My Hair is Bad/日本武道館

My Hair is Bad/日本武道館 - All photo by 藤川正典All photo by 藤川正典

●セットリスト
1.アフターアワー
2.熱狂を終え
3.グッバイ・マイマリー
4.ドラマみたいだ
5.接吻とフレンド
6.最愛の果て
7.真赤
8.運命
9.悪い癖
10.彼氏として
11.卒業
12.復讐
13.クリサンセマム
14.ディアウェンディ
15.元彼氏として
16.燃える偉人たち
17.フロムナウオン
18.戦争を知らない大人たち
19.シャトルに乗って
20.幻
21.最近のこと
22.いつか結婚しても
23.告白
24.エゴイスト
(アンコール)
EN1.優しさの行方
EN2.月に群雲
(ダブルアンコール)
WEN1.夏が過ぎてく


My Hair is Badの全国ホールツアー「ギャラクシーホームランツアー」の東京編である日本武道館公演が、3月30日・31日の2日間に渡り行われた。発表当初はキャリア初の武道館公演を2デイズで挑むなんてなかなか強気な挑戦だと思っていたが、見事両日ソールドアウトという最高の状態でその日は迎えられた。今回レポートする31日の開演冒頭、椎木知仁(Vo・G)は「ロックバンドが武道館にやってきたぞ!」と叫んだが、バンドマンなら誰しもが目標とし憧れるであろう日本武道館という会場でも、彼らは本当に、本当に驚くほどそのまま「ライブハウスで観るいつものマイヘア」を貫いていた。銀テープやレーザー照明、アコースティックなどの所謂「特別感」溢れる演出は一切なし。ただ歌い、言葉を放ち、楽器を鳴らし、今、この瞬間の己の感情の全てを置いていく、ただそれだけ。そんなシンプルなロックサウンドで何千人もの心を掴む彼らにこの上ないほどの頼もしさを感じた、この先いつまでも記憶に残るような素晴らしいアクトだった。

My Hair is Bad/日本武道館
立ち見エリアであるアリーナからドーム型の壁面に沿うように設けられた座席まで、オーディエンスでみっちりと埋まった会場が開演時間である17時ジャストに暗転すると、椎木、山本大樹(B・Cho)、山田淳(Dr)の3人がステージに登場。ステージでのセッティングの後、3人がドラム前に集合して「セイッ!」と声を合わせると、爆発のような歓声を浴びながら「日本武道館、最終日、トドメ刺しに来ました!」と渾身の“アフターアワー”を放った3人のエネルギーの凄さったら! 初っ端から堂々としたベースソロをぶちかます山本や、打点高く振り上げた両腕が叩き鳴らす山田の渾身のドラミングから迸る気合は目にも耳にも心にも強く刺さり、「整ったね、全てが。後は俺らに任せてください」との椎木の言葉には自分の全身/全心を委ねられる安心感を強く感じたし、何よりいつも通りの3人の姿が心強かった。

My Hair is Bad/日本武道館
そして椎木が「僕の書く歌詞の中には主人公がいて、それは彼女だったり彼だったりするんですけど。この場で生き返らせたいし、殺したくないし、時間を巻き戻したいっていうか。可哀そうなことをしたくないんで、これ以上」と静かに語った後に “真赤”を歌い、そのまま時間を遡るように“悪い癖”、“彼氏として”と、前の、前の恋人との記憶を辿るようにじっくりと鳴らしていった。他人の想い出話なのに、まるで自分自身のアルバムを見返しているかのように鮮明に当時の心境や匂い、空気を想像させるのは、「人を好きになったひとりの人間」がその時に感じ、想い、願ったことが加飾や加工をされず、半永久的に残る曲の中に真空パックの如く鮮度と彩度を落とすことなく詰め込まれているからだろう。そしてライブの時間にだけ、精一杯の愛情と敬意を以って「あの時」を「今」に蘇らせる――そんな彼らの「想い」に対する慈愛の深さを感じる、どうにも優しくて、無性に切なくなる時間だった。

My Hair is Bad/日本武道館
椎木はこれまでのドラマチックな流れを振り返って「俺は既に泣きそうでしたね、何回か。エモくなっちゃって」と話しつつも、「武道館とかやるなら高級車とか乗ってるもんだと思ってましたけどね!」という話題から下ネタに至るまで、まるで機材車の中で話しているようなゆるっとしたMCを繰り広げた3人。そうして先ほどまでの凛とした空気感をガラっと変え、疾走感溢れる“復讐”をきっかけに「世界一短いラブソング」こと“クリサンセマム”や膨大なリリックを激情的かつクールに鳴らし上げる“燃える偉人たち”を経て、「昨日と同じことをやってもしょうがないから、分かんないことを分かんないまま歌っていいっすか? リアル歌わしてくれよ」と“フロムナウオン”へ突入した。昔に書かれた歌詞なんて無視して「愛って何なの? 俺が歌っていることは何なの? 愛なの? 歌い続けることが愛なの?」とこの瞬間に思った問い掛けを激流の如く放ち、その波に飲み込まれた観客は視覚と聴覚だけでなく全感覚を奪われたようにステージをただ見つめていた。そんな放心しきった会場に「俺は、命を歌いたい。大袈裟なことじゃないよ、燃やすよ! 燃やしたいだけ、焦げるまで!」との椎木の力強い叫びと共に“戦争を知らない大人たち”を放った3人は、満点の星空を模した背景が美しく輝く中で、幼少期から青年期、四季、恋、友情、葛藤を含めた人生の全てを託したこの曲を見違えるほど堂々と鳴らしていた。そして「ラブソングを書くっていう自覚を持って、初めて書いた曲かもしれないです。……もう、今じゃ書けない」と歌ったバラード“最近のこと”にぎゅっと胸を締めつけられながら、ラストに投下された爆速ショートチューン“エゴイスト”に至るまで、My Hair is BadはMy Hair is Badのまま駆け抜けていった。

My Hair is Bad/日本武道館
熱望されて舞い戻ったステージで「アンコールはサービス残業」と言いつつ歌ったのは“優しさの行方”と、彼らの始まりの曲“月に群雲”。さらに呼ばれたダブルアンコールでは、無言のままステージにインして“夏が過ぎてく”をぶちかまし、そのまま何も言わずにステージを後にした3人。バンドとは? ロックとは? 愛とは? 好きとは? 本物とは? 本当とは?――マイヘアのライブを観ると、彼らから宿題を与えられたような、本音と建前の分別を曖昧にして分かったふりをしながら見過ごしてきた自分の惰性を見透かされたような、そんな気持ちになる。“優しさの行方”の演奏中、椎木が「愛してるってこういうことか!」と叫んだ。私たちの人生の中にもきっと、全てを超えてきた上でそういう「自分なりの答え」に気付ける瞬間が訪れるはずだ。だからこそマイヘアのように、過去を尊び、愛し、偲びながらも、今、この瞬間にだけ誠実に向き合っていきたいと思えた。これからの日々を歩んでいく上で手本にしたくなる、両手で抱きしめたくなるような最高のライブだった。(峯岸利恵)
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