けやき坂46/日本武道館
2018.02.01
●セットリスト
0. Overture
1. ひらがなけやき
2. 二人セゾン
3. 僕たちは付き合っている
4. 語るなら未来を…
5. 東京タワーはどこから見える?
6. AM1:27
7. 青空が違う
8. 猫の名前
9. 沈黙した恋人よ
10. 100年待てば
11. 制服のマネキン(乃木坂46カバー)
12. NO WAR in the future
13. それでも歩いてる
14. 永遠の白線
15. 手を繋いで帰ろうか
16. 誰よりも高く跳べ!
17. 太陽は見上げる人を選ばない
(アンコール)
EN1. イマニミテイロ
EN2. 世界には愛しかない
EN3. W-KEYAKIZAKAの詩
(ダブルアンコール)
WEN1. 誰よりも高く跳べ!
急遽3日間開催となったけやき坂46の単独武道館公演。人気絶頂のアイドルが行うライブとは違い、大きな重圧と逆風にさらされながら迎えたこの武道館ライブは、彼女たちにとって自分たちの存在を証明するステージとなった。
緑のサイリウムに埋めつくされた会場に“Overture”が流れる。同時に沸き立つ観客のコール&レスポンスの中、ステージに登場したひとりのピエロ。よく見るとステージの装飾などから、今回のライブにはサーカスをテーマにおいたコンセプトが設けられていることがわかる。上段と下段に分かれた2つステージを巧みに利用した演出と共に、いよいよけやき坂46の1期生11人が登場。キレのあるロックダンスと高まる客席のボルテージにより、大雪警報が出ている東京とは思えないほど、会場の温度が急激に上がっていく。
1曲目は彼女たちの通称でもあるグループ名を掲げた“ひらがなけやき”からライブがスタート。早々からトロッコに乗り込み、武道館上方の観客たちにもその「ハッピーオーラ」を届けていた。続く欅坂46のカバー“二人セゾン”では、楽曲の持つ哀愁やセンチメンタリズムをけやき坂46として見事に再現。そこには、この3日間で得たであろう自信が十二分にパフォーマンスとして現れていた。
和気藹々としたMCを経て始まった“語るなら未来を…”では、スモークやレーザーが多用され、それまでの会場の空気が一変。さらに同曲のパフォーマンスでは背面のスクリーンに映し出されるメンバーの影と、実際に踊るメンバーとの動きがユニゾンする、ステージの構造を利用した演出がとにかく見事だった。欅坂46では取り組めないであろうギミックを一糸乱れぬグループ力で魅せつけた瞬間だった。
続くMCでは、メンバー最年長でリーダーでもある佐々木久美が「私たちは自分たちの曲が多くないので、漢字欅さんのカバーさせていただくことが多々ある」と、グループの置かれる立場をハッキリと口にしていたことも印象深かった。元々は欅坂46の妹分的存在として、長濱ねるを軸に結成されたけやき坂46。しかし、昨年その長濱が欅坂46専任となって以降は「果たして(軸を失った)自分たちは何者なのか?」という葛藤と、「欅坂46との違い」について悩まされることになる。今回の武道館公演は、そんな自問自答を繰り返すグループにとって「けやき坂46でしかできないこと」を追求する、集大成の場でもあるのだ。
グループの成り立ちも匂わせるMCの後、本編はユニット曲のゾーンに突入。潮紗理菜、加藤史帆、齊藤京子、佐々木久美、高本彩花による“沈黙した恋人よ”では、5人の視線が向かう先を想像したくなるほど曲の世界に入り込む姿には思わず目を見張ってしまった。また、長濱ねるのソロ曲である“100年待てば”では、メンバー全員で色とりどりの風船が会場に舞う中で、多幸感溢れるステージを見せてくれた。
再度MCを挟んだ後は2期生のパートへ。メンバーひとりひとりが自己紹介も兼ねて踊りながら登場。そして始まったイントロは乃木坂46“制服のマネキン”。今回の武道館公演において、2期生は各日異なる乃木坂46の楽曲をカバーしている。力強い眼差しを見せつける渡邉美穂をセンターに、所々まだぎこちない部分はありつつも、全身全霊でけやき坂46の一員であることを証明するその姿にはグッとくるものがあった。
