※以下のテキストでは、演奏曲のタイトルを一部表記しています。ご了承の上、お読みください。
宇宙の果ては、際限なく広がり続けている。そんな神秘を、歌の世界から感じさせる素晴らしいステージだった。8月の茨城に始まり、大阪、名古屋を経てきた宇宙まおの弾き語りワンマンツアー「Wardrobe Songs 2019 –背もたれのカーディガン-」。ファイナルとなる宮城・SENDAI KOFFEE CO.公演まで、全国5公演で繰り広げられるツアーだ。今回レポートする東京公演の会場は、「Wardrobe Songs」シリーズのホームグラウンドと言っても良いだろう、代官山・晴れたら空に豆まいてである。
アコースティックギター2本とエレクトリックギター2本が立てかけられたステージに、ゆったりとしたデザインのカーディガンを羽織る秋めいた装いの宇宙まおが姿を見せると、アコギを携えてシンプルに挨拶を済ませ、コズミックな広がりを持つコードワークで“哀しみの帆”を奏で始めるオープニング。プライベートな思考と感情の小宇宙を、いつでもすぐそばにあるものとして描き出してしまう宇宙まおの真骨頂が、のっけから一人きりのステージに立ち現れていた。
「今夜は宇宙まおの音楽で、ゆったりと楽しんでもらえればと思います」。そんな風に言葉を交え、その後は強がりのいじらしさが際立つ最高のポップチューン“涙色ランジェリー”、“ヘアカラー”を連発。詰め掛けたオーディエンスの手拍子や歓声を巻いて盛り上がる。このところの台風に見舞われた中で集まった人々に感謝の思いを伝え、また公演タイトルにちなんだカーディガンについては「今日は着てきたということで、脱ぎます」と笑いを誘う。音源作品ではあいらもえかとのコラボ曲だった“snow poppins”に生活感のフレーズを織り込み、いびつな愛の形を切々と歌う“君のいちばんにはなれない”へ。弾き語りライブではとりわけ、彼女のソングライティングにおける玄妙なコード進行がくっきり伝わってくる。
エレキギターにスイッチして放たれるのは、2014年の1stフルアルバムから“声”だ。表現者として抱く思いが、音として言葉として、空間にぽっかりと浮かび上がりながら揺れる。また、ギターにリバーブを効かせた幻想的なストーリーテリング“深海レストラン”では、弾き語りだからと言って素朴なサウンドだけには留まらない音楽の魔法を導き出す。イーブンビートのトラックを繰り出し、ループステーションでギターフレーズと「Hey!」の掛け声を重ねながら放たれる“CONTRAST!”は、彼女の対バン企画「宇宙ツアーズ」を思い出させる賑々しいパーティーチューンだ。
今回のツアーでは、事前に公式ホームページ上でカバー曲のリクエストを募っていたのだが、東京公演で披露されたのは何とチャットモンチーの“シャングリラ”。こちらも4つ打ちのビートを用い、間奏のギターソロまできっちりコピーしてみせる熱演だ。さらに、マーティンのアコギとブルースハープで披露されるのは、宇宙まおも名カバーとして音源化しているJUN SKY WALKER(S)“休みの日”。切なさを染み渡らせる歌詞とメロディは真にエバーグリーンな響きであった。
この東京公演ではタイトル未定の新曲が披露されたのだが、これがまた新境地でびっくりさせられた。これまでの宇宙まお作品には見られなかった、ハードボイルドなタッチのダンディーな歌がおもしろい。また、開発中の渋谷の街を引き合いに、力強いサビのメロディが情緒を際立たせるもうひとつの新曲では、ダイナミックに渦巻く街のエネルギーを体内に取り込むよう。新しい宇宙まおが、内面からビッグバンを起こすように始まっている。そんな手応えの2曲であった。
そしてここで、2020年1月8日(水)に新たなミニアルバムをリリースすることを大発表。タイトルは後日発表だが、長らく交流を持っている久保田光太郎(PERIDOTS)のプロデュースで全7曲を収録。今回のライブで披露された新曲2曲も、その中に含まれているそうだ。目下絶賛製作中とのことだが、「ストイックに音楽的な作品」と語られていた内容がどのように仕上げられるのか、今から楽しみである。さまざまな経験を得て、好きな活動を行える喜びを伝えながら、彼女は多くの人との繋がりを通して「可能性をまだまだ感じられるようになった」と自信に満ちた表情で語っていた。
ライブ本編は、これぞ宇宙まおという想像力と創造性の広がりの中“愛だなんて呼ぶからだ”と“電子レンジアワー”の2曲で締めくくくり、さらにアンコールに応えて“かわいい人”と“ベッド・シッティング・ルーム”も届けられる。ツアーファイナルとなる10月20日(日)の宮城・SENDAI KOFFEE CO.では、東京公演とはまた異なる趣向を凝らしたステージになるそうなので、事情の許す方はぜひ、そのハンドメイドの宇宙を覗き込んでみて欲しい。(小池宏和)