東京の地下鉄の路線に合わせた全9色のカラー・ジャケットで展開された3rdシングル『メトロ』を4月8日にリリースしたtacica。このシングルを携えての全国5大都市ワンマン・ツアー『tacica ’09 TOUR “パズルの始め方”』がいよいよスタートした。彼らの地元でもある札幌での初日1公演を終え、2公演目となる今夜はtacicaが着実に成長を遂げていることを伝える力強く頼もしいアクトを見せてくれた。
まず、一音目に鳴り響いたのは坂井が叩き出したタム音だった。その一音を聴いただけで、これまでと較べても格段と成長したリズム隊の強靱な結束力を感じることができる。ずっしりとした重厚なタムドラムが地鳴りのように鳴り響き、地の底から這うように沸き立つ小西のベース音が張り詰めた空気を緩やかに振るわす。そこへ猪狩のソリッドなギター・サウンドが絡み合い、真っ赤なライトに照らされたステージからは生々しい音の塊がドドドーッと押し寄せてくるような勢いに満ちていた。
最新シングル『メトロ』はもちろん、5月13日に発売されるニュー・アルバム『jacaranda』からの新曲を数曲届けてくれたのだが、その新曲を聴いているとリズム・パターンのバリエーションがどんどん増えているのだ。3ピースである分、ライブでの表現に限りがある中、今日披露された新曲群はリズム隊が曲を牽引していくポイントが多く、「これ、tacicaっぽいよね」と言えるような表現力を確実に身につけているのが伝わってくる。CDでは壮大なストリングスを携え、新たな可能性を見出した“メトロ”が、ライブでは3人のタイトなバンド・アンサンブルで鳴らされ、最早ストリングス云々の問題ではなく、今、tacicaの鳴らしたい音がどんどん鮮明になってきていることを教えてくれる。愉しくても愉しくなくても、正しくても正しくなくても、曖昧に揺れ動く心も、答えがなくても、それでも、日々は動いていて、生きていかなければならないという事。そんな現実と向き合った猪狩の歌も伝えたいことの輪郭がしっかりと言葉になって届いている。そして、その言葉が自分達の鳴らすべきサウンドの中で確かなエネルギーとなってオーディエンスに届いている。
「ありがとう」と曲終わりに言葉を発する以外はMCはほぼ皆無の朴訥とした雰囲気はいつも通りだが、それでも今日はいつもに較べたら若干MCの数も増えたようだ。「前にリキッドルームでやった時は広く感じたんだけど、今日は広く感じない。みんなのおかげです」と感謝の言葉を述べたり、「しゃべりたいからしゃべります」とか「話したいことは沢山あって…」とか、猪狩は何か言葉でもの凄く伝えたがっていた。結局は何も話さなかったのだけど、ここ数年の制作活動とライブ活動の積み重ねで伝えるべき言葉も、猪狩自身の中で増えてきているのではないだろうか。
そんな溢れるような想いの深さと、スキルアップしてより逞しくなった演奏が、直線的に聞こえがちだった過去の楽曲をより立体的に生まれ変わらせ、見事な進化を見せ付けてくれた。また、アンコールでステージ中央にせり出しギターを掲げながら観客を煽ったり、最後の最後でマイクを通さずに「ありがとう!」と叫んだ猪狩が印象的だった。ついに放出し切れない熱を外へと発散し始めたようだ。
ツアーはあと残り3公演。ニュー・アルバム『jacaranda』発売後、5月29日(金)下北沢シェルターを皮切りに全国37都市を巡るライブ・ツアー『tacica ’09ツアー “パズルの遊び方”』も控えている。まだまだこれから得体の知れない底力を見せつけてくれそうな予感がひしひしと感じられて、今後が本当に楽しみだ。(阿部英理子)
tacica @ 恵比寿リキッドルーム
2009.04.23