そして1期生も登場し、けやき坂46全員で披露された“NO WAR in the future”も今日のライブにおけるハイライトのひとつだ。欅坂46との橋渡し的な楽曲ともいえるこの曲で、彼女たちの掲げる「ハッピーオーラ」を届けることが、単に楽しければいいものではないことを体現していたように思う。
その後は1期生が再び舵を取り、後半戦を盛り上げていく。センターの齊藤京子を筆頭にそれぞれの持つ声色が際立ったフォーク歌謡 “それでも歩いてる”では、けやき坂らしさとでも言おう、等身大の自分たちを歌詞の中に投影していた。学校の校舎がスクリーンに映し出され、はつらつとしたメンバーの笑顔に心奪われる“永遠の白線”など、折り返し地点を過ぎても決してパフォーマンスの質を落とすことなくステージに立つ彼女たちの表現者たるスタミナに心底驚かされる。
だが、今回のライブのクライマックスは90年代のバブリーなJ-POPをアップデートしたパーティーチューン“誰よりも高く跳べ!“の時だった。「もっといけんだろ! 声出せー!」と叫ぶ佐々木久美が、間奏部分にてワイヤーを使いステージセットを超えようかという高さまでフライングしたのも大きな会場ならではの演出だ。観客のテンションも最高潮に達したのち大団円を迎えるように“太陽は見上げる人を選ばない”が歌われ、ライブ本編は終了した。
アンコールを求める声援の途中、ステージのスクリーンにはグループの結成から現在までの映像が映し出される。そこには先に述べたようにグループとしての葛藤や欅坂46との違いが生々しいほどに描かれており、「ひらがなじゃ無理?」という今回の武道館公演における外の声も隠すことなく映し出されていた。
映像の最後に映し出された言葉、「漢字のアンダーなんて言わせない」。反骨心に満ちたその言葉と共に披露された新曲“イマニミテイロ”は、けやき坂46らしいミドルテンポの曲調にメッセージ性のある歌詞が乗った、これからのけやき坂46を宣誓する曲だ。
そして次の曲に移ろうとメンバーがステージから捌けようとした時、突如スクリーンに流される今回の武道館3daysのドキュメント映像。その最後には彼女たちの次なる試練として、けやき坂46単独でのアルバムリリースが発表された。「こんなにも早く夢が叶うなんて思ってもいなかった」と泣き出すメンバーたち。そんな彼女たちに向けて、観客たちは終始「頑張れ」という声援を送っていたのも、ファンとの関係を表す素晴らしい光景だ。
涙を拭いたメンバーたちは凛とした表情で“世界には愛しかない“を歌い上げる。影山優佳の咆哮から始まったこの曲は、ポエトリーな部分には感情を込め、サビでは指先まで生命力を行き渡らせるようなパフォーマンスが、見ていてとても心地よかった。
紙飛行機が武道館に飛び交った“W-KEYAKIZAKAの詩”でアンコールも終了し、席を立つファンも見られた中で急遽始まったダブルアンコールでは、やはり今日イチの熱量が生まれた“誰よりも高く跳べ!”を再び披露。緊張や重圧から解放されて無邪気に踊る11人の笑顔からは、彼女たちにしか出せない「これがけやき坂46だ」という想いが感じられた。
そして最後はマイクを使わず、自分たちの生の声で「ありがとうございました!」と叫びライブは終了。雨が雪に変わった約2時間半のけやき坂46の武道館3daysの最終日は、彼女たちしか作ることのできない「けやき色」で塗り尽くされて幕を閉じた。
「自分たちは何者か?」――それはこの武道館公演だけで出せる答えじゃないだろう。それでも、この大舞台を経験し、成長した20人のけやき坂46は、確実に欅坂46の妹分でもアンダーでもない、立派な1組のアイドルとしての一歩を歩みだしたことは間違いないはずだ。(小田淳治)
終演後ブログ