桑田佳祐/横浜アリーナ

桑田佳祐/横浜アリーナ - Photo by 西槇太一Photo by 西槇太一

●セットリスト
01. それ行けベイビー!!
02. 君への手紙
03. 炎の聖歌隊 [Choir(クワイア)]
04. 男達の挽歌(エレジー)
05. 本当は怖い愛とロマンス
06. 若い広場
07. 金目鯛の煮つけ
08. 新YOKOHAMA LADY BLUES 〜新・横浜レディ・ブルース〜
09. エロスで殺して(ROCK ON)
10. さすらいのRIDER
11. 月光の聖者達(ミスター・ムーンライト)
12. どん底のブルース
13. 東京
14. 鬼灯(ほおずき)
15. 遠い街角(The wanderin' street)
16. SMILE〜晴れ渡る空のように〜
17. Soulコブラツイスト〜魂の悶絶
18. Yin Yang
19. 大河の一滴
20. スキップ・ビート (SKIPPED BEAT)
21. 悲しい気持ち (JUST A MAN IN LOVE)
(アンコール)
EN1. 明日へのマーチ
EN2. 悲しきプロボウラー
EN3. 愛の奇跡
EN4. 波乗りジョニー
EN5. 祭りのあと


桑田佳祐/横浜アリーナ - Photo by 西槇太一Photo by 西槇太一
「たいへんお待ちどうでございます! ご来場、ご足労でございます! 今年もおつかれさまでございます!」とオーディエンスに気を配りながら、ポップミュージックのピュアなエネルギーがひたすら注がれる、全編がハイライトと呼ぶべきライブ。凝り固まった心も確実に解きほぐされ、帰路に着く頃には世界の景色が少し違って見える。全国10会場20公演がスケジュールされた「桑田佳祐 LIVE TOUR 2021『BIG MOUTH, NO GUTS!!』supported by SOMPOグループ」は、各自治体や会場と協議/感染症対策を徹底しつつ開催。本稿では、12月30日の横浜アリーナ公演の模様を振り返ってみたい。

桑田佳祐/横浜アリーナ - Photo by 西槇太一Photo by 西槇太一
ソロ名義のライブツアーは4年ぶりということもあるが、サザンオールスターズとしてもソロとしても無観客ライブを繰り広げてきた中での久々の有観客ライブ。桑田は、災害やコロナ禍に苛まれた人々を幾度となく労い、「再会できてたいへん嬉しいでございます!」と告げながら、感謝の思いを溢れ出させていた。会場内の各方向に笑顔でお辞儀をして始まったライブは、最新にして初のEP『ごはん味噌汁海苔お漬物卵焼き feat. 梅干し』にも収録された“炎の聖歌隊 [Choir(クワイア)]”にかけて、じっくりと再会の喜びを共有するムードを練り上げていった。感染症対策として歓声や合唱の自粛が求められるライブ環境ではあるけれど、来場者に配布されたリストバンド型の「ナマケモノライト」が音楽とシンクロして一斉に煌めき、視界を彩ってくれる。

桑田佳祐/横浜アリーナ - Photo by 西槇太一Photo by 西槇太一
バンドメンバーは、斎藤誠(G)、中シゲヲ(G)、角田俊介(B)、片山敦夫(Piano)、深町栄(Key)、鶴谷智生(Dr)、山本拓夫(Sax)、菅坡雅彦(Tp)、TIGER(Cho)、田中雪子(Cho)という、EP『ごはん味噌汁海苔お漬物卵焼き feat. 梅干し』参加ミュージシャンも数多く含む顔ぶれ。ギターを携えた桑田の「じゃあ最後の曲でございます」という言葉にバンドメンバーがズッコケるお約束を経て、ジャジーで奔放なキーボードアレンジやホーンセクションがヒートアップさせる“男達の挽歌(エレジー)”、片山のピアノが力強く跳ね上がり、キツネ面の妖艶なダンサーたちが舞い踊る“本当は怖い愛とロマンス”など、濃厚な曲調と表現力を見せつける。優しく温かなアンサンブルで奏でられる“金目鯛の煮つけ”は、抑制された上品なサウンドであるにもかかわらず説得力が絶大だ。

