メアリー・J.ブライジ @ 新木場スタジオコースト

メアリー・J.ブライジ @ 新木場スタジオコースト
4月28日リリースの新作『ストレングス・オブ・ア・ウーマン』を引っ提げて6年ぶりの来日を果たしたメアリー・J.ブライジ。メキシコ、オーストラリア、日本とアメリカの一部だけをめぐる短いツアーの一環だが、もちろん、この新作の手応えを探るためのツアーであるはずだ。実際に目にしたライブでメアリーは、音楽と表現に向かう動機を再発見したようなパフォーマンスを披露してくれて、素晴らしいものとなった。
メアリー・J.ブライジ @ 新木場スタジオコースト

会場が暗転してまず披露したのはオーソドックスなソウル感満載でヒップホップ的なエッジも全開な、カニエ・ウェストとの新曲"Love Yourself"。愛を成就するにはありとあらゆるものを投げ打って取り組まないと何も形にならないと歌い上げる、いかにもメアリーらしい曲なのだが、この曲の真意についてはその後、メアリー自身の口で説明されることになった。

それに続いて『グロウイング・ペインズ』からの"Just Fine"、さらに『ストロンガー・ウィズ・イーチ・ティア』からの"The One"と00年代に入ってからのヒット曲を披露しながら現役感を強調しつつ、続いてニュー・ジャック・スウィング感の強いビートを打ち出す95年の"You Bring Me Joy"を持ってきてファンを沸かすというツボを押さえた展開。

その後もファンク感の強い"Love Is All We Need"、メアリーといえばこの曲という"Real Love"、さらに"Be Happy"、"Love No Limit"と90年代のメアリー好きにはたまらない展開が続く。さらに05年の"Enough Cryin"や97年の"I Can Love You"、11年の『マイ・ライフⅡ』からの"Don’t Mind"と続いて聴き応えも観応えも相当なものになっているわけだが、実を言うとここまでずっとヒット・シングルだけをひたすら繰り出しているところもまたすごい。

ここまでだけでも充分にひとつのセットとして成立しているのだが、ほとんどMCも挟まずにかなりコンパクトに演奏を続けてきたということは、ここまではまだ導入部ということなのだ。

一転して曲が終わるとメアリーが突然、語りに入る。実は現在自分は離婚調停中で、関係というものは信頼と尊敬が失われた時点でだめになると説明してからは、今度は自分の体験を共有したいと呼びかけ、97年の『シェア・マイ・ワールド』の"Share My World"を披露する。

この曲は名曲で大好きなのだが、シングルではないのでヒット曲を大量に持ち歌にしているメアリーのライブで聴ける機会もこれまではほとんどなかった。それだけにこの展開は感銘を受けたし、この曲をわざわざ取り上げるところに今回のセットは相当に思い入れを込めたものなのだということが伝わってきた。

ここからはMCが頻繁に入るようになり、山あり谷ありの人生を送ってきた自分だけどそれでもここまでやってこられたのはとにかく力をふりしぼってきただけだと説明し、『ザ・ブレイクスルー』の"Take Me as I Am"、"Good Woman Down"と披露、バンドの紹介のセッションを経ていったん退場。

その後、白のジャンプスーツとオーバーニーブーツに白のテンガロン・ハットという姿でステージに戻ると、まさか自分が離婚問題に巻き込まれるとは思わなかったとまたMCで近況の報告をしていた。こうなったからには自分の芸風として作品化せざるをえなかったし、自分にとっては一種のセラピーみたいなものと説明し、新作からの"U + Me (Love Lesson)"、"Thick Of It"を披露し、一気に終盤の展開へとたたみかけていく。

その中で名曲"No More Drama"がことさらのように響いたし、タイトルが今の彼女にあまりにうってつけで、ドクター・ドレーのビートで一気に会場を盛り上げる"Family Affair"でライブを締め括った。


もともと女子として自分を奮起させる曲が多いメアリーだが、今回の新作の文脈が明らかになったことですべての楽曲に新たなテーマ性が宿って圧倒的な迫力を持つ内容となった。
(高見展)

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