favourite Room
12. Texia
13. Polka Dot Bones
14. Deep Grass
15. Charlemagne