2日間の動員は8万4千人。ただダンスミュージックの鳴る場所というだけでなく、EDCならではの幻想的な空間と体験がどれだけ多くの人に求められていたかが分かる。
花や蝶を模した大きなトーテム(事前にトーテム作成のガイドラインなども用意されていた)が揺れるZOZOマリンスタジアム内のkinetic FIELDで、正午からWataruやYamato、Shintaroらが手加減なしのアップリフティングなトラックを放ちまくる。いかにも現代EDMを象徴するような、それぞれに雑食性に富んだサウンドも痛快だ。
この後には出演ステージに一部変更があり、circuit GROUNDSにラインナップされていた中国出身のChaceが急遽kinetic FIELDに登場。ディスコ成分高めのバウンシーなサウンドが、所属レーベルのボス=イエロー・クロウ登場前のスタジアムを熱くさせていた。
スタジアム外のneon GARDENでは、Sekitovaが生音のループを織り交ぜながらグルーヴを構築する。独自の美意識に貫かれていて素晴らしい。
ビーチエリアのcircuit GROUNDSでは、LA出身のジョイライドが、鋭利かつ硬質な響きのベース/トラップでこちらもオリジナリティを打ち出していた。ダンスミュージックにはもちろん流行のスタイルがあるけれども、DJがどのように記名性を込めて抜きん出てみせるのかも腕の見せ所だろう。
kinetic FIELDに戻ると、白昼のトランシーなダブステップ空間を作り上げたセヴン・ライオンズの後、怒涛のオランダ勢リレーが始まる。
まずは初っ端からヘヴィな音塊を投げかけてくるイエロー・クロウ。彼らの過激なアグレッシヴネスはEDCでも健在だ。”Wild Mustang”では金テープも降り注いで狂騒に拍車をかける。腹に響くような“Legends”の、低音の機能性を嫌が応にも理解させるプレイがまた強烈だ。
アフロジャックは、まさに雑食性の権化のような高速ミックスでまんまと満杯のフィールドを波打たせる。ポップソングのプロデューサーとしてもバリバリ活躍しているし、ビデオゲームにも楽曲が使用されるといったふうにカルチャー全域に浸透するアフロジャックの音楽だが、ダンスDJというエンターテイナーの役割が極まったかのような、ここぞという現場感を見せつけていて圧巻である。
そしてオランダ勢のリレーに止めを刺すのは、ダッチトランスの帝王=アーミン・ヴァン・ブーレン。薄暮の時間がそのまま演出として機能してしまうかのような、神々しいまでのトランスサウンドとドラマ性である。
今年リリースされた“I Need You”のロマンチックで麗しい響きや、無数のオーディエンスを導くように上昇線を描く“Heading Up High”。後半のハードな追い込みがまたとんでもなくて、ずいぶんエモいなと思っていたら、最後にはオーディエンスにピースサインを掲げさせてジョン・レノン“Imagine”のリミックスを投下する。もちろん、EDCでは「PLUR」(Peace, Love, Unity & Respect)の精神が推奨されているのだけれど、これは本当に感動的な光景であった。
さて、circuit GROUNDSでは、マイク握りっぱなしの巨漢DJ=カーネイジが「みんな下がれ! でかいサークルを作れ!」と仕切りまくる。ハウスにダブステップにヒップホップにロックにと、あらゆるトラックをズタズタに切り裂きながらダンスの熱狂を生み出す彼のプレイはやはりインパクト絶大だ。破壊者であり、同時に創造者なのである。
そして、ロック・フレンドリーなプレイが楽しいオーストラリアのデュオ=ナイフ・パーティへとバトンを繋いでいった。
kinetic FIELDの2日間を締め括るのは、スウェディッシュハウスのロマンを今日に伝えるアクスウェル Λ イングロッソだ。巨大生物がのたうつようなプログレッシヴ・ハウスのグルーヴは迫力満点で、ロック色の強い“Dream Bigger”がまたかっこいい。イングロッソがアレッソらと共作した名チューン“Calling (Lose My Mind)”では当然、悲鳴のような歓声が沸き上がっていた。
アクスウェルとイングロッソ、かなり良かったので後ろ髪引かれる思いだったが、最後はcircuit GROUNDSのゼッドに委ねる。恐らく、ビーチエリアには2日間で最も多くのオーディエンスが集まっていただろう。
ゼッドはちょうど、ザ・チェインスモーカーズ“Closer”から最新シングル“Stay”という、ミディアムテンポの美曲を立て続けにプレイしているところ。この一幕が象徴するように、今回は限られた持ち時間でヒットパレードを作り上げるようなプレイになっていた。
ダフト・パンク“Da Funk”とアリアナ・グランデ“Break Free”のマッシュアップもサーヴィス精神旺盛だ。ラストはクイーン“Don’t Stop Me Now”からの“Alive”で、打ち上げられる花火との祝祭感のシンクロが素晴らしかった。
これまで、EDMは必ずしも音楽だけが重要なのではなく、多様な楽しみ方や欲望を許容する場なのだと僕は考えていた。しかしEDC Japanでは、豪華絢爛なステージセットや演出やパフォーマンスが、知らず知らずのうちにオーディエンスをダンスのピュアな陶酔感の中へと誘ってくれる。
エンターテインメント文化の、豊かな経験の蓄積が、最終的にはダンスという人間らしい生身の体験に集約されてゆくのである。ずっと夢見心地で踊り続ける2日間だった。今後の継続的な開催に期待したい。(小池宏和)
EDC Las Vegasの公式インスタグラムより。