KICK THE CAN CREW 「復活祭」/日本武道館

KICK THE CAN CREW 「復活祭」/日本武道館 - All photo by 岸田哲平&中河原理英All photo by 岸田哲平&中河原理英
13年ぶりのアルバム『KICK!』を携え、日本武道館で行われるKICK THE CAN CREW「復活祭」。豪華ゲストが次々にパフォーマンスを繰り広げ、駆けつけた満場のオーディエンスとともにキックの本格的再始動を祝福するイベントだ。でも、それだけではなかった。観ているうちに「このイベントは何なのだろう?」という疑問が膨らみ続け、それが弾けたところに驚くべき発見の喜びがもたらされるというイベントだったのだ。こんな企画は、間違いなくKICK THE CAN CREWにしか出来ない。
KICK THE CAN CREW 「復活祭」/日本武道館 - KICK THE CAN CREWKICK THE CAN CREW
KICK THE CAN CREW 「復活祭」/日本武道館 - KICK THE CAN CREWKICK THE CAN CREW
KICK THE CAN CREW 「復活祭」/日本武道館 - KICK THE CAN CREWKICK THE CAN CREW
開演時間を迎えると、タキシード&ハットで決めたKICK THE CAN CREWがリフトに乗ってステージ下から登場。キレッキレな節回しのMCU、絶妙なタイム感でトラックを乗りこなすLITTLE、そしてKREVAの速射砲ラップと三者三様のスタイルでリレーしながら、“全員集合”のメッセージの中にオーディエンスを巻き込んでゆく。DJは熊井吾郎である。「KREVAです!」、「MCUです!」、「LITTLEです!」、「3人合わせて!」、「KICK THE CAN CREWです!!」という、近年のライブでは恒例になった挨拶を挟み、司会進行として紹介するいとうせいこうにバトンをパスした。
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KICK THE CAN CREW 「復活祭」/日本武道館 - RHYMESTERRHYMESTER
そのいとうせいこうが「今日は盛りだくさんなんで、もうずっと盛り上がってください。休む暇ないから!」と呼び込む(正確に言うと、レトロゲームを模した煽りビデオで出演アーティストが紹介される)のはRHYMESTERである。キックの復活になぞらえるように“ONCE AGAIN”を届け、ただ祝福するというよりもストロングスタイルのヒップホップ・ショウを叩きつける。こうあるべき、という姿勢が打ち出されたステージだ。キックに続いて新作『ダンサブル』をリリースしたこともあり、今のヒップホップシーンの盛り上がりを裏付ける一場面になった。

KICK THE CAN CREW 「復活祭」/日本武道館 - 藤井隆藤井隆
KICK THE CAN CREW 「復活祭」/日本武道館 - 藤井隆&宇多丸藤井隆&宇多丸
続いてステージを任されたのは、藤井隆。7月にリリースしたリミックスアルバム『RE:WIND』からの楽曲を中心にしたステージで、DJは同作をプロデュースしたDJ Michelle Sorry(ex.ミッツィー申し訳)。ポップシーンとダンスシーンを繋いで現在進行形の響きをもたらすトラックの数々が、藤井隆の止まらないステップと歌声で鮮やかに彩られてゆく。“Quiet Dance feat. 宇多丸(RHYMESTER)”ではもちろん生のコラボも敢行。また、藤井隆は9月13日にオリジナルニューアルバム『light showers』をリリースするのだが、YouTube 上で公開されているそのダイジェストビデオが「最も狂ってる&最強」とはKREVAの弁である。

KICK THE CAN CREW 「復活祭」/日本武道館 - いとうせいこういとうせいこう
KICK THE CAN CREW 「復活祭」/日本武道館 - いとうせいこう&MCUいとうせいこう&MCU
さて、司会進行役かと思いきや「俺にもライブやらせてくれよ」と告げるいとうせいこう。共演するDJ TATSUTAは、MCUや現在のTAICHI MASTERと共にRADICAL FREAKSとして活動し、キックの『GOOD MUSIC』期の楽曲プロデュースにも携わっている。中学生当時の彼らは1980年代のいとうせいこうのライブを観ており、そのドラマティックな縁が伝説的名チューン“東京ブロンクス”に結実するというパフォーマンスだ。いとうが□□□に客演した“ヒップホップの初期衝動”や、MCUがソロ作に収録したコラボ曲“マイク2本”(いとうせいこう“マイク一本”のカバー)も武道館に響き渡り、日本語ラップ史を一気に振り返る感涙モノのステージとなった。

KICK THE CAN CREW 「復活祭」/日本武道館 - 倖田來未倖田來未
そしてトリ前という位置に出演したのが、倖田來未である。ダンサー陣を引き連れ、炎が吹き上がり、何よりも彼女自身が研ぎ澄まされたダンスとソウルフルな歌声で観る者を釘付けにするという、最高のポップエンターテインメントは迫力満点だ。最新シングル曲“LIT”を絡めつつ、ステージ・パフォーマンスとしてのダイレクトな熱狂に振り切れた選曲も素晴らしい。本人は「ちょっとなんかあたし、アウェイな感じじゃな〜い?」と笑いめかしたりもしていたが、そんなことはなかった。むしろ、このトップレベルのショウがあればこそ、今回の「復活祭」は成立していたのだと思う。

