●セットリスト
1. (白)憧れのハワイ航路 (岡晴夫)
2. (紅)テネシー・ワルツ (江利チエミ)
3. (紅)学生時代 (ペギー葉山)
4. (白)涙くんさよなら (坂本九)
5. (白)あの時君は若かった (ザ・スパイダース)
6. (紅)雲にのりたい (黛ジュン)
7. (白)想い出の渚 (ザ・ワイルドワンズ)
8. (紅)さすらいのギター (小山ルミ)
9. (白)純愛 (ザ・テンプターズ)
10. (紅)雨に濡れた慕情 (ちあきなおみ)
11. (白)愛する君に (ザ・ゴールデン・カップス)
12. (紅)人形の家 (弘田三枝子)
13. (白)大空と大地の中で (松山千春)
14. (紅)知床旅情 (加藤登紀子)
15. (白)ふれあい (中村雅俊)
16. (紅)翼をください (山本潤子)
17. (白)落陽 (吉田拓郎)
18. (白)夢の中へ (井上陽水)
19. (紅)なのにあなたは京都へゆくの (チェリッシュ)
20. (紅)地上の星 (中島みゆき)
21. (白)世界の国からこんにちは (三波春夫)
22. (紅)三百六十五歩のマーチ (水前寺清子)
23. (白)時の過ぎゆくままに (沢田研二)
24. (紅)まちぶせ (石川ひとみ)
25. (白)ある日渚に (加山雄三)
26. (紅)セーラー服と機関銃 (薬師丸ひろ子)
27. (白)桜坂 (福山雅治)
28. (紅)異邦人 (久保田早紀)
29. (白)夢芝居 (梅沢富美男)
30. (紅)愛の水中花 (松坂慶子)
31. (白)北国の春 (千昌夫)
32. (紅)あなたならどうする (いしだあゆみ)
33. (白)中の島ブルース (ヅラ山田洋とクール・ファイブ)
34. (紅)プレイバック part 2 (山口百恵)
35. (紅)会いたい (沢田知可子)
36. (白)さよならをもう一度 (尾崎紀世彦)
37. (特別枠)世界に一つだけの花 (SMAP)
38. (特別枠)いい湯だな (ザ・ドリフターズ)
39. (紅)雪の華 (中島美嘉)
40. (白)海の声 (浦島太郎/桐谷健太)
41. (紅)ハナミズキ (一青窈)
42. (白)どんなときも。 (槇原敬之)
43. (白)君に、胸キュン。 (YELLOW MAGIC ORCHESTRA)
44. (紅)赤道小町ドキッ (山下久美子)
45. (紅)真夏の夜の夢 ~ ひこうき雲 (松任谷由実 ~ 荒井由実)
46. (白)YOUNG MAN (Y.M.C.A.) (西城秀樹)
47. (白)100万年の幸せ!! (桑田佳祐)
48. (紅)Havana(ダメなバナナ) (神良壁郎)
49. (白)熱き心に (小林旭)
50. (紅)つぐない (テレサ・テン)
51. (紅)伊勢佐木町ブルース (青江三奈)
52. (白)雪が降る (アダモ)
53. (白)与作 (北島三郎)
54. (紅)愛燦燦 (美空ひばり)
55. (特別枠)古い日記 (和田アキ男)
1993年から、病への正しい理解を啓発するべく活動してきたAct Against AIDS(AAA)。エイズ発症の抑制、また治療が進歩したこともあり、AAAは2020年7月にひとまずその役目を終えることが発表された。桑田佳祐は、イベント出演やソロコンサート開催などを通して長らくAAA活動に尽力してきたが、彼のAAAコンサートも今回が最後となる。2008年、2013年と繰り広げられてきた「ひとり紅白歌合戦」の完結編、「平成三十年度! 第三回ひとり紅白歌合戦」である。過去2回で「昭和○○年度!」と年号を引きずっていたタイトルが、平成最後の年にようやく変わっているのが可笑しい。
今回も世界エイズデー(12月1日)近辺の3日間に亘って繰り広げられてきた「ひとり紅白」だが、まずは戦後歌謡の輸入サウンドで幕を開けると、桑田は早い段階から「もう今日は拍手もいらないです! とにかく長いです! スタミナの配分を十分考えて!」と呼びかけていた。全国の映画館でライブビューイングも行われたが、先に書いてしまうと全55曲プラスα、3時間45分にも及ぶ、楽しくも凄絶なステージだったのである。グループサウンズVSビートガールズ対決の一幕では、リッチなビッグバンドサウンドの中でちあきなおみのデビュー曲“雨に濡れた慕情”からザ・ゴールデン・カップスの歌謡サイド“愛する君に”へと繋ぐ流れが熱い。
