「CUT NIGHT」lukiミニライブ/二子玉川GEMINI Theater

「CUT NIGHT」lukiミニライブ/二子玉川GEMINI Theater - All photo by 落合由夏(Ochiai Yuka)All photo by 落合由夏(Ochiai Yuka)

●セットリスト
01.サンサーラ
02.新月とコヨーテ
03.深淵の揺らぎ
04.FAKE
05.台風の目の中で
06.新曲
07.新曲
08.Thanks


「CUT NIGHT」lukiミニライブ/二子玉川GEMINI Theater
『CUT』誌によるフリーライブ&トークイベント「CUT NIGHT」が、通算5回目の開催を迎えた。前回に引き続き、東京・世田谷区の二子玉川GEMINI Theaterは満員御礼。今回の企画は「CUT編集長渋谷陽一 映画『イエスタデイ』と『THE BEATLES』を語る」、「lukiミニライブ」、「渋谷陽一×山田ルキ子 映画対談」という3部構成で、音楽とトークの濃密な2時間が繰り広げられた。

開演時間を迎えると、ROCK IN JAPAN FESTIVALやCOUNTDOWN JAPAN、JAPAN JAMといったロッキング・オン・ジャパン企画制作フェスの前説時と同様に、レッド・ツェッペリン“永遠の詩”に乗って渋谷陽一が登場。今夏のROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019では多くのアイドルグループの呼び込みを務めた経験から「ポップミュージックにおけるアイドルの存在は重要」と告げ、まずは映画『イエスタデイ』とビートルズについて語り始める。前回の「CUT NIGHT」では映画『ボヘミアン・ラプソディ』とクイーンを引き合いに、「アーティストと楽曲はそれぞれ独立した意味を持つ」という論旨を展開したのだが、今回はそれをさらに発展させたトーク内容になった。

ビートルズは世界中を熱狂させたアイドルでありながら、曲の普遍性がアーティストの存在を越えていたこと。“イエスタデイ”という名曲を生んだポール・マッカートニー本人でさえ、その後ビートルズ楽曲の普遍性を越えていないこと。映画『イエスタデイ』はまさに「ビートルズが凄いのか、曲が凄いのか」という重要なテーマに踏み込んだ作品であること。また渋谷は、彼が小・中学生だったビートルズ現役活動時、日本ではまったくビートルズ人気が巻き起されていなかったことを愚痴っぽく告げていたが、「どんな素晴らしいカルチャーも、成熟した文化的リテラシーが無ければ受け入れられない。今の日本における洋楽文化は当時の状況とよく似ている」という危機感は、とても重く切実なものであった。

「CUT NIGHT」lukiミニライブ/二子玉川GEMINI Theater

そして渋谷が呼び込むのは、この夜のもう一人の主役であるシンガーソングライター・lukiだ。サポートするバンドは円山天使(G)、山本哲也(Key)、張替智広(Dr)というお馴染みの辣腕メンバーで、目下の最新ミニアルバム『新月とコヨーテ』収録の奔放な歌心が弾ける“サンサーラ”からスタート。楽曲終盤では、luki得意の昂ぶったハーモニカ演奏も持ち込まれる。孤独と引き換えに自由を手にするタイトルチューン“新月とコヨーテ”では、まるで月の満ち欠けや潮の満ち引きのサイクルを音像化してみせたような、寄せては返す雄大なサウンドスケープのうねりに引き込まれる。

「CUT NIGHT」lukiミニライブ/二子玉川GEMINI Theater
「CUT NIGHT」lukiミニライブ/二子玉川GEMINI Theater

lukiが音楽を始めたきっかけであるハーモニカ(安価な楽器だったかららしい)について触れ、そして披露されたのは2014年のアルバム『東京物語』収録のインスト曲“深淵の揺らぎ”だ。円山によるアコギの素朴なバッキングの中、彼女は語りかけるように雄弁なハーモニカ演奏を届けてくる。ライブ体験をより濃いものにする、素晴らしいパフォーマンスだ。間断なく放たれる“FAKE”では、人生の役割を演じることの悲しみがウィスパリングボーカルの中から沸々と立ち上ってくる。また、カントリーテイストの“台風の目の中で”は、困難の中にある不思議な静けさや温かさを描くよう。複雑に入り組んだ人間の感情や思考をポップな時間芸術に変換する、lukiの真骨頂だ。

「CUT NIGHT」lukiミニライブ/二子玉川GEMINI Theater
「CUT NIGHT」lukiミニライブ/二子玉川GEMINI Theater
「CUT NIGHT」lukiミニライブ/二子玉川GEMINI Theater

さて、ライブの度に新曲を披露する多作家のlukiだが、現在は円山と渋谷の街を眼下に見渡す高層ビルの事務所(つまりロッキング・オンの新オフィスだ)で曲作りを行なっているということで、もろにその景色が反映された洒脱なアーバン・コンテンポラリーの曲調になっていたのがおもしろかった。ファンキーで味わい深い、恋の苦味が夜の街に溶けてゆくようなナンバーと、フェミニンに匂い立つスロウ&メロウなナンバーの2曲。自身の女性性を当たり前のこととせず相対化して見つめることで、lukiは女性のマインドを鮮やかに描き出している。最後には、辛い経験もすべて感謝の対象へと昇華させる“Thanks”が、コズミックなサウンドの浮遊感と推進力を帯びて放たれていった。人の心の奥ゆかしさ、そして音楽の多様性と向き合い続ける、知的であるほどにポップなライブであった。

「CUT NIGHT」lukiミニライブ/二子玉川GEMINI Theater
「CUT NIGHT」lukiミニライブ/二子玉川GEMINI Theater
「CUT NIGHT」lukiミニライブ/二子玉川GEMINI Theater

今回の「CUT NIGHT」を締めくくる3つ目のコーナーは、渋谷陽一と山田ルキ子(映画評論家としてのlukiのペンネーム)による対談だ。映画『イエスタデイ』はラブコメの巨匠であるリチャード・カーティスの脚本と、アウトローの物語を得意としてきたダニー・ボイル監督が共にビートルズファンという共通点で結びついているユニークさを指摘する山田ルキ子。一方で、渋谷陽一版『イエスタデイ』の脚本(主人公の他にもう一人ビートルズの曲を歌う人物が現れ、ある日両者が同じ曲をリリースしてしまう、という内容)が淡々と語られるのもおもしろい。次回「CUT NIGHT」は2020年の早い時期に開催予定ということで、詳細決定のニュースをぜひ楽しみにしていてほしい。(小池宏和)

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