ブリトニー・スピアーズ @ ステープルズ・センター(ロサンゼルス 現地時間4月17日)

昨年ニュー・アルバムの『サーカス』とともに、ブリトニー・スピアーズは見事完全復活を遂げた。しかし『サーカス』とは良く言ったものだ。彼女の人生、特に過去数年間はサーカスそのものだった。離婚後の2007年、彼女が坊主頭になった頃から状況は激化し、パパラッチはもちろんのこと、TVのニュース番組まで連日ブリトニーを追いかけ回していた。その後発表された『ブラックアウト』は、全米アルバム・チャートで初登場2位を記録したものの、大ヒットにはつながらず、ツアーも行われなかった。そんな彼女が復活の兆しを見せたのは、2008年のMTVビデオ・ミュージック・アウォードで3部門での受賞を獲得した時からだ。ブリトニーは、満面の笑顔で賞を受け取った。その直後、ニュー・シングル“ウーマナイザー”が、全米に旋風を巻き起こしたのだ。デビュー・シングル“ベイビー・ワン・モア・タイム”の社会現象的ヒットを思い出すほどの反響で、デビュー曲に続く全米ナンバー1シングルとなった。その後12月に『サーカス』がリリースされ、全米一位を記録した。

そして今年3月から、5年ぶりの全米ツアー、その名「The Circus Starring Britney Spears」が、スタートした。ロサンゼルス公演は4月16、17日と2夜連続ソールドアウト。チケットは150ドルで、他のロック・コンサート等と比べたら高めなのに、1万5千人収容の場内は最後尾まで満杯で、ものすごい熱気に包まれている。ここには不況の影など微塵もない。

会場中央に小、大、小と3つ連なった円形ステージがあり、メイン・ステージはカーテンで覆われている。本当にサーカスを見に来たような気分。ブリトニーと同じように少女から大人まで幅広い層のファンを持つプッシー・キャット・ドールズがオープニング・アクトとして会場を盛り上げた後、9時すぎに小ステージにダンサーが登場し、一人ずつ曲芸を見せるイントロが10分程続く。その後しばらく間が空き、期待感が最高潮に達したところでオープニング・ナンバー“サーカス”が流れ、中央の幕が上がった。ボンデージ姿やピエロの格好をしたダンサー達が踊る中、ブリトニーは天井から吊るされた輪に乗って降臨。瞬間沸騰したような会場の盛り上がりと共に、背筋がゾクゾクするほどの興奮を感じる。続いてジャケットを脱ぎ捨て、ストリッパー並みの露出度になったブリトニーが檻に入れられてステージ上をぐるぐると回される“ピース・オブ・ミー”。ショウは目まぐるしく展開し、衣装替えは少なくとも2曲毎、時には一曲毎で、その度に見せ物も変化する。ブリトニーが中央のつい立ての中から姿を消したと思ったら、次の瞬間には小ステージに瞬間移動して踊っていたりするマジックもあって、思わず口が開いちゃうサプライズが一杯。舞台演出も、スモーク、パイロ、円形スクリーンとありとあらゆるものを総動員し、曲の合間ではダンサーがマーシャル・アートを取り入れた激しいアクロバットを披露したかと思えば、シルク・ド・ソレイユのような優美な踊りも見せてくれて、興奮が冷める暇がない。ショウは4部構成になっていたのだが、「フリーク・ショウにようこそ」というアナウンスで始まった第3部で一気に過激度が加速。ブリトニーは、ほぼ裸に近い衣装で腕と足にタトゥーを施し、大きな額縁の中に立ってアートの一部となったかと思うと、そのままそのフレームと共に空に舞い、最後は空から降りて来たボンデージの男性2人と一緒に宙に上がってくるくると回ってみせた。衣装もやってることもかなり際どかったが、サーカスという設定のおかげで、沢山来ていた子供達に見せても一応安心なショウにまで昇華されていた。『サーカス』と前作『ブラックアウト』からの曲を多く盛り込んだセットリストで、昔のヒット曲に頼っていなかったのにもかかわらず、どの曲でもオーディエンスは一緒に大合唱で、会場の一体感も凄かった。本編ラストの“ベイビー・ワン・モア・タイム”はモダンな感じにリミックスされていたし、ブリトニーは今のブリトニーとして勝負し、そして勝利していた。

かつて“ウープス・アイ・ディド・イット・アゲイン”のPVで見られたようなキレのあるダンスはなかったけれど、ブリトニーがステージの端から端まで大股で闊歩するだけでも観客はクレイジーな叫び声を上げ、自分もアドレナリンが急上昇するのを感じた。ブリトニーはちょっとプリっと腰を動かすだけでも、例えばビヨンセの激しい腰ふりを遥かに超える何かを、放つことができるのだ。だから、最後まで口パクじゃないだろうと思える曲がなかったことは、正直言って問題じゃない。歌って聴かせることがブリトニーのショウの肝ではないからだ。重要なのは、壮大なサーカスのど真ん中に、何よりも強く輝く生身のブリトニーがいたということ。そしてその一挙一動で、女王様のように1万5千人を狂喜乱舞させ、完全に圧倒していたということである。“アイム・ア・スレイヴ・フォー・ユー”で「私はあなたの奴隷」と歌いながら艶かしく踊るブリトニーは、会場を「支配」していた。MCも中盤で「ロサンゼルス、元気?」と言った後にリアクションを聞いて「そんなんじゃ足りないよ、元気?」と煽ったのと、アンコールで“ウーマナイザー”を披露した後、大量の紙吹雪が舞う中で「ロサンゼルス、ありがとう! 本当にありがとう!」と叫んだ時の2回だけだったが、実際それだけで充分だった。ブリトニー・スピアーズは、最小限の動きでも、最大限の衝撃を生み出すことができるマジシャンのようなスターなのだ。そして、そんなことができるスターはどこにもいない。ブリトニーには、同時期にデビューし、グラミー賞の新人賞をさらったクリスティーナ・アギレラの超一流の実力をもってしても叶わない魔性のスター性がある。ブリトニー・スピアーズは、今世紀最大のポップ・クイーンなのだ。この次に果たして「サーカス」以上に彼女にはまるショウを創ることが出来るのだろうかという疑問も沸いたが、彼女が今後トップに君臨して輝き続ける姿を思い描くことのできる素晴らしいショウだった。(鈴木美穂)
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