小袋成彬/渋谷WWW

小袋成彬/渋谷WWW - All photo by 岸田哲平All photo by 岸田哲平

●セットリスト
01.042616 @London
02.Game
03.茗荷谷にて(extended)
04.Lonely One feat.宇多田ヒカル
05.夏の夢
06.GOODBOY
07.E.Primavesi
08.101117 @El Camino de Santiago(extended)
09.Summer Reminds Me
10.再開
11.門出
12.042616 @London
13.タイトル未定(新曲)
14.Do You Realize?? (cover)
15.Daydreaming in Guam(extended)
16.You've Got A Friend(cover)
17.Selfish
18.愛の漸進
19.042616 @London


宇多田ヒカルをして「この人の声を世に送り出す手助けをしなきゃいけない」と言わしめ、デビューアルバム『分離派の夏』では彼女がプロデュースを担当。これまでにはレーベル主催及び音楽プロデューサーとしての活動を中心にしていたが、ソロのシンガーソングライターとしてシーンの表舞台に立った小袋成彬である。2018年に入ってから、関係者向けのライブやイベント出演は行われたものの、今回は『分離派の夏』リリース直後に開催されたワンマン。フルハウスで迎えた渋谷WWWである。

小袋成彬/渋谷WWW

ギターとキーボードのサポートが各一名というシンプルな編成で、プログラミングされたトラックなども用いられるステージ。まずは、アンビエントな音像の中で『分離派の夏』の導入部に収められていた友人との語りが聴こえてくるのだが、音源とは異なる対話部分が用いられており、小袋が制作中のデモを友人に聴かせる、というくだりであった。そして椅子から立ち上がった小袋は、美しいファルセットボイスで“Game”を歌い出す。鮮烈なインパクトと繊細な揺らぎを同居させる歌声で、フレーズがひとつ、またひとつと、記憶の中の情景を描き上げてゆく。

ときには、小袋自身のボーカルもトラック出ししながら多重コーラスを構築してゆく。聴き手の集中力を引き出すパフォーマンスゆえだろうか、ようやく拍手が巻き起こったのは、宇多田ヒカルのボーカルトラックを絡めた“Lonely One”をフィニッシュしたときであった。例えば、インディーR&Bやオルタナポップの同時代性も自然に溶け込んではいる。しかしそれ以上に、歌とサウンドから立ち上る「表現する動機」の強さに、意識を奪われてしまうパフォーマンスなのである。

小袋成彬/渋谷WWW

柔らかな照明の筋が走るステージで、歌声をクレッシェンドさせながら情景を刻みつけてゆく“夏の夢”。ギタリストのキダ モティフォがギターをスイッチする中、モダンでグルーヴィな節回しと普遍的なグッドメロディを共存させて進む“E.Primavesi”。小袋成彬の歌は、「誰か」との対話の記憶を呼び起こすようにしながら、確かな体温と感情の蠢きを伝えてくる。スペインで800kmを歩く旅に赴いた友人の言葉の記録“101117 @El Camino de Santiago”と同様に、小袋成彬の歌もまた、彼を形作ってきた「誰か」の影響の記録のように思える。小袋自身にとっての大切な物語は、何よりも精微に、エモーショナルに綴られなければならない。そういう、表現者としての動機が何よりも優先される音楽なのだ。

ヨーロッパの戦乱の傷跡を身近に感じている現地の人々、という話題の語りを経て、披露された未発表の新曲は、まるで祈りのように厳かな、美しいバラードであった。まるで、奥州平泉の地で戦乱と栄枯盛衰の歴史を見た松尾芭蕉のようだ。また、多重コーラスを用いたザ・フレーミング・リップスの名曲“Do You Realize??”と、キャロル・キングのタイムレス・メロディ“You've Got A Friend”といったカバーで挟むように、“Daydreaming in Guam”が届けられる。知られざる物語を伝えること。伝わらなければならないということ。小袋成彬の歌は、切実な使命感を帯びてポップへと到達してしまう。

小袋成彬/渋谷WWW

オルガンのようなシンセサウンドに包まれる“愛の漸進”を歌い終え、音が鳴り止んだところで、彼は笑みを浮かべながらたった一言「ありがとうございました」と告げ、ステージから去っていった。1時間10分ほどの、しかし濃密な対話の時間がそこにはあった。今後、彼は各地フェスなどの出演を予定しており、また10月には大阪・東京でワンマンツアーが開催される。高度な表現技術に裏付けられた率直に胸に響く歌を、より多くの人に体験してほしい。(小池宏和)

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