●セットリスト
1. fogbound
2. 砂の惑星
3. ナンバーナイン
4. 飛燕
5. 春雷
6. かいじゅうのマーチ
7. アイネクライネ
8. orion
9. LOSER
10. ゴーゴー幽霊船
11. 爱丽丝
12. ドーナツホール
13. ピースサイン
14. Nighthawks
15. love
16. 打上花火
17. Moonlight
18. 灰色と青
(アンコール)
EN1. ゆめくいしょうじょ
EN2. Neighbourhood
EN3. アンビリーバーズ
「音楽というのは、一人で完結するものではなくて。あなたの心の中、どこでもいいから居場所が欲しい。今日来てくれたってことは、少なからずみんなの中に米津玄師の居場所があるってことで、こんなに美しいことはない。こんなに嬉しいことはない。これからも、誰も聴いたことがないような音楽を作って、みんなとおしゃべりがしたいです」。
アルバム『BOOTLEG』のリリースと同日に幕を開け、当初は全国20公演がスケジュールされた「米津玄師 2017 TOUR / Fogbound」。その追加公演として辿り着いた舞台は、キャリア初の武道館ワンマン「米津玄師 2018 LIVE / Fogbound」の2日間だ。最終日の終盤、彼はそんなふうに思いを告げていた。かつてインターネット回線の向こう側からハチ名義でミステリアスな存在感を発揮していた彼も、本名で人前に立ち表現力を向上させようとした彼も、多くの才能と交わって名曲の数々を生み出すようになった彼も、すべてが繋がって、日々息苦しさを感じている人々と共に新しい景色を目指すステージを作り上げていた。
ドーム状に骨格が組まれたステージセットには沢山のミラーが散りばめられ、床面のLEDに映し出される映像が映し出されて、光量は多くないものの印象的な光の模様を描き出してゆく。立ち込めるCO2の中から力強く伸びやかに響き渡るオープニングの歌は“fogbound”だ。「どうも米津玄師です! よろしくお願いしまーす!!」と届けられる挨拶にも、明らかに気合が漲っている。ゆらゆらとステージの淵に進み出て歌う“砂の惑星”セルフカバーや“ナンバーナイン”と、表現者たちの歩む道のりに思いを馳せる楽曲が続き、“飛燕”のフォーキーで活力に満ちたサウンドの立ち上がりには、集まったオーディエンスの手拍子が自然に折り重なっていった。
米津玄師の音楽を求めて集まり来る人々を温かく迎える“かいじゅうのマーチ”や、銀河のような光の模様を背景に繰り広げられる“orion”と、慈しみの音色と言葉に満たされる一幕。個性的なメロディを、何かに駆り立てるように性急に投げかけていたかつての米津玄師はもはやここにはいない。歌声とバンドサウンドの明瞭な響きもさることながら、武道館という舞台でこれほど大きな包容力を感じさせる楽曲群が鳴り響いていることに、感動を覚える。
あらためて挨拶しながら「もう明日なんてどうでもいい、今この瞬間が人生で最高だというのをね、私、体験したいんですよね!」と場内を沸かせ、急激に切り上がるバンドのグルーヴは“LOSER”だ。雄叫びを上げ、胸ぐらに掴みかかってくるようなボーカルの節回しの中、この曲のMVで米津にダンスを指導した辻本知彦が、華麗にしてどこか奇妙なステップを踏みながらステージ上を舞う。そのストレンジに弾けたヴァイブを、テープキャノンが放たれる“ゴーゴー幽霊船”や“爱丽丝”、“ドーナツホール”が繋ぎ、“ピースサイン”の熱く眩いアンセムに辿り着くという新旧の楽曲の並びは見事だ。
紗幕スクリーンに、幻想的な生命の息吹を宿したアニメーションが映し出される“love”は、まさに現代ポップミュージックのゴスペルだろう。そして米津がステージ中央で、正面を見据えながら切なく歌い上げる“打上花火”のソロバージョン。とりわけボーカリストとしての急激な成長ぶりには、ライブを観るたびに驚かされる。“Moonlight”は、後に友人として紹介された菅原小春の狂おしいダンスと向き合うようにして歌われていた。疎外感を抱えて生きる者たちが手を取り合い、いつしかロマンチックな情景へと導かれている。
そして本編の最後。ツアー最終日だからこそのスペシャルゲストとして招かれたのは、なんと“灰色と青”をデュエットでレコーディングした菅田将暉だ。個人的には、ツアー序盤の大阪でこの曲の米津ソロバージョンに触れて素晴らしかったのだけれど、狂喜するオーディエンスに「こうして人前に出るの、初めてですからね今年。菅田さんお仕事ですよって来たら、武道館ですよ」と笑いの追い討ちをかけ、スタンドマイクを前に立つ菅田と米津がパフォーマンスへと向かう。米津の穏やかな歌い出しから、丸裸のエモーションを燃え上がらせて、相乗効果のクライマックスへと向かう光景はやはり特別なものがあった。ふたりはハグを交わして去ってゆく。
アンコールでは、加藤隆による美しいアニメーションのMVを用いながら“ゆめくいしょうじょ”を披露し、須藤優(B)、堀正輝(Dr)、中島宏士(G)という鉄壁のライブメンバーを紹介。斬新なグルーヴを当たり前のように形にしてゆく彼らのパフォーマンスがまた凄まじいし、大阪でも感じたが中ちゃんのギラギラとした野心的なギターサウンドも光っていた。米津は、周囲の人に理解されない苦しみを感じて故郷を離れ、音楽の道を志したことを振り返りながら、このレポートの文頭に掲げた言葉へと繋げる。生き難さから目を逸らさず、そして新たな巡り会いを求めてゆく旅は続くだろう。“Neighbourhood”から“アンビリーバーズ”という2曲は、その約束のように聞こえていた。(小池宏和)
終演後ブログ