フォーク/ニューミュージックの時代を映し出すだけには留まらず、今年震災に見舞われた北海道にエールを送るべく選曲された“大空と大地の中で”や“知床旅情”には満場の大喝采だ。全面LEDのステージ背景には昭和のTV歌謡ショーを連想させるレトロなデザインが浮かび、吉田拓郎やチェリッシュの楽曲にはチャレンジングなアレンジが施されている。ただノスタルジーに浸るだけではない、2018年現在に時空をぐにゃりとねじ曲げ、歌謡曲の何たるかを知らしめようとする強烈なエネルギーが渦巻いていた。遊び心に満ちながら、安易な悪ふざけは欠片も見当たらない。
加山雄三“ある日渚に”、薬師丸ひろ子“セーラー服と機関銃”、福山雅治“桜坂”といった流れは、映画やTV番組などの映像文化と交わって記憶に染み付くメロディの意味を浮き彫りにしている。千昌夫“北国の春”は、桑田が「東京」を題材にした曲ばかりを集めて歌った、2016年の音楽番組『偉大なる歌謡曲に感謝 〜東京の唄〜』でも取り上げられていた楽曲。桑田が一人五役でメンバーに扮した映像を用いる内山田洋とクール・ファイブのパロディは「ひとり紅白」でお馴染みだが、今回はそこに大泉洋も乱入して「ヅラ山田洋と大泉洋とクール・ファイブ」へとパワーアップしていた。
さて、桑田ソロやサザンオールスターズのサポートでお馴染みの面々や初参加の顔までバンドメンバーが紹介された直後には、「8時だョ!全員集合!!」の掛け声でハッピ姿のサザンメンバーが登場。場内が嬌声に満たされる。5人が横並びの振り付きで披露する“世界に一つだけの花”ボーカルリレー、松田弘による加藤茶「ちょっとだけよ」ネタのモノマネ(結局、メンバー全員でやっていた)、“いい湯だな”では「来年はサザンのツアーで会おうー!!」と呼びかけ、しかも4人の退場時には“盆回り”がバンド演奏されるという、見事なドリフ愛が発揮されていた。
「平成三十年度」なだけあって、平成生まれの楽曲を次々に披露するコーナーも設けられていたのだが、これがまた凄かった。中島美嘉“雪の華”は、切々とした歌心を完璧にハートで掴んだ名演である。レーザーが迸るYMO“君に、胸キュン。”では、スーツ姿で居並んでいたマネキンのうち2体が実は生身のダンサーで、ロボットダンスを披露。そこから山下久美子やユーミンの楽曲へと繋ぐ流れは、同じ時代をくぐり抜けてきたアーティストたちを誇るようなパフォーマンスが胸を焦がす。
楽しげに広がる「Y・M・C・A」のハンドサインがそのまま「M・O・M・O・K・O」へと連なると、次の瞬間にはアニメ『ちびまる子ちゃん』のエンディング曲“100万年の幸せ!!”が響き渡ってまるちゃんの顔がバーンと背景LEDに現れる。真に涙腺直撃の演出であった。ハッピーかつ華やかなサウンドのまま、今年他界した西城秀樹とさくらももこをトリビュートしてみせる。どこまでも深い愛に満ちたメドレーだ。
本編クライマックスは、元ポルノ俳優(いわゆる竿師)からバナナ農園勤務へと転身したという男=神良壁郎(かみら・かべろう)のショートドラマからなだれ込む、衝撃のカミラ・カベロ日本語カバー“Havana(ダメなバナナ)”だ。《駄目なバナナ》のフックで男性の悲哀を立ち上らせ、セーフセックスを呼びかける。作り込み過ぎである。パワフルな現代型エキゾ・ポップでシュールな余韻を残してゆくさまは、あの“ヨシ子さん”を彷彿とさせるものがあった。本家への配慮か、セットリスト上では紅組枠となっているのがまた可笑しい。
時代時代の洋楽を咀嚼・吸収しながら、保護されるのではなく雨風にさらされ磨かれるように、タフに生きてゆく歌謡の魂。その後のナレーションでは、大衆のしなやかな生命力を映し出す流行歌/ポップスのあるべき姿と、これからもその課題に向き合ってゆく真摯な決意が語られていた。そしてアンコールは、「ひとり紅白」のクライマックスにふさわしい名曲たち、さらには桑田本人の希望で歌いたい曲が次々繰り出される。テレサ・テン、アダモら海外出身歌手も彩ってきた「日本のうた」の歴史を証明する選曲が秀逸だ。女王・美空ひばりの“愛燦燦”では、背景を覆い隠すほどに大きく広がり、照明を乱反射する衣装のギミックが小林幸子ばりの力作であった。凄い。
大団円かと思いきや、何者かが恐ろしい足音を響かせて接近する。やはり今回も登場の性を超越した存在=和田アキ男である。客席通路からはジャンボ猪木にジャンボ裕也、ジャンボアキ子の着ぐるみも登場して大暴れ、和田アキ子のデビュー50周年を祝福しつつソウルマンとして挑む“古い日記”は、大勢のダンサー陣も活躍してカオス状態である。そしてエンディングには再びサザンの面々も姿を見せ、原由子は桑田に花束を贈呈しながら「25年間、おつかれさまでした!」とAAAでの活動終了を労う。圧巻のエンターテインメントを通して、社会の意識改革を促す桑田佳祐。その努力と知恵の奔流を観るステージであった。(小池宏和)