【来日レポ】フランツ・フェルディナンド @ 新木場Studio Coast公演

【来日レポ】フランツ・フェルディナンド @ 新木場Studio Coast公演 - Photo by Kazumichi KokeiPhoto by Kazumichi Kokei

ニュー・アルバム『オールウェイズ・アセンディング』の日本リリースを2月9日に控えるフランツ・フェルディナンドの、一夜限りのプレミア来日公演だった。新作リリース前に彼らがこうして来日したのには、「MUSIC STATION」を含む数々のプロモーションをしっかり日本で展開したかったことも理由としてあるだろう。

同じように昨年12月には彼らとしては異例なほどの長期間をUSプロモに充てている。じゃあ、なぜフランツは今回こうしてプロモーションに積極的なのかと言えば、新作『オールウェイズ・アセンディング』が彼らにとって再出発、「第二のデビュー」にも似た意味を持つ重要な一枚だからだ。

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ちなみに彼らの前回の単独来日は2013年11月(フジロックで2014年に再来日)。単独としては5年近くブランクが空いたわけだが、それは前作『ライト・ソーツ、ライト・ワーズ、ライト・アクション』のリリース自体が2013年の作品だったからだ。この5年の間にはスパークスとのコラボ・バンド「FFS」としての活動もあったが、いずれにしても『オールウェイズ・アセンディング』はフランツ・フェルディナンドとして本当に久々のニュー・アルバムなのだ。

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しかも、この新作はニック・マッカーシーの脱退と新メンバーの加入という大きなメンバー・チェンジを経て、新5人編成となったフランツが、カシアスのフィリップ・ズダールを迎えて作ったエレクトロ・ダンス色の強い新境地の一枚でもある。とにかくフランツは今、自分たちの新しいフォーメーションを何度でも試したいし、新境地の新作をライブで一刻も早く自分たちの血肉としたい、そういう貪欲な表現モードにある。彼らのそんなフレッシュかつ貪欲なモードは、今回の新木場スタジオコースト公演でも明らかだった。

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『オールウェイズ・アセンディング』収録の新曲“Lazy Boy”で幕開けたこの日のライブは、先行シングル群はもちろんのこと、世界初披露の“The Academy Award”を含む7曲もの新曲を披露した、堂々たる新作セットだった。先述のようにフィリップ・ズダールとのコラボの成果が光る新曲は、エレクトロニクスの大幅な導入でフランツのダンス・グルーヴの幅が一気に広がったものとなっており、ライブの演出や構成にも大きな変化が生じていた。

ただし、変化と言ってもそれはフランツ固有のダンス・グルーヴに取って代わるものではなく、彼ら固有のグルーヴを発展させ、レパートリーを増やしていくベクトルで働いていた。ソリッドなポスト・パンク・ギターを活かしたかつての瞬間着火型のピーク・ポイントの作り方の代わりに、“Lazy Boy”や“Paper Cages”といった前半の新曲で露になっていたのが、じわじわとブレイクに迫るダンス・フロアのピーク・タイムの演出的な展開重視型のドラマツルギーだ。

一方でおなじみの“Do You Want To”はイントロ一発でフロアが爆発する当然のアンセムなわけだが、そんな“Do You Want To”ではキーボードのシーケンスを効果的に使った焦らしテクによって、爆発した興奮状態の持続性が遥かに増す結果になっていたのが面白い。そう、以前のフランツのライブが落差の激しいアップダウンを細かく繰り返すタイプの構成だったとしたら、新生フランツのライブは緩やかな曲線でダイナミックな大波を生じさせる構成、とでも言うべきか。

新生フランツのライブ・フォーメーションの最大の変化は、かつてニックがひとりで担っていたギターとキーボードを、新メンバーのジュリアン(Key)とディーノ(G)で分け合ったことだ。予想できたのは、新作のエレクトロ・ダンスに即してキーボードが前面に出てくるだろうこと、そして音がよりゴージャスに分厚くなるだろうということだった。

しかし、新体制がもたらした変化はそれだけではなかった。バンド業界ではなくアレンジャー畑出身のジュリアンは、単なるキーボーディストの枠には収まらないマルチな才能で、ステージにおいてはほとんど現場監督状態。“Lucid Dreams”のヘヴィー・ダブからミラーボールが回り始める四つ打ちハウスの新曲“Glimpse of Love”へと、この日最も新鮮だったエレクトロ・グルーヴのブリッジは、彼が司令塔として5人をコネクトした成果だったと思う。

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一方、元1990sでスコティッシュ・インディ・ギターの伝統を受け継ぐディーノは、“Take Me Out”や“Michael”といったポスト・パンク・アンセムでは主役に躍り出る。ちなみにジュリアンはギターも弾く(つまりこの人ひとりでかつてのニック分働いている)し、ジュリアンとディーノはコーラスを積極的に入れていく。もちろんポール(Dr)もコーラスは取れるので、“Love Illumination”ではアレックスを含む4人が声を一斉に張り上げ和声の最大値を記録、これがもう理屈抜きで華やかだし、滅茶苦茶楽しい!

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トリプル・ギターの“The Dark of the Matinée”、フロントにポール以外の4人が並んで丁々発止でやりあう“Take Me Out”などは、新生フランツがエレクトロ・ポップの強化だけではなく、ギター・ロック・バンドとしても数段階パワー・アップしたことを証明していた。

しかも、フランツの場合はトリプル・ギターになったと言っても単に分厚くやかましくなるわけではないのだ。喩えるならそれは大小異なる3つの歯車がぴったり噛み合って高速回転し始める精密機械のようなもので、シャープでソリッド、そして美しいアンサンブルがより際立ち、冴え冴えとしている。

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後半戦に入るとそうそう、これこれ、これがフランツ・フェルディナンドのライブの醍醐味! とガッツポーズしたくなる瞬間の連続だ。ギタリストとしての負担が減って余裕が生まれたアレックスはこれまで以上に活き活きと動き回り、華麗な足さばきと共に芝居がかったマイクプレイを繰り出している。動きが大げさかつコミカルなせいで、履いていた極太パンツが空気を含んでバサバサしていたのは笑ってしまったが、笑いもフランツのライブには欠かせないエッセンスだ。

ハウスビートのシーケンスと彼らの古典的ポスト・パンク・ギターが徐々に螺旋を構成し、一本の極太のグルーヴを生み出していった“Feel The Love Go”、無限音階のイントロが瞬く間にフロアの興奮を再熱させたアンコールの“Always Ascending”といった『オールウェイズ・アセンディング』でフランツが掴んだ新境地と、見事なまでの縦ノリポゴダンスの現場となったオールラストの“This Fire”でフランツが見せた原風景が、まったく同地平にあることを証明したフィナーレも感動的だった。

それは「フロアにいる一人残らず踊らせたい」というフランツ・フェルディナンドの15年変わらない意志の結実であり、「一人残らず、もっともっと踊らせたい」という貪欲さの勝利だったと思う。(粉川しの)

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〈SETLIST〉

Lazy Boy
No You Girls
Paper Cages
Do You Want To
Walk Away
The Academy Award
The Dark of the Matinée
Lois Lane
Love Illumination
Huck and Jim
Take Me Out
Michael
Lucid Dreams
Glimpse of Love
Feel The Love Go
(Encore)
Always Ascending
Ulysses
This Fire
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