いとうせいこうやRHYMESTERという、KICK THE CAN CREW結成前から3人に影響を及ぼしてきたヒップホップの先駆者たち。ありとあらゆるカルチャーに足跡を残しつつ、独創性溢れる音楽表現の世界を切り開いてきた藤井隆。そして、誰しもが瞬く間に巻き込まれてしまうポップミュージックの強力なエネルギーを体現する倖田來未。KICK THE CAN CREWは、そのすべてに繋がることができ、そのすべてを描こうとしてきたグループなのだということが、この「復活祭」という舞台のテーマとして伝えられていたのである。それは興奮を伴う、極めてポップな「KICK THE CAN CREW批評」であった。

KICK THE CAN CREW 「復活祭」/日本武道館 - KICK THE CAN CREWKICK THE CAN CREW
オーディエンスを焦らすようにじわじわと立ち上がる“千%”のイントロを経て、オープニングとは打って変わりカーキ系配色のラフな衣装にそれぞれ身を包んだKREVA、MCU、LITTLEの3人が、この再出発のラップを放つ。衣装の背中や裾には「KICK!」の文字が配されていた。「《経て からの ここ》、武道館!」と響く声に、この「復活祭」に込めた思いと熱量が感じられる。まくしたてるようなマイクリレーの“スーパーオリジナル”は、まさに他の誰でもない、それぞれのソロ活動とも意味が異なるKICK THE CAN CREWのコンビネーションだ。

KREVAは「自分たち主催の誕生日会みたいな気分です。ただ、そこで見せるべきは、あいつらやるな、っていうところだと思うんだよね」と語り、限定配信もされた“SummerSpot”へ。「ライブでの成功率1%」という精微なこと極まりないマイクリレーだが、バウンシーなコーラスでオーディエンスを跳ね上がらせるまで完璧。「できたーっ!!」と歓喜の声を上げ、肩を組んで満足げに立ち去ろうとするKREVAとMCUを、LITTLEが「いや……《まだ何も終わっちゃいないぜ》!!」と引き止める(最近ではお約束になっているのでちょっと照れくさそう)。大歓声の中に“イツナロウバ”を見舞うのだった。
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“sayonara sayonara”や“アンバランス”では、リリックに込めたエモーションをあらためて噛み締めるようにしながら放つ3人の姿が目に映る。そう、この本気のエモさもキックの大切な魅力だ。“神輿ロッカーズ”はもちろん、RHYMESTERを迎えた5MC+2DJで賑々しく盛り上がり、アッパーに連なる“地球ブルース ~337~”では、MCUの「来年で45」のフレーズがスクリーンにも大写しになってオーディエンスをどよめかせる。本編を締め括るのは紙吹雪舞う“マルシェ”で、過去の道のりと現在が凝縮されたステージであった。
KICK THE CAN CREW 「復活祭」/日本武道館 - KICK THE CAN CREWKICK THE CAN CREW
アンコールでは、年長者として挨拶を振られたMCUがふたりにさんざん邪魔されながら「昨日から何を言おうか考えてたんだけど、みんなの顔見てたら、全部忘れちゃった!」とベッタベタのボケで笑わせ、KREVAは会場のクレーンゲームの景品である缶バッジのデザインが一個だけ熊井吾郎になっていたことを語る。そしてLITTLEは「これからまた俺たちがっちりやっていくんだけど、3人だけじゃなくて、みんなともこれからがっちりやっていきたいと思うんですがどうでしょうか!?」と喝采を誘っていた。
KICK THE CAN CREW 「復活祭」/日本武道館 - KICK THE CAN CREW&RHYMESTERKICK THE CAN CREW&RHYMESTER
KICK THE CAN CREW 「復活祭」/日本武道館 - KICK THE CAN CREW&RHYMESTER&藤井隆KICK THE CAN CREW&RHYMESTER&藤井隆
その直後のフィナーレ“I Hope You Miss Me a Little”がまた思い切り胸を揺さぶるパフォーマンスだった。当日のステージの模様や大勢のオーディエンスの表情を捉えた写真がスライドショーに用いられ、《少しは寂しがってよ》というスウィートで優しいこのラップチューンとシンクロするのである。スライドショーのリアルタイムな編集がまたヒップホップ的で心憎い。最後には、ゲスト全員と列を作って挨拶。長いレポートになってしまったが、どうしてもこの「復活祭」に込められた濃密な意図を、自分なりに記しておきたかった。(小池宏和)
KICK THE CAN CREW 「復活祭」/日本武道館


●セットリスト
ACT-1 KICK THE CAN CREW
1 全員集合

ACT-2 RHYMESTER
1 ONCE AGAIN
2 ライムスターインザハウス
3 Back & Forth
4 Future Is Born

ACT-3 藤井 隆
1 ナンダカンダ [HyperJuice REMIX]
2 OH MY JULIET! [DJ KAORI REMIX]
 わたしの青い空 [tofubeats REMIX]
 Quiet Dance feat. 宇多丸 (RHYMESTER)
3 未確認飛行体 [ikkubaru REMIX]

ACT-4 いとうせいこう
1 東京ブロンクス
2 ヒップホップの初期衝動
3 マイク2本

ACT-5 倖田來未
1 Ultraviolet
2 UNIVERSE
3 XXX
4 Hurricane ~ MONEY IN MY BAG
5 LIT
6 LOADED feat. Sean Paul
7 Poppin love cocktail feat. TEEDA

ACT-6 KICK THE CAN CREW
1 千%
2 スーパーオリジナル
3 SummerSpot
4 イツナロウバ
5 sayonara sayonara
6 アンバランス
7 神輿ロッカーズ
8 地球ブルース~337~
9 マルシェ

EN1 I Hope You Miss Me a Little



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