桑田佳祐/横浜アリーナ - Photo by 西槇太一Photo by 西槇太一
“OSAKA LADY BLUES 〜大阪レディ・ブルース〜”は、各公演でご当地バージョンを披露してきたということで、今回は横浜あるあるネタに歌詞を差し替えた“新YOKOHAMA LADY BLUES 〜新・横浜レディ・ブルース〜”に。“エロスで殺して(ROCK ON)”から“さすらいのRIDER”という流れは、ブルージーなサウンドに哀愁が滲むさまが新旧の桑田節に揺るぎない筋を通している。そして、そもそもは桑田のビートルズ愛が注ぎ込まれた“月光の聖者達(ミスター・ムーンライト)”だが、2021年には映画『護られなかった者たちへ』の主題歌にも起用された。「高齢者になってしまいまして」と笑い交じりに語っていたものの、記憶を重ねたぶんだけ味わいと情緒の躍動感が増すのが桑田のポップソングだ。

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そんなディープなソングライティングの真骨頂と言えるのが、EP『ごはん味噌汁海苔お漬物卵焼き feat. 梅干し』でも異彩を放っていた“鬼灯(ほおずき)”だろう。とても悲しく痛ましい記憶をテーマにした歌なのに、曲調はまるでニューオーリンズのセカンドライン・ミュージックのような、残された命を励ます不思議な陽気さを湛えている。音楽が音楽であることの効力を最大限に発揮するその言葉以上の豊かなメッセージ性に、今回のパフォーマンスであらためて震えた。

桑田佳祐/横浜アリーナ - Photo by 西槇太一Photo by 西槇太一
歴史の一場面に立ち会う喜びと他者への敬意を高らかに歌い上げる“SMILE〜晴れ渡る空のように〜”以降、ライブ本編は怒涛のクライマックスへと向かう。華々しい現代型フィリーソウル“Soulコブラツイスト〜魂の悶絶”では、山本のプレイに負けじと桑田自身もブルースハープを吹き鳴らし、スクリーン上では若かりしアントニオ猪木がハルク・ホーガンにコブラツイストを決める。“Yin Yang”から“大河の一滴”(男女の逢瀬がオンラインのセリフになっているのが可笑しくも悲しい)と吹き荒れる狂おしく猥雑なムードにトドメを刺すのは、KUWATA BAND“スキップ・ビート (SKIPPED BEAT)”の爆発的なグルーヴだ。盛大な手拍子のコール&レスポンスで追い込みをかける。全身全霊のパフォーマンスで視界を煌めかせ、色づかせる“悲しい気持ち (JUST A MAN IN LOVE)”には、桑田とポップミュージックの底力を見る思いがした。

桑田佳祐/横浜アリーナ - Photo by 白石達也Photo by 白石達也
《願うは〈東北〉で 生きる人の幸せ》と歌われる“明日へのマーチ”で始まったアンコール。桑田は率先して、残り少ないライブツアーの時間を楽しみ尽くそうとしていた。唐突に金色のボールを振りかざして歌い出す“悲しきプロボウラー”。そして、カラオケスナック風ビジュアルの中でご機嫌にTIGERとデュエットする“愛の奇跡”(ヒデとロザンナ)カバーにはユッキーこと田中雪子も乱入し、カオティックな楽しさを振り撒く。「来年が素晴らしい1年になりますように、願いを込めて」と披露された最終ナンバー“祭りのあと”は、まるでたった今ライブが始まったかのような、疲れを一切感じさせない瑞々しい歌声と力強い節回しだ。歓喜を上回る、驚愕のフィナーレである。長引くコロナ禍に細心の注意を払いながらも、あの手この手で多くの人々に音楽の喜びを共有させ、最後には自らが熱狂の発火点と化す。桑田佳祐の真骨頂を見るようなステージであった。(小池宏和)


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